第13話 カミングアウト2
【朝早くに送ってごめんなさい。】
(・・・スタンプ・・・えっと・・・ごめんねのスタンプ)
重たい響きの謝罪にしないようにと思いスタンプを使った。もちろん無料のやつだ。
【服あんまり持ってないから買わなきゃなって思って。どんな髪型にするんですか?】
「・・・・・これで、いいかな」
送ったあとベッドにスマホを置いて、決めていた服に着替えてからスマホも含めて荷物を持って玄関まで行った。
座って靴を履いている時に、ふと無言で何も言わずに家を出ようとしている自分に気が付いて、靴の紐を締めて立ち上がりリビングに聞こえるように大きな声で「行ってきまーす」と叫んでみる。
(おし・・・・行くかな)
ドアノブを掴んで外に出ようとしたら、お母さんだけじゃなくて、ハモるようにしてお父さんの声も一緒に「行ってらっしゃい、気を付けて」と聞こえてくるから、一瞬びっくりした。
(・・・いつの間に)
自分の部屋で準備をしている間にどうやら父さんも起きてきてリビングでつくろいでいたらしい。
僕はそのままの体勢で2人の声を聞き終わってから、だんだんと寒くなってきた外気に触れるように外への一歩を踏み出した。
◇◇◇
「・・・さむっ」
土曜日の朝から外に出掛ける用事なんて今まで作ったことがないから不思議な感じがする。
待ち合わせまではあと15分程度。
そして待ち合わせ場所までは10分程度で行ける。
人と待ち合わせとかしたことないから、今回家を出た時間は案外ちょうど良かったのかもしれない。こうたくんとのやり取りがなかったら凄い早くについて寒い中ずっと待って、また風邪引いてみたいな嫌な流れになっていたところだ。
(・・・こうたくんのことばっかり考えてるけど、うっかり名前間違わないようにしないと)
きりゅうくんの服も一応聞いておいたからそれなりの時間になったらキョロキョロしながら探せば見つかるかなと思っていた僕は、土曜日の朝の人の多さに、待ち合わせの場所に到着して愕然とした。
「・・・・え」
(・・・・やば・・・こんなんだったっけ)
人が多いのに加えて、きりゅうくんが着ると言っていた服の色と似たような服の色を着ている人が多い。
しかもお父さんの情報によると彼は僕より小柄らしいから、もし既にこの場に居たとしても多分人混みに埋もれてしまっている。
(・・・どうしよう、前に会った時の記憶全然ないからマジで◯ォーリーをさがせみたいになりそう)
会う前に体力切れを起こしたらちょっと嫌だ。探すのは諦めてきりゅうくんに【着きました】とメッセージを先に送ろうとした僕は、ポケットに手を入れてスマホを取り出した。
「・・・・こうたくん」
画面を明るくするとこうたくんからのメッセージがきていた。
思わず顔がニヤけてしまった。
きりゅうくんに送らないといけないのに、こうたくんの名前を見ると僕の中ではいったん時が止まる。
マフラーなんてまだする時期じゃないから口元を隠すことができないし、名前を見ただけでこんな顔になる僕は周りからどう思われてるんだろ。皆好きな人から連絡がくると同じ感じになるのだろうか。
手すりにもたれ掛かり下を向いて彼の名前をタップして、メッセージを読んだ。
【いいよ。かずきってどんな服着てるの?髪型は内緒】
「・・・内緒」
今度はスタンプがついてない。
文章の中にクエスチョンマークが入ってると早く返信したくなるけど、先にきりゅうくんへ連絡を入れようといったん戻るボタンを押して、きりゅうくんの名前に触れようとした。
「かずきくん?」
「・・・・」
「あの、すいません、かずきくんだよね?」
(・・・えっ)
左手から声がして顔を上げるとそこには幼い顔の若い男性。
「・・・・え、え・・・っと・・・き、きりゅうくん?」
「うん、そうだよ。良かった、合ってた。間違えてたらどうしようかと思った」
「・・・」
連絡をくれたとおりの服装で、可愛らしい顔をしているその男の子は僕のいとこのきりゅうくんで、探すつもりが逆に僕を探し当ててくれたみたいだ。
(・・・髪の色)
色素が薄いとかじゃなくて、髪の色を茶色に染めている。
「えっ・・・と、こ、こんにちは。は、橋本かずきです」
想像と全く違っていたから思わず変な挨拶をしてしまったけど、きりゅうくんはそんな僕に不思議そうに少し驚いた顔をしてからすぐに笑って「こんにちは」と返してくれた。
(きりゅうくんのほうが年上だから・・・敬語のほうがいいよね)
普段から家族以外とは敬語だからこういう時はそれが役に立つ。反射的に変にタメ口とかにならないように意識的に気を付ける必要性がない。
「急な誘いだったのに、乗ってくれてありがとうね」
「い、いえ。僕のほうこそ誘ってくれてありがとうございます。僕も・・・・その、ちょうど服を買おうかなと思っていた時だったので」
凄い嘘をついてしまったと、心の中でバクバクしながら目線を合わせることができずに少しまた下を向いた。
「それなら良かった。あのさ、服の前に先にお茶しよう、行きつけのお店があるから、そこを予約してあるんだ。僕が払うから気にしないでね。行こう」
「・・・・・あ、はい」
(行きつけ?・・・・予約?)
半ば強引な気はしたしそんな凄いお店なら、そもそも高校生が行けるのか?と疑問に思ったけど深く聞くこともできずにただ後ろについていくことにした。
「・・・・・」
人混みが凄い。
今日は寒くて風が少しあるけど、それ以外は何にも問題がない。晴れてるし、太陽が綺麗でその眩しさになんだか学校以外の外の世界と今繋がってるんだと実感していた。
「かずきくんは、学校どう?1年生だよね、もう慣れた?」
「あ、は、はい・・・・なんとなく」
「なんとなく?」
「・・・えっと、はい、なんとなく・・・・です。あ、でも、友達は一人います」
きりゅうくんは「そうなんだね」となんともないように普通に返してくれたけど、僕は自分で言っていて恥ずかしくなってしまった。
(何言ってんだろう・・・普通に「慣れました」って返せばよかった)
きりゅうくんが言っていたお店に着くまで会話をリードしてもらったけど僕はそこで疑問がわいた。
(あれ・・・・僕と同じコミュ障じゃないのか?)
「着いた。ここだよ」
「・・・・え」
見上げるとまたしても全く想像と違っていたお店に驚愕してしまう。
「ここって・・・・」
「ここ・・・・ごめんね、勝手に予約して」
「あ、いえ」
「ちょっと意外?かずきくんはあんまりこういうの興味なさそうだよね」
「・・・・そ、そうですね」
何も考えず本音で返事をしてしまった僕はだいぶ焦ったけど、次のきりゅうくんの言葉を聞いてもっと焦った。
「ここね・・・・僕の好きな人がいるとこなんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます