第12話

「――アニエス!」


学園でわたくしと昼食を共にしていたアニエスに話しかけるアラン殿下。

アラン殿下はいつものように側近を引き連れてきていた。

わたくしの方もアニエス以外に、側近の婚約者の方々が一緒です。


「どうかなさいまして? アラン殿下」


「そ、そんな他人行儀で呼ばないでくれ。また前みたいに君の作ったお菓子が食べたいな」


「なりませんわ。わたしは平民です。殿下のそばにいるなど恐れ多いです」


とアニエスは、アランからの誘いをキッパリと断っている。

アラン殿下はアニエスからの拒絶に、呆然としたがすぐに怒りをあらわにしました。


「ビクトリア! 貴様っ! 私のアニエスに何をした!!!!」


怒りの矛先が一緒にいた当然のようにわたくしですわね。


「別に何も? アニエスと仲良く昼食を共にしているだけですが?」


「とぼけるな! アニエスは貴様を怖がっていた! それなのに一緒に昼食だと? 絶対貴様がアニエスに何かしたに決まってる!」


流石に馬鹿な殿下でもおかしいことに気付きますか。

まあ気付いたからといって関係ありませんが。


「ただアニエスとお話しただけですわ。ねえ? アニエス?」


「はいっ。わたし、ビクトリア様たちのこと誤解してました。皆さま本当はやさしいお方なんです!」


アニエスの表情は嘘偽りのないもの。

それはアラン殿下たちにも分かったようね。


「そ、そんな……私のアニエス……」


と呆然とした表情になっている殿下。

側近の方たちも信じられないようなものを見た表情になっている。

側近の婚約者がたは、それを冷ややかな目で見ている。

わたくしは殿下の表情に愉快な気分になりながらお菓子に口をつける。


「……あら?」


食べたお菓子の味に疑問を感じたので、アニエスに聞いてみることにした。


「アニエス? これを作ったのはあなた?」


「はいっ……お口に合いませんでしたか?」


「いえ? おいしいけれど……」


確かにアニエスが作るお菓子と同じ味がする。

同じ味だけど何かが違う気がする……


「本当にあなたが作ったの? わたくしに嘘はいけませんわよ?」


「……ごめんなさい。アニエス様のお家の料理人に同じ味で作っていただきました」


わたくしの問い詰めに観念したアニエスは正直に白状した。


「やっぱりね。なんか違う気がしたわ」


わたくしたちがいない間、学園で殿下たちが食べていたお菓子とはこれのことね。

アニエスが作ったものじゃないことに気付かないなんて、殿下たちの愛ってその程度なのね。


「わたくしを騙そうなんて、いけない子ね。これは教育が必要かしら」


「はいっ! ぜひお願いします!」


悦んだ表情をしたアニエス。

周りに気付かれないようにアニエスのスカートの中に手を入れると、下着がぐっしょりと濡れていましたわ。

これは……念入りに教育が必要なようね。


「丁度明日から休日ですし、皆さんもご一緒にいかがかしら」


「いいですわね~」


「ぜひご一緒させていただきますわ」


と殿下たちのことをそっちのけで話に花を咲かせるわたくしたち。

気付いた時には、殿下たちはその場からいなくなっていました。



攻略対象といっても所詮はこの程度なのね。拍子抜けだわ。

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