転生地獄道~安易で安泰な異世界転生希望など認めねぇ~

楠本恵士

第1話・死んで花実が咲くわけねぇだろぅ

 オレの名前は葛道 海星くずみち ひとでおまえらと同じ高校生だ。

 オレは、その日、決めた。

「これからイベント感覚で死んで、理想の異世界転生ライフを送ろううぅ」

 自堕落な異世界転生、努力なんてバカバカしい、楽してチート能力で最強無双。

 ざまぁ、オレつえぇぇぇ、謝っても許してなんかやらねぇぞ。

 美女を集めて、オレだけの夢のハーレムだぁぁ。


「きっと異世界転生したオレには、すげぇ力が秘められていて。その覚醒した力で他人の女を奪ってオレのモノにして……ふふふっ」

 オレの異世界転生妄想は続く。


「そんでもって、転生前のこっちの世界の知識を持ったまま。自堕落なスローライフ生活で異世界のバカな種族から羨望を集める……最高!」

 オレは、今まで異世界転生ラノベで得た知識で、妄想と理想の異世界転生を頭の中で広げた。


「異世界転生するためには、テンプレ的に一回死ななきゃならないのか……よし、死のう」

 オレは、車道を走ってくるトラックの前に飛び出して、撥ねられて死ぬ『トラ転』をしてみるコトにした。


 歩道に立ったオレは、飛び込む車両を品定めする。

「今の自動車、楽しそうな家族連れが乗っていたな遊びに行く途中なのか? ああいった幸せそうな車の前に飛び出して、子供の顔を歪ませてみるのもいいな……商業車のミニバン、軽トラ、バイク、自転車……どれもパッとしないな」

 どんな車の前に飛び出して異世界転生するか、迷っているオレの前をパトカーと、土砂を積載した土木トラックと、アニメ絵が車体に描かれた痛車が走り過ぎていく。


「う~ん、パトカーだと飛び込んで失敗したら、理由をいろいろと聞かれそうだし……『異世界転生するために車道に飛び出しました』って言うのも怒られそうだし……トラックはぶつかったら、他の車両に比べて痛そうだし……痛車にひかれて異世界転生ってのもなぁ」


 そんなコトをアレコレ考えていたオレの目に、異世界転生でぶつかるには、ちょうどいいサイズの物流トラックがこちらに向かって走ってくるのが見えた。

「待った甲斐があった、あのトラックにしよう」

 タイミングを見計らって、車道に踊りながら飛び出すオレ……迫るトラックの前面。

 さぁ、オレを異世界転生させてくれ!


 急ブレーキの音、キキキィィィィ……走ってきたトラックは、オレの少し前で停止した。

(チッ、急停止しやがった……ついてねぇな)


 オレが舌打ちしていると、運転席から憤怒の形相で降りてきた、トラックドライバーの女が、オレの頭を拳でぶん殴った。

「いてぇ、死んだらどうするんだ!」

 作業服姿の女は怒りの形相で、オレの頭を連打しながら怒鳴った。

「ふざけるな! 時間内に荷物届けなきゃならねぇんだよ! てめぇ、異世界転生するためにトラックの前に飛び出してきただろう。最近、おまえみたいなのが多くてトラック業界は迷惑しているんだよ!」


 女性ドライバーはトラックに常備しているホウキを持ち出してきてくると、さらにオレの頭を殴った。

「ドライバーにだって、生活があるんだよ! 異世界転生希望者のアポな遊びにつき合っていられるか! ボケェ」

 ドライバーは、オレの頭を好きなだけホウキで殴ると、トラックに乗り込んで走り去っていった。


  ◇◇◇◇◇◇


「イテテテッ、あのトラック会社の悪口、SNSに書き込んでやる……異世界転生希望者に、もっと優しくしろってんだ。しかたがない、駅のホームから走ってきた電車に飛びこむ『鉄転』するか」

 オレは場所を移動して、近くの駅へと向った。

 駅のホームに立って、白線の外側で線路を見ながら電車が来るのを待っているオレに、駅員が声をかけてきた。

「あなた、異世界に転生目的で電車が来るの待っているでしょう……そういうの、困るんですよね」


 嫌そうな顔の駅員の説教がはじまった。

「異世界転生目的で、電車に飛びこむパカな人身事故も、事故件数全体の数割に含まれているんですよ……中には異世界勇者の格好をして飛び込むパカもいる……人身事故で運行ダイヤ乱れて、こちらとしては大迷惑なんですよ……飛び散った肉片集める身にもなってください」


 オレは、駅員の説教がムカついたので反論する。

「異世界転生くらいでゴチャゴチャ言うなよ……死ぬのはオレの自由だろう」

 駅員の目が、冷たい目に変わる。

「そうですか……電車の運転手の中には、ホームで異世界転生希望者に飛び込みされて。そのショックから退職した者もいるというのに……あなたが、鉄転する決意を変えないのなら。こちらにも考えがはあります……みなさーん、この人! 電車に飛び込んで異世界転生しようとしていますようぅぅぅ」

 駅のホームにいた男女が一斉にギロッと、オレを睨む。

「なにぃ、異世界転生だと!」

「ふざけるな!」

 走ってきた男女が、オレを殴る蹴る。


「この、現実逃避者がぁ! なにが異世界転生だ!」

「あたしだって、必死に毎日生きているんだよ! このこのこの、人間のクズがぁぁ」

 殴る蹴るの集団暴行に、オレは悲鳴を発する。

「やめろぅ、殺されるぅ!」

「それが、本望だろうがぁ! 異世界転生希望のボケェがぁぁ」

「この野郎、死んで異世界に……あっ、それじゃマズいのか。生きろ、辛い現世を精一杯生きろ!」

 オレは慌てて駅から逃げ出した。

「ひぃぃぃぃ!」

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