あの丘を越えて

平木明日香

晴れた空

第1話


 いつからだろうか。


 雨が降らなくなったのは。


 街の上に広がる空。


 穏やかな波の流れと、海。


 真っ青なその群青の向こう。


 そのずっと先に、——今日も、同じ航路を辿っていく飛行雲が見える。



 歩道の上に立つ街路樹が、さやさやと靡く。


 交差点の上にすれ違う人々と、パッパーというクラクション。


 ビルは曲線を描いたように高く反り上がり、整列する何枚ものガラスの向こうに、ゆらゆらと雲が漂っていた。


 平和だ。


 それ以外に言葉がいらないほど、何もかもが静かに通り過ぎていた。


 今日は何曜日だっけ?


 いつからか、そう思うようになってしまった。


 自分が今どこにいて、何をしてるのか。


 それさえも、わからなくなるほど。

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