赤と黒の輪舞曲~『桜咲く国の姫君』続編・ギルフォードルート~

金谷羽菜

第1章 急展開

第1話 戻ったとたん(文頭にまえがきあり)

【まえがき】


 この物語は、【桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~】(https://kakuyomu.jp/works/16817330666475894674)という作品の続編です。

 まずは、そちらからお読みいただくことををお勧め致しますが、どうしても、こちらから読みたいとおっしゃる方のために、下記にあらすじを載せておきます。



◆桜咲く国の姫君・あらすじ◆


 女子高校生の神木桜は、幼い頃に一日だけ『神隠し』に遭い、それ以前の記憶を失くしてしまっていた。

 ある日、幼なじみの晃人と訪れた神社(神隠しに遭った場所)で、御神木の桜に取り込まれ、異世界へ飛ばされてしまう。


 異世界では、その国の第一王女|(リナリア)とそっくりだったため、成り行きで身代わりを引き受けることになるのだが。

 リナリアも自分と同じように、幼い頃に神隠しに遭っていたと知り、桜はある疑問を抱く。


 桜は、こう考えた。


 〝幼い頃に、自分とリナリアは入れ替わってしまったのでは?〟

 〝今回も入れ替わりが起こり、リナリアは、自分がいた世界に飛ばされてしまったのでは?〟

 〝つまり、もともとは自分がリナリアで、リナリアが桜なのでは?〟


 その後、〝神様〟との出会いにより、桜|(リナリア)は自分の予想が全て真実だったことを知らされる。 


 ショックを受けつつも、爺や(兼執事)であるセバスチャン(見た目は巨大なオカメインコ)や、周囲の人々の支えもあり、少しずつザックス王国に馴染んで行く。


 そしてリナリアは、生まれて初めての恋を経験することになる。

 相手は、隣国の王子であるギルフォードと、騎士見習いで、リナリア専属の護衛でもあるカイルだ。


 それまで恋とは無縁だったリナリアは、一度に二人も気になる人ができてしまったことに混乱し、戸惑う。


 だが、リナリアの気持ちなどお構いなしに、二人の求愛は加速して行き、彼女の悩みは深まるばかり。

 最終的には、〝神様〟の助けもあり、自分が求めているのは誰なのかを、知ることになるのだった。



 ――ここまでが、【桜咲く国の姫君】のあらすじです。


 お話のラストで、リナリアは神様から二つの扉を示され、『選んだ扉の先に、本当に好きな人との未来が待っている』というようなことを告げらます。

 リナリアは覚悟を決め、どちらかのドアを開くのですが……。


 これから始まる物語は、右側にあった扉の先にある、『ギルフォードとリアの未来』を描いたお話です。(要するに、乙女ゲームで言うところの〝ギルフォードルート〟というわけですね)

 こちらのお話には、カイルは一切出てきませんので、その点を充分ご理解の上、お読みくださいますようお願い申し上げます。



 ちなみに、この作品は前作同様、自力で電子書籍化し、Amazon(Kindle ダイレクト・パブリッシング)で販売させていただいていた作品(【赤と黒の輪舞曲~『桜咲く国の姫君』続編・ギルフォードルート~】)の加筆修正版です。


 Amazonからは出版も取り下げており、Kindleも退会しておりますが、複数の小説投稿サイトで公開していたこともございます。

 ですので、既にどこかでお読みになられたことがあるという方も、いらっしゃるかもしれません。その点も、どうかご注意くださいませ。


─────────────────────────────────────────────────────


 扉の外へ、一歩足を踏み出した瞬間。

 体は空中へ投げ出され、私は真っ逆さまに落下した。


「ひゃあっ!?」

「ピギャッ!!」


 ぼふんっという弾力のある感触と、ふわふわもふもふの肌触り……。


「セバスチャン!」


 初めてこの世界に落ちてきた時と同じだ。

 私はまたしても、セバスチャンの上に落下してしまった。



 慌てて体を起こして立ち上がると、セバスチャンはゆっくりと顔を上げ、


「ピ……? 姫様っ!……ああ、ようございました。ご無事でお戻りになられましたのですなぁ~」


 私の顔を見たとたん、じわりと瞳をうるませる。



 ……う。マズい。

 このままじゃ、まーたメソメソ泣き出しちゃう。



 焦った私は、あえて返事をすることなく、両手でセバスチャンを抱き起こした。

 彼の体についた汚れを払ってから、何気なく辺りを見回す。


「……ありゃ? だいぶ暗くなっちゃってるね。神様と一緒にいた時間って、そんなに長かったっけ?」


 森の中ってこともあるのかも知れないけど、予想以上に薄暗くなってしまっていることに、まず驚いた。


 こりゃーヤバイぞ。早く城に戻らなきゃ。

 この辺り、夜は野盗やらがいて危険だって、何度も注意受けてるし。


 ……んー……。

 戻ったら、神様の話もしてあげよーって思ってたんだけどなぁ。

 それはまた、城でゆっくりするしかなさそう。



 急いで戻ろうと伝えるため、顔を元に戻すと、心配そうにこっちを窺っている、シリルの姿が目に入った。


「シリル!……うわー、シリルも待っててくれたんだ? ごめんねー、長いこと待たせちゃって?」


 謝りつつ近付くと、シリルはふるふると首を横に振った。


「いっ、いいえっ! だ、大丈夫ですっ、平気ですっ! ひ、姫様のためならぼ――っ、い、いえっ、私は、いつまでだって待ってます!」


「……シリル……」



 もう。可愛いことを言ってくれちゃって……。



「ありがとうっ、シリル! 私もシリルのためなら、なんだってしちゃうからねっ」


 キュンとして、思い切り抱き締める。

 シリルはしきりに恐縮して。


「そ――っ、そ、そそっ、そんなっ!……も、ももももったいないお言葉でごっ、ござ――っ、ござざざいまっ、す!」


 どもりまくりののシリルの頭を、いいこいいこするように撫で、


「うんうん。シリルはホントに可愛いねー。……っと、シリルに何かあったら大変だし、そろそろ戻らなきゃ。――ねっ、セバスチャン?」


 言いながら振り返ると、セバスチャンはのんびりと相槌あいづちを打つ。


「はい。さようでございますなぁ。急がねば、日が暮れてしまいますし……」


 ――その時だった。

 シリルはハッと息をのみ、私をかばうように片手を横に出して、辺りの様子を窺い出した。


「姫様、急いで私の後ろに!」


 普段はおっとりしているシリルの、聞き慣れない鋭い声に、私はビックリして目を見張る。


「えっ? ど、どーしたのシリル?……なあに? まさか怪しい人影でも――」

「シッ!……申し訳ございません、姫様。しばらくの間、静かにしていてくださいますか?」


「へっ? あ――、う、うん……」


 いつになく深刻な表情のシリルに、私の心臓はドックンと跳ね上がった。



 こんなにピリピリしたシリル、初めて見た……。


 まさか、ホントに?

 ホントに野盗か何かが、どこかにひそんでたりするの?



「……姫様、セバス様。私が合図を出しましたら、城に向かって全力で走ってください。いいですね?」


「えっ?……で、でも、シリルは?」


「僕は大丈夫です。こう見えても、姫様の護衛役ですよ? 大丈夫です。信じてください」


「シリル……」


「姫様、シリルの指示に従いましょう。――よろしいですな?」


 セバスチャンにうながされ、すごく迷いはしたものの……。

 心配ないと言うように、にっこり笑うシリルを見て、私は渋々うなずいた。



 しばらくは三人とも、周囲の様子を窺いながら、その場でじっとしていた。


 シリルが何かの気配を感じたって言うなら。

 私にも、ちょっとくらいは感じることができるんじゃないかと思って、ずっと耳に意識を集中してたんだけど……。


 全然ダメ。

 私には、風に揺れる木々のざわめきと、どこかで聞こえる鳥の声くらいしか、捉えることができなかった。



 シリルってば、普段はほわ~っとしてるのに……。

 やっぱり、天才剣士――って言われてるだけのことは、あるのかもしれない。



 すぐ目の前にある、シリルの華奢きゃしゃな背中を、(こう言っちゃ悪いけど)私は初めて頼もしく感じた。

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