第2話魔術師の飲み会
市役所職員5人と共に酒を飲む神田副市長。
副市長は、市役所福祉課長だったこともあり、今夜は福祉課の連中と飲んでいる。
店員の折田らが、テーブルにどんどん料理を運んでくる。
鯉の洗いに酢味噌をたっぷりと付けて食し、ビールで流し込むのか、神田流。
豚足も運ばれて来た。ここの豚足は味噌で柔らかく煮込んであるので、ゼラチン質の豚足の肉がとろける様に骨から外れる。
しばらく、一同は食べるのに夢中になっていたが、女性職員が性的マイノリティー問題に付いて話し始めた。
来春から、この街はパートナーシップ制度を導入する。
それには、神田副市長の努力が見え隠れする。
まだ、全国で200程度の自治体しかパートナーシップ制度は設けていない。
これは、親権が持てないこと、財産分与の権利が無いこと弱点と、同性婚は認めていないのが日本の法律。
「性的指向に付いては、よく性的嗜好と勘違いされるが、指向と嗜好の意味は全然ちがうからね。だけど、うちの市議連中は頭が固くてさ」
と、神田は漏らした。
職員は上は40代の女性から20代の男性もいた。だから、幅広い年齢層からの意見を神田は聴いている。
ビールの後は、芋焼酎。20代の男性職員がお湯割り作り係になっている。
お湯割り作り係は、この田舎では一番年下の仕事。
その代わり、一番年下のヤツは先輩の奢りで飲む事が出来る。
この男性職員は、焼酎とお湯の個人の割合を知っているので、スラスラとお湯割りを作る。
最初は、いちいち割合を尋ねなければいけない。
そして、グラスが空くと、黙ってすぐにおかわりのお湯割りを作る後輩は将来出世する。
神田副市長も、初めはお湯割り作り係だった。
すると、女将の凛が保育園年中さんの息子と今年から保育園児となった娘を神田副市長に見せた。
これは、神田個人の人間性を試されているのではない。たまたま、連れてきたのだ。
神田はバッグの中から、
「こんな事を予想していてね。ボク、グミ食べる?」
と、男の子に声をかけると、
「うん」
と、言った。神田は、果汁グミを男の子に渡した。男の子は、
「おじちゃん、ありがとう」
「ほら、君にもあげよう」
と、女の子にもグミを渡した。
凛はお礼を言って去って行った。
「副市長、まさかグミなんて渡すつもりで持って来たんですか?」
と、若い女性職員が言うと、
「マジシャンと同じさ。いつ、どこで、誰かと会うのは予想してるのさ。子供を連れて来なかったら、凛ちゃんに渡すつもりでいたよ」
「さすがです」
と、職員一同は感心した。
「おっと、もう22時だ。次行くぞ!」
と、神田は言った。
男性職員は、タクシー会社に手配の電話を入れ始めた。その間に神田は支払いを済ませた。
副市長御一行様は、居酒屋千代を後にした。
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