第38話:クォッカの陰謀

「ほら、クォッカ。さっきの自信はどうした?」


 確かに。

 ララティが次々と繰り出す攻撃魔法に、クォッカは防戦一方。防御魔法を駆使してララティの攻撃を受けているが、押されて後退気味だ。

 時々は攻撃を放つけど、ララティに軽く受け流されている。

 

 ララティは調子に乗って、どんどん色んな攻撃魔法を放ってる。

 そしてクォッカは相変わらず防御したり逃げ回るだけ。


「貴様、逃げてばかりだな。情け無いと思わないのか?」

「うう……くそっ」


 ララティの挑発にも、男は悔しそうに唸るだけ。

 こんなにまで力の差があるとは。

 こりゃ楽勝だな。さすが魔王の娘だ。


 ──と思っていたのだけれども。


 思いの外戦いが長引いている。

 クォッカの逃げ方が巧妙なのか、なかなかダメージを与えることができない。

 攻撃を繰り返してるうちにララティは疲れてきたのか、徐々に魔法の威力が弱まってるように見える。


「大丈夫かララティ!」


 少し離れたところの彼女に声をかけた。


「だ、大丈夫だよ……ハアハア」


 肩で息をしている。

 明らかに疲れてる。


「フフフ。かなり魔力が消耗してきたな」

「なんだと?」

「こんなのはどうだ?」


 クォッカが急に手のひらから細かな光の粒を放った。

 それまでまったく当たらなかったヤツの魔法が、とうとうララティの身体を捉えた。


「うぐぅっ……」


 衝撃を受けて表情を歪ませるララティ。


「だっ、大丈夫かララティ!?」

「大丈夫だ。心配するなフウマ」

「ふふふ、本当に大丈夫かな? ならばこれはどうだっ!」

「危ないララティっ!!」


 クォッカの手から出た光の粒が大量にララティの身体を取り巻くように浮いていて、それらがクォッカの掛け声と共に一気にララティの身体に降り注いだ。


「ぐぉぅっ!」

「ララティっ!」


 ララティが苦しげな声を上げた。


 彼女の身体を取り巻く光の粒。

 ララティの身体から白い気のようなものが立ち昇り、光の粒がそれを吸収していく。

 なんだあれは!?


「ほらほら魔王の娘よ。お前を守っていた防御魔法がどんどん弱まっているのがわかるか? お前の体内の魔力がどんどん奪い取られているのがわかるか?」

「なんだと?」


 ララティは自分の全身に目を向けて確認してる。

 そこでハッと何かに気づいたような顔をした。


「くっ……やられたな。魔力を消耗させる特殊な結界か」

「ふふふ。ようやく気づいたか」

「なるほど。今まで気づかなかったよ」

「ワシの作戦勝ちだな。ワシの魔力を高める結界を表に出して、お前の魔力を消耗させる結界の気配を隠したのだよ」

「あたしはそれに気づくこともなく、魔力を消費する魔法をどんどん発動してたってわけか」

「そうだ。あははバカめ」


 なんだって!?

 ヤバいぞララティ。


 俺の身体はさっきの戦いでボロボロだ。全身痛くて動けない。

 だけどそんなことを言ってられない。

 身体にムチを打って立ち上がり、ララティの元へと走る。


「来るなフウマ。危険だ」


 駆け寄る俺を手で制するララティ。


「なに言ってんだ。それを言うなら、ララティだって危ないだろ。放っておけるかよ」

「フウマ……」


 ──ん?

 ララティの顔が真っ白だ。

 魔力を消耗させられたからと言って、こんな風になるか? ならないよな。


「どうしたララティ。体調が悪いのか」

「いや……そうじゃない」


 言って額の汗を手で拭う彼女の手の甲が目に入る。

 なんだこれは。『眷属の証』が、かなり色濃くなっている。


「ララティ! それ、どうしたんだ?」

「眷属の呪いが進行してる」


 なんだって!?


「あたしの魔力が急激に低下したせいで、今まで呪いの進行を遅らせていた効果が薄れてる。くっ……マズいな。呪いが急速に進行してるぞ」

「どうなってるんだ?」

「あと2日後のはずだったが、もうすぐ自我亡失しそうだ」

「もうすぐっていつだよ?」

「ホントにもうすぐだ」


 手の甲の紋様を凝視しながらそう言うララティの顔は、さっきよりもさらに正気が失われている。


「大丈夫かララティ」

「…………」

「ララティ?」

「…………」

「ララティ!?」

「……ん? どうした?」


 ララティはボーっとしてる。意識が朦朧としてるみたいだ。

 これは……めちゃくちゃマズいんじゃないか?

 早く……早く眷属の呪いを解除しなきゃ!


 俺は慌てて右手をララティの前に掲げて呪文を唱えた。


「彼女にかかりし呪いを祓いたまえ……『呪いを祓う強力な魔法アウストレーベン』!」


 しかしまったく効果がない。


呪いを祓う強力な魔法アウストレーベン』!」

呪いを祓う強力な魔法アウストレーベン』!」

呪いを祓う強力な魔法アウストレーベン』!」


 焦って俺は連続して解除魔法を唱えた。

 ダメだ。一向に効果がない……どころか、どんどんララティの顔から生気が失われていく。


「ララティ! ララティ!」

「そんな悲しそうな……顔をすんなフウマ」


 どうしたらいいんだ?

 このままだと、本当にララティの自我が無くなってしまう。

 嫌だ。そんなのイヤだ!

 でも、どうしたらいいかわからない!

 どうしたらいいのか……


 ──あ、そうだ!


 俺は大事なことを思い出した。

 ララティは言ってたじゃないか。


 眷属の呪いを解除する手段は、術者が強力な魔力を持って解除魔法をかけること以外に、もう一つあった。


 それは術者──つまり俺が死ぬことだ。

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