第22話 甘い香り
(・・・大きいのだと可愛いの?)
こうたくんの可愛いの基準ってなんだろう。
「・・・・甘いものは好き・・なんだ」
(クッキーとか焼いて持っていこうかな・・・図々しいかな。っていうか気持ち悪がられるかな・・・)
女の子はわりとなんでも可愛いとか言うらしい。
(おじさんにも可愛いとか言うって聞くし・・・)
そこら辺はいまいち理解ができないけど、こうたくんが言う可愛いはどんな意味があるんだろ。こういうことを無意識でやってるから女の子もこうたくんにハマっていくのだろうか。
幸い彼女はいないし、合コンにも誘われても行かないって言ってたけど、これからイベント事が増えるからお誘いも絶対増える。
「クリスマスとかどうするんだろ・・・」
僕の住んでるとこでは、真冬に向けて11月くらいからイルミネーションが凄いことになる。駅前もそうだし、公園とかも。
高校自体は学校の行事もあるけど、試験のほうが優先されるからあまりそこまで大きな行事にはならない。こうたくんの部活の様子はどうなのか今はさっぱり分からないから土日の活動状況も不明だ。サッカー部って冬も外で活動するのだろうか。
疑問がたくさん浮かぶ。
お風呂に行く前にきりゅうくんにお礼のメッセージを送ってからこうたくんにも返信をした。
【大きいのだと可愛いんですか?甘いものが好きならお菓子とかクッキーとか普段食べたりしますか。すいません、質問ばかりで】
「・・・・・」
タップした後にそのままお風呂に行けば良かったんだけど、もう一つ追加で送ろうかと思い悩んだ。
ちょっとだけ唸って、スマホから顔を上げるとこうたくんのノートが視界の片隅に入る。
「・・・・」
(だめだ、お風呂に行こう・・・)
やっぱりそう思い直して電源ボタンを押してそっと画面を下に伏せた僕は、寝間着とパンツを棚から取り出し部屋を後にして、お母さんに会うのもめんどくさいからリビングの前を静かにとおり風呂場へ向かった。
(お父さんは・・・・何処かに行ったのかな)
そして父親の姿が見えない。
靴は確か玄関にあった気はしたけど、いつもと違う靴で出かけているのだろうか。家にいる気配がまるでない。
「おいしょ・・・」
脱衣所についてから服を脱いで勢いよく扉を開けた。
寒いから鳥肌が立つ。シャワーを流してお湯に変わるのを待ちながら腕をさすったけど、一回立った鳥肌は消えてくれない。
「あぁ~寒い・・・・シャワーあったかい」
お湯に切り替わり、頭と体を一気に流した。シャンプーを頭につけて洗い、タオルに石鹸をつけてゴシゴシこすれば泡が立つから無心で体も洗う。
どのシャンプーを使うか特に何も考えてなかったから流す時に微かに甘い香りが漂ってきたことに少し違和感を感じたけど、早く上がりたかったから全部洗い流した。
髪の水滴をしぼってドアの外に出た僕は、大きめのタオルで身体を適当に拭きドライヤーで髪を整えながら水気を飛ばそうと手を髪の間に入れながらわしゃわしゃしていると、あることを思い出してしまった。
「・・・・あ~、」
きりゅうくんの話と服と自分のカミングアウトのことで頭からすっぽ抜けていた。
「ワックス買うの忘れてた。・・・・まぁ、また今度」
今度なんていつ来るかわからないけど、とりあえず今日は服を買えたから大丈夫だと思い乾かしたあとはすぐに部屋へと帰還。
◇◇◇
「・・・・ご飯は適当な時間に食べよう」
下に伏せたスマホを持ち上げると何も光っていない。わりとすぐに返事が返ってきてたから今回返信が来てないことに心配になって、さっき送った内容がおかしかったのかなと電源ボタンを軽く押して画面を明るくしようとした。
「・・・・あれ、つかない・・・え、電池切れ?」
長押しすると、画面に電池切れの表示が出て画面がまた暗くなる。
「失敗した・・・充電器どこだっけ・・・・あぁ~あった」
すぐに見つけてスマホに充電器を差し込みコンセントにも繋げたけど、充電が完了するのを待ってられないからプラグに差し込んですぐに電源ボタンを長押しした。
(本当は良くないけど・・・)
数パーセントの充電がたまって画面が明るくなる。立ち上がるのを待っていると、待ち受けとともに新着の通知が画面に表示された。
通知は2件で一通目はきりゅうくん、そしてもう一通はこうたくん。
どちらを先に見ようか迷ったけどきりゅうくんのは後回しにしておいた。多分なんとなく想像はつくし、こうたくんのメッセージのほうが断然気になる。
(・・・タップ・・・ん?)
【なんかぬいぐるみみたいじゃない?普段は食べない】
(・・・ぬいぐるみ?)
「・・・っていうか、」
画面を広げたままなんて返そうか考えていると、こうたくんから2通目のメッセージ。
【質問ならいくらでもどうぞ】
「・・・・・」
【ぬいぐるみなんですかね、それなら確かに可愛いかもしれません。普段は食べないんですか。僕もあんまり食べません。クリスマスとか特別な時は食べますが】
僕は送信ボタンに触れた後、スマホを置いて項垂れた。
「・・・・普段食べないならだめじゃん」
何も言わずに作ったお菓子を渡すと迷惑かもしれないからダメ元でこの際事前に聞いてみようかと思ったけど微妙な反応をされそうだ。
困った僕は考えることを一旦放棄して少し早い夜ご飯を食べにリビングへ向かおうと充電中のスマホを部屋に置いたまま部屋から出た。
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