第5話 ゴブリン退治
寝不足だ。
俺は馬車に揺られ山道を進んでいた
依頼によるとゴブリンは街から少し離れた山の中腹にある洞窟に住み着いたらしい。なので近くまで馬車に乗ることになったのだ。
そんな事よりねむい。
理由は昨日セシリアに抱きつかれてから
すりすり攻撃をされたり
こちょこちょなどの軽いじゃれ合い
体当たりなどの激しい運動等
魔物との戦闘よりも疲れたのだ。
子供の体力は凄まじい。(俺も子供だけども)
やっと寝たと思ったら
寝言での『おにいちゃんだーいすき』
あれは駄目だ。
何度殺しに来るんだ?
頼むやめないでくれ!
…そんなこんなとがあって
ロクに寝る事が出来ぬまま
今日はちゃんとおはようをセシリアに言って朝食をいっしょに食べてから
朝早くギルドに行き馬車で出発したのだ。
◇
「まずは自己紹介をしよう。
俺はこのパーティのリーダーで
Cランク冒険者のチーゴだ
剣士をやっている
今日はよろしくな! そしてこっちが」
「俺はロンメ。
坊主 昨日はすまんかったな!
酒が入り過ぎちまったみたいでよぉ。」
「カイスだ。
リーダーのチーゴさんは爽やかな雰囲気の大人だ。まだ20代前半くらいだろうか?
それくらいに若く見え、背も高い。
顔は中性的で整っていて、知的な感じを漂わせてる。
武器は俺の身長とほぼ変わらない大きさの長剣で馬車に乗っている時でも油断無く自分の側に寄せている。
…これが冒険者か
なんかかっこいいな!
次に紹介されたのは昨日絡んで来た冒険者だった。
身長はチーゴさんよりも大きく、そのがっしりとした体躯は見るものを威圧する。
さらにその顔は小さな子供が泣いて逃げだすくらいにはおっかなく、(スラム街で育ったから俺は平気だが)どう見ても危険な人間にしか見えない。
ただ昨日はお酒に酔い高圧的になってしまったと言っていて、子供の俺に謝ってくれたのでそこまで悪い人じゃないのかもしれない。
…頭脳派では無さそうで、良くも悪くも戦士という職が似合っている。
口数少なめな最後の1人は、the仕事人といった感じで常にあたりに気を配っている。この移動中にも周辺の警戒をしてくれていた。
冒険者にとって索敵や罠の感知などが出来るシーカーは必須であり命を預ける必要がある。
このパーティに魔法使いはいない様だし彼が1人でこなしているのだ。チーゴさんが信頼している点から見ても有能であることは間違いないだろう。
「僕はルクスです。
火と光の魔法が使えます。
荷物持ちについてもスキルがあるので
問題ありませんが、
ひとつ聞いてもいいですか? 」
チーゴさんは「いいよ」と返す
「何故僕を誘ったんですか?
いくら物を収納する力があっても僕はまだ子供ですので、足手纏いになるかもしれないじゃないですか。 」
「ああ、それは君のもってる魔力の量が非常に多く、魔力回路もしっかりしていて鹿に君の魔力の残滓が見えた。状況から見て君が鹿とゴブリンを倒したんだろう? 」
「そうですね」
「そして君に目立った傷は無かったし
ロンメにも怯まなかった
のでそれなりに戦えると判断したからだ」
この人よく俺のことを観察している。
敵に回したくないタイプだな
ただ味方にいると非常に心強い。
誘いに乗って正解だったようだ。
にしても人の魔力や残滓なんてそんなに見える物なのだろうか?
チーゴさんに聞いてみた所【魔力視】というスキルを使った結果らしく、どうやらスキル【魔力感知】のレベルを上げると獲得できることのあるスキルのようだ。
そもそも【魔力感知】とは自分の魔力を広げその範囲に入った他の魔力を感じる事ができるスキルで索敵や相手の魔力の大きさなどが分かり便利ではあるのだが
大雑把でぼんやりとしか認識できない。
それと違い【魔力視】は人それぞれの魔力に色がついて見えるらしい。
これにより相手の身体に流れる魔力がわかり
相手の魔力の動きを見て対処したり
物体に残った魔力を特定したり
不意打ちを防ぐ事ができる頼れるスキルなのだそうだ。
これは覚えないといけないな。
【魔力感知】のレベルをあげなければ!
そしてチーゴさんに
「君の魔力の色は美しく輝いて見えるんだ」
そう言われたが、たぶん魔法の適正が火と光だから明るい色になったんじゃないかなと思う。もしくは俺がエルフだからとか
◇
そうこう話してるうちに目的地の洞窟まで来たようだ。
「見張りがいるな」
洞窟の入り口には
2体のゴブリンの見張りがいて
しかも武器を持っている。
通常ゴブリンは武器を持たない
なぜならそこまでの知能がないから
もしあったとしても武器を手に入れる方法までは分からない事が多い。
だが今回の場合は武器を持たせ見張りを2体配置していて統率が取れている。
これは普通ならありえないことと言える
そう普通のゴブリンであるならば。
何が言いたいのかというと今回のゴブリンの中には通常ではない個体がいるという事だ。
人間にも生まれつきの才能や階級があるように
魔物にも生まれ持っての才能や階級がある。
例えば魔法を使えるゴブリンメイジという個体が存在する。どこで覚えたのかは分からないが人間の魔法と遜色ない魔法を使うことができるらしい。
だがそれでも知能は低い分人間の魔法使いのような考えられた戦闘が出来るわけでは無いのでそこまでの恐れられてはいないが。
真に恐ろしいのはゴブリンロードなどを初めとした上位種であろう。
これは単純に身体能力が発達したゴブリンで、元々身体能力の高い魔物がさらに力をつけること。これは非常に脅威であり、人間が束になっても勝てないこともある。
階級で言えば
強い上位種ほど配下を従え、人間を軍で襲いあらゆるものを奪う。なのでこういった特殊個体には腕の良い冒険者による早期討伐が求められる。
「特殊個体がいるのは間違い無さそうだね。
まあ例えゴブリンロードがいたとしても今日はルクスがいるから大丈夫そうだな!」
チーゴさんにこんな事を言われた。
今日は荷物持ちだけじゃなかったのか…
「おいリーダー本当か?
この坊主、確かにそれなりに強そうだが
まだガキだろう。危険じゃねぇか? 」
「いや大丈夫だね。
そうだよ、ルクスくん
あの2体魔法でやっつけちゃって!」
…なんだろこの軽い感じ、もやもやするなぁ
とはいえリーダーからの指示だ。遂行せねば
「【ファイアーアロー】」
瞬時に魔法を発動させ
火矢が2本ずつゴブリンに突き刺さる。
今回も上手くいき即死させる事に成功した。
「ほらね、言った通りでしょ」
「うお!速ぇ!」
「確かにすごいな。音もたてていなかった」
「ありがとうございます」
褒められることが嬉しい。
◇
「よし、行こう!」
魔石を回収しチーゴさん達はランタンを、
俺は念の為にそこら辺に落ちていた太めの枝に魔法で火を着けたいまつとして洞窟の中に入る。
洞窟は薄暗く、いくつも枝分かれしており人間が通るには少し細い道などもある。
カイスさんによるとこの洞窟は先に広い空間があり、そこから複数の魔物の気配がするとのことだった。
気を引き締め身体に魔力をあらかじめ流しておく
「突入だ」
リーダーの合図で空間に突入する
先手必勝
初撃でファイアーアローを放ち、さらに2体を仕留めることに成功する。残りはチーゴさんがあの重そうな長剣を軽々と使いこなし、ロンメさんもこれまた重たそうなメイスでゴブリンを軽く殴り殺していく。おかげであっという間に全てのゴブリンが仕留められていた。
人並外れた動きに驚愕したが、どうやら魔法を使っているみたいだ。魔力感知で身体に高密度の魔力を流しているのがわかった。
ゴブリンを倒し終え、魔石の収集をしているチーゴさんに聞いてみた
「ああ、これのこと?」
そう言って右腕に魔力を込め長剣を軽々振るうチーゴさん
「これは身体強化だね。
俺たちみたいなんでも使える便利な魔法さ」
「寧ろこれが無かったら俺たちは何回も死んでるな!」
身体強化は無属性魔法で魔法の才が無いものでも使うことができ、レベルが低くても習得できるので戦士職につくものには必須であるらしい。なのでリーダーにやり方を教えてもらう事にした。
【身体強化】
リーダーから魔力を自分の身体に纏わせる時のイメージや感覚を教えて貰い身体強化を発動させる。
すると魔力を流した部分が軽くなったような気持ちになる。
そして体の内側から力が湧いてくる。試しに軽くジャンプしてみるといつもよりずっと高く跳ぶ事ができた。
バフってすごい
「すごいです。身体強化」
子供の身体では力が無く困る事が多いので身体強化はとてもありがたい。
それと俺は魔力の量が多く魔力操作も持っているのでバフが掛かりやすいようだ。
「大人顔負けの身体強化だね
そこまで使える子供なんて見たことないよ」
少し引き攣った顔でそう言うリーダー。
「 でも気をつけなよ
使いすぎると身体の負担になるからね」
残念
どうやら良いところばかりでは無いらしい
この小さな身体に無茶させる訳にはいかないので身体強化は少し控えるようにしよう。
ゴブリンを解体が終わり魔石を回収した2人が来た
「おーい坊主これ」
「頼む。」
「回収ですね。任せてください」
♢
俺たちはその後も順調にフロアを進んでいき、最奥のフロアの前までたどり着いた。
ここまで来ると嫌でもわかる。この先のどんよりとした空気やこの肌をヒリつかせる漂う威圧感を
「ここに強い魔物の気配が2体。
恐らくメイジと…ロード 。
通常個体もそれなりにいるし、
警戒が必要だな 」
「その2匹か〜
まぁ 大丈夫そうだね!」
敵が強そうでもまったく気にしていない様子のチーゴさん。
「勢いに任せて突入!」
「お、おい、待ってくれよ!リーダー!!」
「…」
突っ走っていったリーダーたちを見ておれは攻撃用ではない魔法を発動。
「光よ 【フロアライト】!」
そのまんまただ、あたりを明るくする魔法。
魔物は大抵光が嫌いだ。あと俺たち人間はこうした方が戦いやすいというのもある。(先ほどまで使わなかったのは、過剰に魔物を引き寄せないためである)
突然の光に目が眩んだゴブリンたちは隙を晒し次々と脱落していく。
俺もファイアーアローで援護する
ノーマル個体を粗方倒し終わると
ゴブリンロードの前にリーダーとロンメさんが、相対する。
カイスさんは残った個体を背後からナイフでトドメを指しゴブリンメイジそしてゴブリンロードの両方の隙を伺っている
つまり俺がメイジを相手しなきゃいけないってことだろう。
【ファイヤーボール】
俺の放った火球がゴブリンメイジを襲う
だがそれはゴブリンの水属性展開型魔法ウォーターベールで防がれてしまった。
まあこれは予想通り。弾速も遅く、魔力も大してこめていない火球が防がれるのは分かっていた。
「【マッドショット】!【マッドショット】!!」
ゴブリンメイジの展開した水壁に被せるように土砂を含ませる。すると不純物が入った魔法の制御が効かなくなり、水壁は崩れた。
そしてゴブリンメイジが戸惑っている隙に
【ファイアーランス】!
今度はしっかりと魔力を込めた火槍がゴブリンメイジを貫いた。
「…お前いまもの凄いことしなかったか?」
いつでもメイジを倒せた様に隙を伺っていたカイスさんが俺の隣に来てそんなことを言う。
「そうですか?速度特化の火矢ではレベルの低い俺では倒せななそうだったので」
「いやいやそうじゃない!
あの戦い方はなんだ!?
裏から仕留めようと思ったらお前は何故か土を被せたよな?そして次の瞬間には倒れたんだぞ!?」
と興奮した様子で話すカイスさん
今回の戦いは相手に攻撃をさせず手数で押し切ることを目標としていた。
なので最初に弱い火球で相手の防御を誘発し、
水、風、火属性ならば先ほどのように土砂を混ぜて崩す、地属性の防壁は発動が遅いので周るようり動きつつ速度特化の火矢で対処という具合だ。
魔法を展開しておくのは魔術師でも鍛練がいる。
そんなところに不純物を入れれば簡単に崩れるのだ。 この解説を聞いてカイスさんはさらに顔をしかめた
「そんなことよりゴブリンロードを倒しましょう」
「…確かにそうだな 俺は奴の背後を取る
お前は好きなようにやれ」
「了解です。
【マッドショット】」
ゴブリンロードの顔面に土傀をくらわせる
視界を塞がれ口の中に入ったのでさぞ気持ち悪いのだろう、もがき苦しんでいる所にロンメさんが肩に強烈な一撃を、そしてチーゴさんが腹を切り裂いた、更に後ろからカイスさんかが足を切付けたことにより膝かっくんのような体制でゴブリンロードは後ろに傾く。
「トドメはもらいますね
【ファイアーアロー】」
火槍は腹の傷から貫いた
魔物の生命の源である魔力が消えた
「…ははは勝ったな」
「ここまであっさりしたもんだとはよぉ」
「これもルクスのお陰だな」
「そんなことはないですよカイスさん」
「はは、そうかよ」
カイスさんは今日初めて笑って言った
この日の冒険はここで終わった。
冒険者は不思議な職業だ。命をかけて戦っているのにこんなにも楽しそうなのだから
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