第12話 カミングアウト




「眠い・・・」



アラームで目が覚めて、体を起こさずにそのままベッドの中で伸びをした。



「ん~っ・・・・・準備しなきゃ」


お金と場所と時間は大丈夫だ。

服も決めてあるから問題ない。


あとは顔を洗って朝ごはんを食べて、それから服を着替えてという流れで一応は外に出られる。


「これがこうたくんだったら・・・・めっちゃ緊張して夜寝られないだろうな」


 なんとなく無意識にいつものように枕元に置いたスマホを手に取った僕は昨日の夜こうたくんにメッセージを送っていたのを今思い出した。



「・・・なんかきてたり・・・しないか」


好きな時に送っていいよと言われたけど、返事もないかもしれないのにまた送るのは止めといたほうがいいだろうか。


(っていうか、内容がないやり取りしてもいいのかな・・・こうたくんは迷惑だと思ったりして)


 今比べる対象がいるとすれば、いとこのきりゅうくんぐらいだ。彼とのやり取りは何にも考えてないし、どう思われるかなんて正直どうでもいい。



 多分向こうも同じことを思ってると思う。



「・・・・あ・・・きてる・・・っていうか」


 ガバっと起き上がって仰向けからうつ伏せになった。



「・・・きてた」



 昨日の夜僕が送って少ししてからこうたくんから返事が来ていたらしい、メッセージをスタンプで挟んでサンドイッチのようにしている。


 最初はどういたしましての可愛らしいスタンプ。


 そして次に文字。


【まだ寝ない、ゲームしてる。かずきは明日何するの?】


 そして最後におやすみのスタンプ。



「・・・・・」


 なんで昨日寝てしまったのだろう。朝起きた時の楽しみとかアホなこと考えていた数時間前の僕を殴りたい。本当はただ返事のあるなしの確認が怖くて、スマホを見ないようにしていただけだった。



「スタンプ使うんだ・・・・・僕も使おうかな」


男同士でも使っていいんだとドキドキして、とりあえず慌てて返事を返した。


【おはようございます。今日は買い物に行きます。こうたくんは何するの?】



スマホの時計を見ると予定している準備時間を過ぎてしまっている。既読がまだつかないことを確認してベッドから起きてポケットにスマホを入れたら洗面所に走った。



(多分こうたくんは寝てる・・・・っていうかゲームとかするんだ。なんのゲームしてるんだろう)


僕はゲームもしないから話題に出されても相槌しかうてない。よくよく考えると本当に共通点が何もない。


洗面所についてお湯が出るまで待ってから顔を洗った。乾燥しないようにいつもの手入れをしてその後歯を磨いたけど、鏡に写る自分を見ていると髪型が異様に気になりだす。


「・・・・僕も格好良くしてもらおうかな」


一瞬背伸びしようとしたけど、それも秒で目をつぶった。おしゃれな美容院だとお金がかかるし、陰キャラの手本みたいな僕が行くと陰でこそこそ言われるのが落ちだ。


(やっぱり・・・・無理)


きっと学校でもからかわれる。変に絡んでくる2人組にも何をされるか分からない。



「・・・・ワックス買って一人でしてみようかな」


美容院に行かなくても自分でネットで検索したら、色々出てくるだろうから僕はこの休みに自分でできることはしてみようと思った。


 こうたくんはどんな人が好みなのだろうか。彼が好きになる相手は女の子だから僕が入る余地はないけど、嫌われないように身だしなみは気を付けたい。



(朝ごはん何食べよう・・・)


 うがいをして、リビングに行くとすでにお母さんが居た。



「・・・・お、おはよう」

「おはよう、あんた今日遊びに行くんだって?」

「う、うん」

「なんで言わないのよ~、誰と行くの?」

「え・・・」

「えっじゃないわよ」


 てっきりお父さんから聞いていると思っていた。ひょっとして気を遣ってくれたのだろうか。別に言ってもらっても構わないけどと少し引きつり笑いをしながら、きりゅうくんと出掛けることを告げた。



「あら、そうなの。なんだ、てっきり昨日の格好いい子かと思ったわ」

「え・・・え?」


(格好いい子?)


「家に帰る時途中ですれ違ったわよ。見たことない子だったから父さんに聞いたけどクラスの友達だって?荷物届けてくれたんでしょ?」

「・・・・・」


 僕は頭が真っ白になった。


 こうたくんの存在がお父さんだけじゃなくてお母さんにまでも同日にバレるなんて思ってもみなかった。これがただの友達ならなんとも思わない。でもそうじゃないから深く聞かれると非常に困る。


(・・・・どうしよう)


「何?違うの?」

「・・・・ち、違わないけど」

「またうちに来てもらえばいいじゃないの」

「・・・そ、そうだね・・・ごめん、ちょっと時間ないから朝ごはん食べたい」

「あら、ごめん。適当に好きなの食べて。パンはそこにあるし、ご飯ならレンジでチンして」

「うん・・・・ありがとう」



 リビングから早く出たくなってパンをトーストにしてから、お皿に乘せてジャムだけ塗ってそのまま手で掴んで食べながら部屋に戻った。


(やばいな・・・・・やばいよ)


 

 口に押し込んで、もぐもぐしながら着替えようとして寝間着のポケットからスマホを取り出した。チカチカ光っているスマホの電源ボタンを押して画面を明るくすると新着のメッセージが1件。


「・・・・」


開けてみるとこうたくんからだった。


【おはよう、買い物いいな~。俺は髪切りに行くよ】


眠いと訴えかけるようなスタンプも一緒だ。



 昨日は何時までゲームをしていたのだろうか。


 たまたま起きて返してくれているのかなと思いながら、休みに朝からこうたくんと連絡を取り合っていることに嬉しさが込み上げて、それに加えてこうたくんのチョイスしたスタンプに胸がキューっとなり準備そっちのけでスマホを眺めていた。



 「・・・可愛い」


 

 今日はこれからきりゅうくんとの約束があるのにこうたくんのことばかり考えている。家を出たら少し急げばまだじゅうぶん間に合うから、僕は先にこうたくんへの返事をしようと何回か指で画面をタップした。






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