【コミカライズ】双子聖女〜妹が私の物ばかり欲しがります。ついには婚約者まで取られました〜

海空里和

第1話

「デオール様、そちらは妹です」

「なっ?! サ…?」


 私、サラ・マラコーニの婚約者であるデオール・ブレー様は、私の妹であるユラとまさに今、キスをしながら抱き合っていました。


 妹は私とうりふたつの双子の妹です。しかし、デオール様と私は手さえ握ったことの無い関係です。間違えた、ということはないでしょう。


「お姉様、ごめんなさい……! 私、デオール様を好きになってしまったんです!」


 妹のユラは瞳を潤ませて私に謝罪します。しかし。


「お姉様も悪いんですよ! こんなに素敵な婚約者を放っておいたんですから!」


 自分のしたことを棚に上げて、妹は私を責めます。ユラは何を言っているんでしょう。目眩がしてきます。


「最初は気付かなかったが、君には無い愛らしさに僕は惹かれた! 今はユラを愛しているんだ!」


 やはりデオール様は、妹と頻繁に密会していたようです。あっさりと告白をしました。


 元々は家同士が決めた婚約です。愛はありませんでした。でも、私なりに一生を添え遂げようと決意していたのです。


「だから、僕は君と婚約を破棄して、ユラと結婚をするよ!」


 ……同じマラコーニ家の者なので、家としては問題は無いのでしょう。


 私の決意は遠い彼方へ。


 デオール様はあっさりと妹へ乗り換えられてしまいました。


 はあ、また・・ですか、と思いました。


 私とユラはそっくりです。


 ただ、それはユラが私に寄せて出来た物なのです。


 私は金色の長い髪がくせ毛でカールしています。ユラは綺麗な金髪ストレートにもかかわらず、あえて巻き上げています。


 私が髪留めをすれば、同じ物を取り寄せて付け、私の着ているドレスを見れば、これまた同じ物を取り寄せ、次の日には着ている。


 両親が用意したお揃いの物にはいっさい興味を示さなかったので、私たちにお揃いの物は買い与えられなくなりました。


 しかし、ユラは私が身に着ける物を必ず、後から真似するようになったのです。


 ユラが真似するたびに、私の物を処分するわけにいかず。ドレスが被る日も少なくありません。


 なので、周りの人からは「あれ、さっきお会いしましたよね?」と問われ、「それは妹ですね」と答える面倒な日も多いのです。


 ユラは天真爛漫で、世渡り上手な愛されキャラです。真面目で堅物の私とは性格が真逆。だから皆、ユラが大好きになるのです。

 

 そして、今日。


 ついに、ユラは私から婚約者を奪いました。


 デオール様はこの世にお一人。同じ物を用意するわけにはいきません。


 私はまた、はあ、とため息をつき、抱き合う二人に言いました。


「わかりました。婚約破棄を受け入れます。手続きはデオール様にお任せしても?」

「ああ」


 デオール様の返事を聞くと、私は二人の密会場所を後にしました。


 すると、バタバタと神官がこちらに走って来ます。


「サラ様! ユラ様はどちらに?」

「その部屋におりますわ」


 神官は一礼すると、興奮した様子で言いました。


「ユラ様は素晴らしい方です! 是非姉であるサラ様もご同席を!」


 何事かと思いつつ、仕方なく私も神官について行きます。


 神官は部屋のドアをノックし、部屋に入ります。私も後にしたばかりの二人の前に再び立つことになり、複雑な気持ちです。


 部屋に入ると、先程まで抱き合っていた二人は体勢を整え、神官を迎えていました。


 外での声が聞こえて、慌てて整えたのでしょう。


「何事ですかあ?」


 ユラは神官に首を横にして尋ねました。妹はその仕草が男性に受けるのを知っています。案の定、その神官は顔を赤らめ、どもりながらも答えました。


「はっ、はははい! あの、先日、ユラ様に無償で治癒されたと言う伯爵家のご令嬢が夫人とお礼にいらっしゃっています!」

「え」


 一瞬、表情を固めたユラでしたが、すぐに愛らしい笑顔になりました。


「ああ、あの方ですか。わざわざお礼にいらっしゃるなんて恐縮ですわあ」


 何だか演技くさい甘い声です。しかし神官はポーっとしながら、「流石ユラ様!」と褒め称えています。


 しかし、あの面倒くさがり屋のユラが人助けですか。


 私はユラを見直しました。なぜなら、ユラは聖女としての勉強も役目も放ってお茶会ばかり開いていたからです。


 それから神官に連れられて、私達は謁見の間に向かいました。何故かデオール様もついてきます。


 そこで私は驚きました。その助けたご令嬢というのは、が助けた人物だったからです。


 あの日、私は聖女の仕事でセーン領の浄化に赴きました。その時、丁度魔物との交戦があり、逃げ遅れた女の子を助けました。


 その子は怪我をしていましたが、私の治癒の力で傷跡が残ることもなく、綺麗に完治しました。


 まさか、セーン伯爵家のご令嬢だったとは。普段、教会に籠もっているのでわかりませんでした。


「ああ、ユラ様! 先日はありがとうございました!」


 ご令嬢はユラを見ると、瞳を輝かせて妹に抱きつきました。


「ユラ様、傷を綺麗に治していただき、本当に感謝いたします」


 側にいた伯爵夫人も深くユラに礼をします。


「いえ、聖女として当然のことをしたまでですわ。女の子ですもの、傷が残らなくて良かった」

「ユラ様……!」


 えーーっと?


 ご令嬢は感動してユラをうるうると見つめています。デオール様も、「流石俺のユラ!」と称賛しています。


「何故ユラがやったとわかったんですか?」


 私は涙を流して二人の抱擁をうんうん見ていた神官にこっそり聞きました。


 セーン領には二人で赴きました。なので、どちらか見分けはつかないはずです。


 まあ、実際には私だけ仕事をして、ユラは観光ばかりしていたのですが。


「ご令嬢が、優しく素敵に笑う聖女様だったと仰ったので!」


 神官は悪びれもせずに私にハッキリと言いました。


「それだけ、ですか?」

「はい!」


 私の問に力いっぱい答える神官。どうやら、この神官の思い込みが原因のようです。


 私は、はあー、とまたため息をついて謁見の間を後にしました。


 「本当は私です」なんて名乗り出ても、やぶへびでしょう。

 やってもいないことを自分がやったように発言出来るユラも凄いです。


 こういうことは初めてではありません。外での仕事は、大抵ユラの手柄にされてしまいます。


 国を守れているので、不満はありません。ユラを褒め称える皆の声も、幸せならそれで良いのです。ただ。


「ユラ様はご活躍なのに姉のサラ様は……」

「妹の聖女様を見習ってはどうですか?」


 こんな悪意をぶつけられるのは辛い。(本当はしていない)妹の外の功績は確かに目につき、華々しいです。しかし、私はこの教会で、毎日祈りを捧げ、国に結界を張っています。


 地味で目立たない仕事ですが、国を守っているという責任がとても誇らしいです。


 しかし、皆はそんなことなど知りません。


「また妹に手柄を譲ったのかね?」

「教皇様……」


 私が祈りを捧げるために聖堂に来ると、白い髭を触りながら、教皇様が穏やかに笑って言いました。


 教皇様は私たちの区別が出来る数少ないお人です。見た目とか性格とかそんなものでは無く、オーラでわかるのだそうです。


「今更私が何を言っても変わりませんから…」


 私がそう言うと、教皇様は困ったように笑われました。


 もう良いのです。私は私の人生をこんなものだと諦めてしまっています。教皇様も表立って一人の聖女に肩入れするわけにもいきません。中立な立場であらせられるのです。


 それに、教皇様お一人だけでも、私の行いを知っていてくださっているのは幸せなことです。


 そして今日も私は祈りを捧げ、国に結界を張り巡らせました。


 この祈りを三日怠ると、結界は揺らぎ、七日怠ると亀裂が生じ、魔物に壊されてしまうほどになってしまいます。


 ですので、地方への勤めがある時以外は毎日祈りを捧げるようにしています。ユラにも交代で勤めて欲しいのですが、妹は地味だと言って、やりたがりません。そして、ユラの力では結界を保つのに何日もかけなくてはなりません。


 そのことを知っている教皇様は、国の根幹に関わることだと、私に一任してくださいました。


「負担をかけてすまないね」


 と労いのお言葉もいただき、私には充分でした。


 そうして今日も私の聖女としての勤めはつつがなく終わりました。


 翌日も、私は変わりなく祈りを捧げ、結界を保った後、部屋に戻ろうとしました。


 二階の通路を歩いていると、下から楽しそうな声が聞こえてきました。


 教会の庭で、ユラがお茶会を開いていたのです。


 色とりどりの花が咲き乱れる教会の庭は素敵です。花に囲まれ、多くの神官に囲まれ、楽しそうに笑うユラ。まるでガーデンパーティーのよう。


 神官たちを労うのは大切なことです。だからユラはこんなにも愛されているのでしょう。


 窓越しに見る眩しい光景に、少し羨ましくなりました。開いた窓からは心地よい風と共に花の香りが私の鼻をかすめていきます。


 しばらく私は動けずにいました。すると、庭の奥の方がザワザワと騒がしくなりました。


 何事かと思い、窓枠に手を付いたまま、騒がしい方へ目をやると、教皇様に導かれやって来たのは、この国の第一王子、レナルド様でした。


 サラサラの銀髪が太陽でキラキラと光り、神々しいです。


 レナルド様と言えば、その美しいご尊顔で、ご令嬢の間でも噂になっているほどです。


 私も一度だけ、国の式典でお会いしたことがあります。


 レナルド様は、民や臣下に慕われ、私たち神殿の者にも配慮してくださるお方。  


 私たち聖女が何の心配もなく暮らし、仕事に専念出来るのは、レナルド様のおかげなのです。


 そのレナルド様が何故、ユラのお茶会に?


 レナルド様は真っ直ぐにユラの前に歩み寄りました。何やら話されていますが、ここからは聞こえません。


 しばらく様子を見ていると、レナルド様の後ろに控えていた教皇様が、私に手招きをしています。


 私が二階から見ていたのは、オーラがわかる教皇様にはお見通しのようだったようです。


 私は躊躇いましたが、教皇様がお呼びな以上、行かないわけにはいきません。


 急いで階段を下り、私は庭に出ました。すると、ユラが珍しく声を荒げていました。


「何故ですか?! それは確かに私です」


 レナルド様に恐れ多くも食ってかかるユラ。聖女は確かにそれなりの地位がありますが、流石に王太子殿下へその物言いは……


 そう思って動けずにいると、レナルド様が私にお気付きになり、目が合ってしまいました。


 私は慌てて礼をします。


「聖女サラ、君に会いに来た」


 そんな私に殿下はフッと笑うと、お声をかけてくださました。そして側まで来ると、私の手を取り口付けをされました。


 その美しいご尊顔と穏やかなと声色に胸が高鳴り、手に伝わる唇の温かさから、私の頬には熱が帯びるのがわかりました。


「サラ、どうか私と結婚をして欲しい」

「へっ……」


 レナルド様の突然の求婚に、私は思わず素っ頓狂な声を出してしまいました。


 どうして?私?ユラでもなく?


 うろたえる私に殿下は続けて言います。


「陰ながら国を支えるそのひたむきさに私は心を奪われたのだ。どうか、今度は私の隣で一緒に国を支えて欲しい」


 夢のようなレナルド様のお言葉。私の聖女としての仕事を知って、理解してくださっていた!


 私はおずおずと後ろにいる教皇様を見ました。教皇様はニコニコと微笑んでおられ、私に頷いていらっしゃいました。


「どうか『はい』と言ってくれ」


 教皇様の笑顔に後押しされるように、私はレナルド様のお言葉に返事をしようとしました。するとーー


「レナルド様!! 姉は祈るばかりで何もしておりませんわ! 私こそが外に出、国のために尽くしているのです! 早まらないでくださいまし!」

「そうです、殿下。真の聖女様はユラ様です。何故……」


 妹は激昂しているようです。レナルド様に対してまたもや食い下がります。ユラの取り巻きの神官たちまで意見をする始末です。


「私が間違っていると?」

「で、でも! 私の評判を皆に聞いてくだされば!! レナルド様だって、それで私の元に来てくださったのではないですか?」


 レナルド様の冷たい視線を送られても、引き下がらないユラ。ある意味凄いです。そして、嘘で固められた実績をひけらかし、レナルド様に迫りましたが、取り合ってもらえなかったようです。


「それに君は、デオール・ブレーと婚約しているのではなかったかな?」

「デ、デオール様は姉の婚約者です! 私は迫られて困っていたのです! だから姉こそレナルド様と結婚は無理ですわ!」


 レナルド様の問にスラスラと嘘を並び立てるユラ。


 さすがの私も呆れてしまいます。


「おかしいな。サラとは婚約破棄をし、妹のユラと婚約をしたと聞いたが」

「………」


 レナルド様はすでに全てを知っておいででした。ユラは黙ってしまいました。


「……! それでも、セーン伯爵家のことを始め、私は多くの方にご支持いただいてますわ!」

「確かに、私はその話を聞いて君を訪ねてきた」

「でしたら……!」


 妹は顔を輝かせ、レナルド様に近づきます。


 ああ、またですか。結局は皆、ユラに行ってしまうのです……そう思っていた時でした。


「セーン家のご令嬢にしたように、この者にも力を使ってもらえまいか、ユラ」

「え……?」


 レナルド様は伴っていた騎士に手で合図をしました。


 騎士は一礼をすると、前に歩み寄りました。そして、その腕を差し出すと、包帯が広範囲に巻かれていました。


「私の大事な騎士なんだが、先日魔物との交戦で右腕に怪我を負ってしまった」

「まあ…! 何て痛ましい……!」


 レナルド様のお言葉に、ユラは瞳をうるうるとさせて言いました。


「この者はその怪我が原因で腕を動かせなくなってしまった」

「まああ……!」

「ではユラ、君の力でこの者を治してくれないか」

「え……」


 両手を頬に当てて、憐れみの表情を見せていたユラの顔は固まりました。


 ユラは、擦り傷を治すくらいの力しかありません。というか、学んでもこなかったのです。聞く限り、騎士様は重症です。ユラにはとても癒せないでしょう。


「あ……」

「どうした? 私の騎士には使えないというのか?」

「いえ…、けしてそんなことは……!」

「じゃあ出来ないのか?」


 狼狽えるユラにレナルド様は畳み掛けました。それでもユラは、一度私の方に顔を向け、キッと睨むと、騎士様の前に立ちました。


 どうやら治癒を試みるようです。


「治れ!!」


 ユラの声と共に淡い光が出ますが、何も起きません。騎士様の腕も動きません。


 取り巻きの神官たちもザワザワとしだします。


「やはりな」


 レナルド様はそう言うと、こちらを見ました。


「サラ、君の力を借りたい。良いかな?」

「……! もちろんです!」


 レナルド様のお言葉に私は頷き、騎士様の前に走り寄りました。


「サラ様に出来るはずがない」


 神官たちのそんな声が聞こえてきましたが、私はそんな声よりも、レナルド様に力を求めていただけたことに嬉しさを感じていました。


「失礼いたします」


 私はそう言うと、騎士様の腕にそっと触れ、治癒の力を発動させました。


 白く眩しい光が騎士様の腕を包み、次第に光は弾けて、騎士様の腕の中に吸収されていきました。


「どうですか」


 騎士様に声をかけると、ハッとして、彼は腕をブンブン振出しました。


「動く…! 腕が動きます! レナルド様!!」


 彼はレナルド様の方を見て、顔を輝かせました。レナルド様は「そうか」と安堵の顔で微笑まれました。


 騎士様は勢いよく包帯を解き、空に放り投げました。そして自身の腕を見て更に顔を輝かせました。


「傷跡も綺麗に無くなっている……! サラ様、ありがとうございます!!」


 騎士様は私の手をガシッと取り、満面の笑みでお礼を言ってくださりました。


 人から直接お礼を言われるのは初めてです。私は嬉しくて、気付けば涙をこぼしていました。


「サラ様?!」


 私の涙を見た騎士様が慌てられたので、私は急いで涙を拭いました。


「何でもないのです。治られて本当に良かった」


 私は笑顔を作って騎士様の顔を見ました。


 騎士様も嬉しそうに私に微笑みました。お顔が少し赤いようですが。


 すると、コホン、とレナルド様の咳払いが聞こえました。


 騎士様は慌てて「失礼いたしました」と後ろに下がってしまわれました。


「ありがとう、サラ。やはり貴女が真の聖女だ」


 レナルド様は再び私の手を取り、今度は掌にキスをされました。


 掌へのキスは親愛の証……。今、私の顔はきっとリンゴのように真っ赤です。


「お待ちください! 傷跡を治したのは私です! 腕を治したのはお姉様かもしれませんが……傷跡は私です!!」


 恥ずかしくてレナルド様から目線をそらすと、ユラが間に割って入って来ました。


「まだそんなことを言うのか」

「だって……包帯を解いたのはお姉様の力を使った後じゃないですか! その前に私が傷跡を治していたんです……! セーン伯爵家のお嬢様だって私が治したのをご存知でしょう?!」


 呆れてため息をつかれるレナルド様に、ユラはまくしたてます。


 確かに、私が治したという証拠はありません。今までだって、それでユラの手柄になっていたのですから……。今回は半分でもユラの手柄ということにしたいのでしょう。


「だ、そうだ。どうかな? セーン嬢」


 レナルド様が後ろに声をかけられると、連れ立って来られた騎士様たちは道を空けるように半分に分かれました。


 開かれた先に立たれていたのは、先日お礼に来られたセーン伯爵家のご婦人とご令嬢。


「私の怪我を治してくださったのはサラ様の光です……!」


 一歩前に出、ご令嬢がそう叫ぶと、場がザワザワとしだした。


 どういうことだと慌てふためく神官たち。


 ユラの顔を見ると、青ざめていた。


「聖女の力を偽るなど、重罪だ!」

「そんな、私は……」


 レナルド様はそれ以上はユラの言葉を聞かず、騎士たちに合図をすると、ユラを取り囲んだ。


「力を偽り、学びもせず、義務も果たさず、国の金で遊んでばかり。そんな聖女はいらない!」

「待って、レナルド様…!!」


 ユラは最後までレナルド様に縋ろうとしましたが、騎士たちに連れて行かれてしまいました。


「大丈夫だ。教会管轄の元、幽閉するだけだ。聖女としての勉強もさせるよ」


 妹が連れて行かれた方向を見つめ、不安になっていると、教皇様が横に来て、ウインクをされました。


 その言葉に私は少し安心しました。あんな風になっても、私の家族で妹です。


「しかし、殿下からはよくサラの話を聞かせろだの、会わせろだの言われていたが、急に求婚とはのう……」

「教皇!!」


 ホッホッホッ、と笑う教皇様の言葉にレナルド様が慌てて遮ります。


 レナルド様が……?


 教皇様の言葉から考えると、レナルド様は前から私のことを……


 そう思うと、また顔に熱が集まって、恥ずかしくなってしまいました。


 顔を両手で覆い、レナルド様を見ると、レナルド様のお顔も真っ赤になっていました。


「返事……」

「え?」


 真っ赤だったレナルド様のお顔は真面目なものになり、私は心臓の鼓動が早くなるのを感じました。


「私と結婚してほしい、サラ」


 差し出された手を私はもちろん取りました。


「はい……! よろしくお願いいたします」


 瞬間、その場にいた人たちの歓声があがりました。


 ユラが開催していたお茶会は、いつの間にか私たちのお祝いへ。


 セーン伯爵家のお二人からは謝罪とお礼の言葉をいただいてしまいました。


 花びらがヒラヒラと舞う中、私は求婚を受けたレナルド様を見ます。


 レナルド様は私を愛おしそうに見つめて、「早く結婚したい」とおっしゃいました。


 私はようやく、私だけの幸せを見つけることが出来たのです。


(終わり)

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