第12話:レムンが獣人化
いったい何が起きたのか。
気がついたら妖狐フックスのレムンが獣人化していた。しかも小顔でスタイル抜群の、めちゃくちゃ可愛い女の子。
「うっわ、しまった。つい魔力を流し込んでしまった……」
ララティが頭を抱えてる。
「ララティ。魔力を流し込むと、魔獣って獣人化するもんなのか?」
「いや、誰でも魔力により獣人化するわけじゃない。非常にまれな現象だ」
「そうなのか?」
「レムンの体質とあたしの魔力の相性が、たまたま合ったせいだろうな。それと……」
「それと?」
「レムンが獣人化したいという想いが強かったんだろう」
「そうなのか?」
俺はレムンに問いかけた。
「……はい、その通りですわ。私はこうやってフウマ様とお話しできたらいいなぁって、ずっと思ってました」
「そっか」
確かに俺もレムンと話せたらいいなって思ってた。
「フウマ様に命を救っていただきました。それだけじゃなく、その後もこうやって愛情たっぷりにお世話いただいております」
目をキラキラ輝かせたケモ耳の可愛い女の子。
その子がそんなことを言ったら、言われた男子はどうなると思う?
答えは──
「こらフウマ! なにをニヤついてるのだ! 情けないだろ!」
ララティに背中をバシンと叩かれた。
「いってぇ~っ! なにすんだよ?」
俺だってニヤニヤしてるのは自覚してる。
仕方ないだろ。健康的な男子ならそうなるのが当たり前だ。
「フウマの目がスケベすぎるのが悪い!」
──あ。ララティって案外生真面目なんだな。
スケベな男子は許せないタイプか。
「ララティ様、やめてください! 私のフウマ様になにするんですか!」
「……は? なんでレムンのフウマなんだ?」
「いえ、それは言葉の綾ですが。それくらいお慕い申し上げてるってことですわ。別にララティ様には関係のないことだから、いいじゃないですか」
「あたしに関係ないだと?」
「はい。私とフウマ様の関係がどうであろうと、ララティ様には関係ないですよね?」
「うぐぐぐ……」
うっわ、なに、この険悪な雰囲気?
しかも魔獣に言い込められてる魔王の娘ってどうよ?
やっぱララティが魔王の娘だなんて、嘘なのでは?
「はい、論破しましたぁ。それではララティ様は黙っててくださいね」
「貴様、あたしの魔力のお陰で獣人化したくせに、あたしに感謝の気持ちはないのか?」
「それは感謝してますわ。してますけど、さっきララティ様は魔獣語で私に酷いことを言いましたよね?」
さっきの訳の分からない言葉は、魔獣語だったのか。
「ララティは何を言ったんだ?」
「私のことを泥棒猫と」
どういう意味で言ったのかわからないけど、それは酷いな。
「私は猫じゃなくて
──そこかっ! そこなのかっ!
うーむ……魔獣の気持ちは、俺にはイマイチわからない。
「そりゃ、すまなかった。だけど貴様、フウマにベタベタしすぎだぞ。フウマは困っておろうが」
「……あ。申し訳ありませんフウマ様。私ったら話せるようになったことが嬉しすぎて、ついフウマ様の気持ちに思いが至りませんでした。勝手に『私のフウマ様』なんて言って、大変申し訳ございません」
レムンが大きく頭を下げた。
代わりに、フサフサした尻尾がぴょこんと持ち上がる。
──あ。尻尾あるんだ。可愛い。
「あ、いや。大丈夫だ」
うんうん。レムンが可愛いすぎて全然大丈夫。
なんてうなずいていたら、カナの絶叫が聞こえた。
「ただいま~……って、えええ? 誰っ!?」
「お帰りカナ。この子はね、なんとレムンが獣人化したんだよ」
「えええぇぇぇ~っ!? ホントに!?」
「はいホントですわ」
「うっわぁぁぁ~っ! か、可愛いぃぃぃ~!!」
カナはとても嬉しそうに、レムンに駆け寄って抱きついた。
「ありがとうございますぅ!」
レムンも嬉しそうだ。
それにしてもカナはまだ10歳とは言え、レムンが獣人化したなんてことをすんなり信じるなんて。
あまり素直すぎてお兄ちゃんは心配だぞ。
「なあカナ。獣人化なんてホントのことなのか、疑わないのか?」
「だってお兄ちゃんが真剣な顔で言ったんだもん。もちろん信じるよ」
おおおお、妹よ!
なんて可愛いこと言うんだ!
「フッ……」
ララティがなぜかクールに笑った。
「まあカナもこんなに喜んでることだし。まあいいか」
ボソリとそんなことを言う。
ララティも、やっぱいいヤツだ。
その夜はレムンも交えて4人で食卓を囲んだ。
さすがに女の子が3人もいるとやかましい。
ついこの前まではカナと二人きりの落ち着いた生活だったのにな。
「おいフウマ。なに、ぼーっとしてるんだ? 料理が冷めてしまうぞ」
「あ、ああ。そうだな」
「遠慮せずに食え」
「はあ? この料理は俺が作ったものだ。なに偉そうに言ってるだよララティ」
「あはは、冗談だよ。とにかく早く食え」
ララティが皿から鶏肉を手で取って、いきなり俺の口に突っ込んだ。
「うぐっ……」
俺が変な顔をしたのを見て、三人が「あははは」と笑い声を上げる。
まあ、騒がしくはあるが。
こういうのはあったかい感じがして、いいな。
──そう思った。
= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。
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