私の名前を訊いてくれ

若草八雲


 携帯が50回目の着信を告げて切れる。

 画面を確認する気も起きない。身体はだるい。

 どうしてこうなってしまったのだろうか。目の前に積んだ封書の山を開きながら考える。

 ギャンブルも酒も薬も、異性関係もなければ趣味らしい趣味もない。それでもどんどんと支払を求める督促状が届く。中身を確認しても、見覚えのない買い物ばかり。

 ルキサンアンジュのプログレードスイート25,000円。もはや、商品なのかサービスなのかもわからない。目に入った督促状をみて、引き落とし口座を確認し、横へ放り投げる。督促状たちに書かれている引き落とし口座からは全て金銭を引き出した。

 信用情報に傷がつく? そんな心配をしている場合ではない。みるみるうちに削られていく口座残高を守るのが最優先だ。督促状は、どこにも登録していない新規口座宛をも狙ってくる。現金は手元に置かなければ生活がむしばまれるのだ。

「邏玖�蠖ゥ螳�様 支払が滞っております」

 初めのころは知らない人物の名前が書かれていた宛名は、今は読むことすらできない文字になっている。


 私の口座を使って何かを買っているのはいったい誰だ?


 嫌気が差して泣き出しそうになったのと、ポストに封書が投函されたのは一緒だった。封書の大きさを見るに、どこかからの督促状だ。うんざりするが、開けないことには対処ができない。

 開けても対処はできないのだが。

 強ばった身体を叩いて起こし、ポストを開いて封書を手に取る。一緒に投函された何枚かの広告が床に落ちた。

 その一枚を手に取って、私は中腰のままでしばらく固まった。


―――探したいものはありませんか?―――

 探し屋とだけ書かれたシンプルなチラシ。これでは集客も望めないだろうに、どういうわけか、私はこれに賭けてみたくなった。

 いや、正直に告白しよう。嫌気が差して全部投げ出したくなったんだ。

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