第7話:校内見学
ララティはとても整った顔をしているが、割と童顔だ。
スリムな体型で、白と黒を基調とした我が学院の制服がとてもよく似合っている
う~む……見ようによっちゃロリっぽいな。
ホントは恐い魔王の娘のはずが、今はツノを隠してることもあって、なんだかとても可愛く見える。
そんな見た目もあって、早速クラスの女子達からも可愛がられているようだ。
休み時間の度に女子たちに囲まれ、ワイワイきゃいきゃいと、色々質問攻めに合ってる。
彼女が実は魔族だってことは、決して誰にも言わないように、さっきアドバイスをした。
平和なこの街では、魔族を見かけることなんてほとんどない。もしも本当のことをカミングアウトしたら、学院中がパニックに陥る可能性が高い。
ララティは「はい、わかりました」ってうなずいていたし、実際にその通りにしているようだ。
やっぱ案外素直な性格なんだな。
そんなこんなで一日の授業が終わり、放課後になった。
さっきの話だと、俺がララティに学校内を案内するってことになっている。
正直勘弁してほしい。
ララティは美人だし目立つ。俺が案内して、好奇の目に晒されるのは嫌だよ。
クラス委員長のツバルの方が適任だよ。
──とは思うが、ララティは魔王の娘だ。
もしもツバルが案内をして、彼女の気分を害するようなことがあったら、もしかしたらツバルが殺されるかもしれない。
ここクバル領は、我が王国でも大事な拠点の一つだ。その次男坊が魔族に殺されようものなら。
──魔族と王国の全面戦争になりかねない。
『俺が好奇の目に晒されるのが嫌だから』という理由きっかけで、魔族と王国の戦争が起きました……なんてことになったら、やっぱシャレにならないよなぁ。
だから仕方なく、渋るツバルをなんとか説得して、ララティの案内役は俺が務めることにした。
ツバルは俺が『いいとこ取り』をしようとしてると勘違いして睨まれたけど、今は仕方ない。
ということで、ララティを連れてメインの校舎を案内する。まずは大食堂へと彼女を案内することにした。
彼女と並んで廊下を歩いていると、やはりと言うか、すれ違う人がみんな興味深そうに彼女を見た。
そして見比べるように俺を見たあと、残念そうな顔になるのはなぜだ?
──まあいい。気にしないでおこう。
そして食堂に着いた。
「ここが大食堂。カフェテリア方式になってるから、トレーを持って、カウンターで好きな料理を注文するんだ」
「ふむ。そういうのをカフェテリア方式と言うのだな」
「なるほどね。わかりやすい説明ね」
──ん?
ララティと違う女性の声が聞こえた。
「……って、マリンっ! なんでここにっ!?」
「うん、興味深いからついて来たの」
「なるほどねって、マリンはここの食堂は知ってるだろ?」
「もちろん。フウマの説明が上手だなぁって思って聞いてたの」
「貴様は誰だ?」
うっわ。ララティがなぜか、もの凄く機嫌悪そうな顔をしてる。
どうしたんだ?
「私はあなたと同じクラスのマリンよ。よろしくねララティさん」
「ふむ。フウマはあたしを案内してくれてるのに、邪魔しないでほしい」
「別に邪魔なんかしてませんよ」
「してるではないか」
「……あ、
「……は? 妬いてる? あたしが? なんのために?」
ちょっと待って!
ララティの赤い瞳とマリンの青い瞳の間に、バチバチと火花が散ってるような気がした。
──バチバチっ!
いや、比喩じゃなくてマジで火花散ってるし!
ララティは魔族だし強力な攻撃系魔法使いだ。
一方のマリンも学院屈指の攻撃魔法使い。
二人とも黒魔術の魔力がバカ高くて、特になにか魔法を詠唱したわけでもないのに、睨み合ってるだけでバチバチと魔力がぶつかり合ってるんだ。
──ひえぇぇ! こっわ!
俺みたいな落ちこぼれ魔術師が、近寄っちゃいけないヤツだよ、これ。
「なあ、キミ達! マリンも居たんならちょうどいい。やっぱり僕もララティの校内案内に参加するよ。だって僕はクラス委員長だからね!」
爽やかな声と共に、突然ツバルが現れた。
「「……え?」」
睨み合ってたララティとマリンが揃ってツバルの方を向いた。お互いに目から放出されていた鋭い魔力が、ツバルに向かう。
──バチンっ!
二人の魔力がツバルの顔面を直撃した。
「ピエっっっぅぅ」
言葉にならない言葉を発して、ツバルはもんどりうって倒れた。
「お、おいツバル! 大丈夫か!?」
白目を向いて倒れてる。
ツバルって魔法の実技はとても優秀だ。
なのに、やっぱ不意を突かれるとこうなっちゃうんだな。
「ぐぐぐ……」
痛そうに頬を押さえてツバルが立ち上がった。ケガはなさそうでよかった。
「ああっ、ごめんなさいツバル!」
慌てて謝るマリン。
ララティは何が起こったのかわからず、ポカンとしてる。
「ララティ、ツバルに謝れ」
悪気がないとは言え、痛い思いをさせてしまったことは事実だ。
だから俺はそう言った。
「はい、わかりました。ツバルさん、ごめんなさい」
「……え?」
さっきまで怒りの感情を放出していたララティがえらく素直に謝ったもんだから、マリンは驚いた顔をした。
「あらあなた。案外素直なのね。それともフウマに言われたから、素直に従ったのかしら?」
「くっ……それは……」
「あら、やっぱりそうなのね」
あれ?
なんでマリンが俺の方を向いて、不機嫌そうに睨んでるの?
俺、別に悪いことしてない……よな?
そもそもララティが、俺の言うことだから素直に聞くなんて、ないでしょ。
彼女は魔王の娘だぞ。俺は落ちこぼれの人間だぞ。
ララティが俺を友達と思って信頼してくれてるなら、それはまあ嬉しいけど。
「くっ……眷属の……」
──あれ? ララティも何やらブツブツ言いながら俺を睨んでる。なんで?
「ほう。ララティはフウマの言うことなら素直に聞くのか? それは聞き捨てならないな」
──うわ、ツバルも俺を睨んでる!
このシチュエーション、最悪じゃね!?
「えっと……とにかく校内見学の続きをしようよ」
最悪の雰囲気の中、逃げるようにそう言ってみた。
「あ、そうね。ララティさんのための校内見学だったわ。私としたことがごめんなさい」
マリンが笑顔で返してくれてホッとした。助かった。
「ツバル、ララティさんの案内をお願いね」
「おう、任せとけ!」
「じゃあフウマ。ツバルがララティさんを案内してくれてる間、私たちはここでお茶を飲みながら待ちましょうか」
「……あ、はい」
満面の笑みのマリンだけど、その視線の圧が強すぎて、思わず素直に返事した俺だった。
そんな俺に、キッと鋭い視線を向ける魔王の娘。
「よし! じゃあ行こうかララティ!」
今さら断わったら、嬉しそうなツバルがヘソを曲げて、またややこしくなる。
「ほら、ララティ。ツバルもこう言ってるしさ。お言葉に甘えて、案内してもらいなよ」
もしかしたらめっちゃ不機嫌になるかも……と思いながらも、そう言ってみた。
ララティが本気で嫌がるなら、俺がそう言っても断わるだろうしな。
「はい、わかりました。ツバルに案内してもらいます」
ああ、やっぱララティっていいヤツだな。
きっと場の空気を読んで、素直に言ってくれたんだろう。
「さあ、行こう行こう!」
ララティをエスコートしながら嬉しそうに食堂を出て行くツバル。
俺はマリンと一緒に、彼らの背中を見送った。
= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。
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