第14話:魔法の暴走
「おい、ブゴリ! 大丈夫か!?」
仰向けに倒れたブゴリに、ツバルが駆け寄った。
「あ痛ぇ……」
胸を押さえながら小太りブゴリがヨロヨロと立ち上がる。
「フウマ! お前何をした!?」
ツバルが睨んでる。
「いや、何をって……突風の攻撃魔法を使っただけだけど?」
「じゃあなぜブゴリが吹っ飛んだ? いつものお前の魔法なら、ブゴリはびくともしないはずだ」
俺はいつもどおり魔法を発動しただけだ。
それは……知らんがな。
「フウマの弱小魔法でそんな威力が出るのはおかしい。なにか変なズルいことしたんだろ?」
「なにか変なズルいことって、なんだよ?」
「いや、それは……」
なにが原因かはわからない。だけど俺は何もズルはしてない。
「待ってくれよ。俺はホントにズルなんてしてない」
「それはどうだかな。信用できない」
俺は魔法の才能がなくて、落ちこぼれなのは認める。
だけど今まで真面目に勉強に取り組んできたし、ズルをするなんて一番嫌いなことだ。
──くそっ。そんなふうに疑われるなんて!。
悔しくて身体が震えそうになった時。
まるで天使のような、いや天使の声が聞こえた。
「なに言ってるのツバル。私はずっと見てたけど、フウマはズルなんてしてないわ」
それはマリンだった。
「ああ、マリン。ありがとう」
マリン・モンテカルロ。
ツインテールにした赤いロングヘアの美人。抜群の容姿。
3大貴族の一つ、モンテカルロ伯爵家の一人娘。家柄も抜群。
そして弱い者を庇おうとする優しい性格も抜群。
さらに黒魔術を得意とするクバル魔法学院のエリート。成績も抜群。
いったい、天は彼女に
「くっ……」
ツバルが顔をしかめてる。女好きなヤツだが、その中でもマリンはダントツにヤツのお気に入りだ。
わかる。俺みたいな平民で落ちこぼれな男が、マリンにかばわれたら、そりゃムカつくのはわかる。ごめんて。
「おいフウマ。いい気になるなよ」
「いい気になんてなってない」
でも本当にズルしてないんだから、俺は悪くない。
そんな怖い顔のままで近寄って来ないでくれ。
「おい、キミ達。何を揉めてるんだ? 早く対戦の続きを進め給え」
やば。ブラック先生に陰気な声で叱られた。
でも助かった。ツバルが目の前まで迫ってきたけど、立ち止まった。
マリンも対戦相手に向き直して、魔法を放つ予備動作に入ってる。
彼女は雷の攻撃魔法を繰り出すようだ。
マリンのは攻撃力が高いから、当たったらシャレにならないんだよなぁ。
──え?
突然、闘技場全体が、なにかどす黒い気配に包まれた気がした。
空間が捻じ曲がるような感じだ。気のせいか? いや──
「なんだこれ? 魔法が変な方向に!」
みんなが放った魔法が、空中で軌道がねじ曲がって、天井や壁にぶつかっている。
なぜか魔法が暴走している。
危うく身体に当たりそうになって、身をねじって避けている者もいる。危ない!
「うわっ、制御が効かない!」
「きゃーっ!」
あちこちで悲鳴が上がっている。
なんだこれは!? ヤバいぞ!
その時マリンの叫ぶ声が聞こえた。
「危ない! ツバルよけて!」
振り向くと、彼女の手から放たれた雷の魔法が、空中で何度も軌道を変えながら、俺の目の前のツバルに向かってるのが目に入った。
やばい! このままだとヤツに当たる!
俺は考えるよりも先にツバルの前に飛び出した。
胸から全身に衝撃と痺れが広がる。それは頭にも広がり、一瞬で目の前が真っ暗になった。
「おいフウマ、大丈夫か!」
「フウマ! 私のせいでごめんなさい!」
ツバルとマリンの声が遠くで聞こえた。
ツバルはケガが無いようだ。
別にツバルが痛い目に合うのはいい。
だけど攻撃力の高いマリンの魔法で、ツバルがケガをするのは避けたいと咄嗟に思った。
そんなことになったら優しいマリンは罪悪感に
だからツバルが無事でホッとした。
そんなことをぼんやりと思いながら、俺は意識を手放した。
***
目が覚めた。白っぽい天井が見えた。寝ているベッドは少し硬い。
ここはどこだ?
「フウマ、大丈夫?」
「……え?」
うわ、びっくりした。
横を見ると、なんとマリンの顔が近くにあった。
大きくて美しいブルーの瞳。近くで見ても、やはり相当美しい。
ベッドの上で上半身を起こして周りを見た。壁も床も白っぽい部屋だった。
ここは医務室だ。
俺が寝ていたベッドの右側にマリンが立っている。
反対側はカーテンで仕切られて、もう一つベッドがあるスペースだ。
「あ、うん。大丈夫だ」
身体をねじってみたが、どこも痛くない。
「当然だ。ウチの治癒魔法は完璧なのよ」
奥から医務担当のフラワ先生が、ウンウンとうなずきながら現われた。
この先生は金髪に赤ブチメガネ、そしていつも白衣を着ている。
治癒系魔法の腕は確かで、授業でケガをすることも多い魔法学院の中にあって、多くの生徒がいつもお世話になっている先生なのである。
それにしても……腕を組んでるもんだから、白衣の胸の部分を押し上げる巨乳がさらに強調されて目の置き所に困る。
「まあもう少しここで休んで行ったらいい。落ち着いたら授業に戻りたまえ」
「あ、はい。ありがとうございます」
フラワ先生が部屋の奥にある別室に消えて行った後も、マリンはベッドの横に立ったままでいる。
「もしかしてマリン、俺が眠っている間中ずっと付き添ってくれていたの?」
「ええ、もちろん。私のせいでフウマがケガをしたんだし、それに……」
まつ毛の長い美しい瞳でじっと見つめられてドキリとした。
今まで俺は、この学院ナンバーワンの人気女子と、親しく話をしたことすらなかった。
その彼女が、俺のためにわざわざ付き添ってくれていたなんて、あまりにもったいなさすぎる話だ。
もしかして今日が俺の人生で、ピークだとか?
今後の運は、落ちていく一方だったら嫌だな。
「フウマはきっと私のために、ツバルを守ってくれたんだと思って。だからお礼も言いたかったの。本当にありがとう」
「いや別にマリンのためとか、そんなじゃなくて……」
「フウマは頭がいいからわかってると思うの。ツバルはああいう人だけど、この地を統治するクバル家の次男。だから彼に大きなケガをさせるのは、いくら三大貴族の家系の私でもマズい。そう思ったんじゃない?」
そう言ってマリンはニコリと微笑んだ。
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