プロローグ2 魔王との決着

 魔王城はすでに、一部破壊されていた。

 勇者一行が訪れる前に、すでに何者からか攻撃を受けていたのか

 それとも身内争いか


「ソーレイ、君はこの状況をどう見る?」

「……わからないですね、門や大広間にも敵の気配がありません、もしかすると、北の国の冒険者達が先に一戦交えていたのでは?」

「確かに、その線はあるのかもな」


 大広間には戦闘の跡があり、人間の血がついていた。

 魔族と、人間の違いは姿形もあるが、血の色にも違いがある。

 人間は赤、魔族はそれ以外、決して魔族からは赤い血は流れない。なぜなら、彼らは女神から嫌われた種族、それ故に、女神が愛した人類と同じ血の色にはしない。 

 これは世界の常識だ。

 すると、背中に大剣を背負ったダンケンが腑抜けた表情で先に進む。


「もしかすると、魔王も倒されたかもなーがっはっはっはー!」


 高らかに笑う、それにつられて魔導士ジュピターもニヤリと口角を上げる。


「そうだったら、最高なのにね~、わざわざ私たちがリスクを背負う必要がないもの」


 魔王が倒された?

 何を言ってるんだ?こいつらは?

 魔王城の近くに来た時から、おどろおどろしく伝わるこの膨大な魔力。

 騎士のダンケンはともかく、魔導士のジュピターが感知できないのはおかしい。

 すると、後ろに控えていた僧侶ミレイユが、ダンケンの頭を十字放杖で叩く。


「魔王はまだ倒されておりません」

「ミレイユの言う通りです、多分ですが、もっと上の方にいるのでしょ、玉座の間でしょうかね」


 玉座の間に近づけば近づく程、魔力の圧に押し返されそうになる、本当に人類はこんな化け物に勝てるのか?

 いや、怖気着くな。

 俺は何のためにこの6年間修業してきたんだ。

 妹に貰ったお守りを握りしめ、玉座の間の扉の前で仲間達に声を掛けた。


「この先に魔王がいる、皆覚悟はいい?」


 俺自身、手が震えている。

 この確認は自分自身にもしているものだ。

 ダンケンは腕を組み、広い胸を大きく張った。


「当たり前だ、ここまで来て引き返せるかよ」

「問題ないです」

「私の特大魔法でワンパンよワンパン」

「回復は私に任せてください、女神様から授かった魔法ギフトがあるのですから」


 俺は、本当に心強い仲間をもって幸せ者だ。

 この戦争が終われば、きっとこいつらとはお別れだが、たまに集まっても冒険の思い出の1つや2つを酒の当てにしたいそう思ってしまった。

 震えていた手が、仲間の言葉で収まった。

 剣を鞘から引き抜き、扉を思いっきり蹴り出す。


「行くぞ!」



 魔王との戦闘は、半日に渡り続けた。

 魔王は、ダンケン程の体格をしており、魔族の象徴ともいえる3本の角を生やしていた。

 もう何回、回復したのかわからない。

 お互いに満身創痍。

 少しでも気を抜けば殺られる。


「しぶとい者たちだ!仕方がないまずはお前からだ」


 魔王が放つ黒い炎が、僧侶ミレイユに向かってくる。

 それを騎士ダンケンが、ボロボロになった大剣で防ぐが、かなりダメージを受けてしまった。


「ユニス今のうちだ!」


 ダンケンの絞り切った声でユニス、魔王の前方に突撃した。

 賢者ソーレイの支援魔法でユニスの身体能力が上昇する。

 しかし、魔王はすぐに別のスキルを使う。

 魔王の頭上に無数の武器が錬成されていく。


「嘘だろ」


 無数の武器が向かってくる。

 まずい避けられない!

 すると、魔導士ジュピターは錬成された武器に対して、火炎魔法で迎撃した。

魔王が錬成した武器は溶けていく。


「ジュピター!」

「あんたは攻撃に集中しなさい」


 距離はおよそ10メートル

 魔王は、咄嗟に錬成させた大剣で迎え撃つが、ユニスの剣術スキルは限界突破しているため、簡単に受け止めた。

 ユニスは魔王の大剣に触れ、時間操作クロノスを発動させた。

 時間操作クロノスにより、魔王の大剣は崩壊する。

 崩壊したことに驚き、後ずさりする魔王にユニスが間合いを詰める。


「これで終わりだ」


 ユニスの剣が魔王の心臓を貫いた。


「グハッ!!」

 

 大量の血が漏れ出た魔王は、もう力が入らないのか、ユニスに体重を預けていた。


「まさか、この私がここで終わるとはな」

「お前は、多くの人間の命を奪ってきた当然の報いだ」


 こいつのせいで、北のクテリア国にモンスターが押し寄せ何千人という市民や冒険者が死んでいき、町や村は崩壊した。


「報い?」

「ああ、そうだ!」

「報い、だと……一体私が、何をしたというのだ!」

「何をいって」 


 魔王から怒りの感情と同時に魔王の覇気が発動されていた。

 ユニスはスキルのよって、その場に硬直してしまう。

 すると、魔王はユニスが突き刺した剣を己自ら抜いた。


「ウグ!」


 魔王はユニスの剣の刃先を人間離れした力で握りしめた。

 硬直が解かれたユニスはすぐに剣を引こうとしたが、微動だにしない。

 まだこんな力が残っていたのか。

 すると魔王は、左掌をユニスの方に向ける。

 それを見ていた賢者ソーレイは声を上げた。


「ユニス!攻撃だ!今すぐ離れろ!」


 しかし、気づいた頃には遅かった。


「クソ!」

「もう……遅い、『永久呪縛』」


 魔王の左掌から黒い靄がユニスの胸の中に入る。

 ユニスは、剣を捨てバックステップで距離を取る。

 呪いを受けた胸は、特に痛みもなく。

 違和感すら感じない。


「何をした!?」


 魔王は、倒れそうな体を踏ん張って保とうとするが、かなりふらついていた。


「貴殿も我も女神のお遊戯として存在するだけだ」

「何をわけのわからないこと!俺の質問に答えろ!」


 魔王はすでに限界を迎えていた。

 覚束無い足取りでユニスの方に向かう。


「いずれわかる事だ……」


 そのままうつ伏せに倒れてしまう。

 赤色の絨毯に魔王の青い血が染み渡る。

 遠くなっていく目からは、何を思ったのか涙を流していた。

 魔王の体は徐々に消滅してゆく。


「ああ、ようやく君の元へ……アンジェ……」


 それが魔王の最後の言葉だった。

 消滅していく体は、魔族の尊重である角が消え、元々の薄紫色の肌は、オレンジ色に変わっていた。

 その姿はまるで人間のようだった。

 そして魔王は完全に塵となり消滅した。

 消えゆく魔王を目の前で見ていたユニスは、左手で目を掻く。


「気のせいだよな」


 呪いを受けた個所を摩るが、特に何も感じない。

 もしかして不発だったのか?

 しかし、鑑定には永久呪縛が表示している。


 スキル 永久呪縛 命を代償に世界を覆す程の事象を起こせる。

 状態  永久呪縛


 同じく俺に鑑定をしていたソーレイが、眉間に皺を寄せ、顎に左手を添える。 


「状態ならわかりますが、スキルにも永久呪縛がありますね、不思議です」


 賢者ソーレイでも知らない呪いか、それにこのスキルの詳細で、命を代償に世界を覆す事象を起こすと記載しているが、全く想像つかないな。

 まぁ使う事は一生ないだろうな。

 僧侶ミレイユに解呪の魔法をかけてもらった。


「うーん、微妙ですね。解呪が効いてないみたいですね」


 ミレイユの言葉に、魔導士ジュピターが呆れた表情でこちらに近づいた。


「はーあ、これだから、ヘッポコ僧侶はダメね~」


 売り言葉に買い言葉でミレイユがそっぽを向き反論した。


「魔導士のくせして、魔王に対してダメージ与えられなかった人に、言われたくないですね。一応言うと、ユニスさんよりあなたに回復魔法を使った回数の方が多いですから」

「何ですってー!」


 ミレイユとジュピターがいつものように喧嘩を始めた。

 全くこっちはもう一歩も動かないって言うのに元気な奴らだ。

 永久呪縛の呪いは僧侶の力を以てしても解呪できなかった。

 今の所、特に影響を受けているわけじゃないし、王都に戻った時に大司教様の上位解呪魔法をかけてもらえばいいか。

 その場に座り込んでいると、賢者ソーレイが隣に座る。


「お疲れ様です」

「ああ」

「長かったですね」

「ああ」

「でも、これで終わりと思うと少し寂しいですね」


 ソーレイは、普段あまり喋る奴じゃないが、魔王との戦闘、そして、この6年間の冒険にやっと終止符が打てると思ったのか、肩の荷が下りていた。


「また魔王が復活すれば皆さんと冒険ができるかも知れないですね」

「おいおい、公爵家様がそんな事言っていいのか~?」

「ハハハ、冗談ですよ」


 ボロボロになった鎧を纏いながら、騎士ダンケンが人数分の携帯食料を持ってきた。


「ほらこれ食ったら、さっさと国に帰還するぞ」

「助かりますダンケン、しかしすぐに出発しようにもまだ回復しきれていません、もう少しここで休憩すべきです」

「勘弁してくれ、こんな所今すぐにおさらばしたいんだよ」


 ダンケンの気持ちはわかる。

 この城にはもう魔族の一体もいないと思うが、魔王城の麓の方にはモンスターがいる。

 誰もいなくなった魔王城など、明後日にはモンスター達の住処にされてしまうだろう。


「ダンケン、どうせ帰り道でモンスターと戦うんだから、ここで回復してからの方がいいんじゃない?まぁそれにさ」

「それに、なんだよユニス」

「ほら上見な」

「上?おお……」


 魔王城は、魔王との戦闘で半壊していた。

 もう暗く満月の光がユニス達に差し込む。

 上を向くと、夜空には満天の星空とエメラルド色に広がるオーロラが見えた。


「これ見ながら寝れるんだぜ、最高だろ」

「はぁー、仕方ねぇな」


 そして、俺たちは危険な魔族領で誰一人監視もせず、川の字で寝てしまった。

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