【完結】むかし妹→いまは姉!? 生き返った俺はオトナになった幼馴染にお世話されている

宮下愚弟

第一部 歳の差、逆転!?

第一章 でっかくなった幼馴染!

第1話 年下だった幼馴染、それが今では年上に

「うぉ……でっか……」


 寝起きでも分かる、このデカさ。

 小さく可愛らしかった幼馴染は大きく美しく育っていた。コールドスリープから目覚めると柔らかい体に抱きつかれて、なにかと思えば幼馴染だった。

 重たい胸に包まれると安心感がこみあげてくる。


(で、でっかくなりすぎじゃないか……!?)


 ふと、予感めいた希望が頭をよぎる。

 死のふちから一転、これからは極楽生活ごくらくせいかつを送れるんじゃないか、と。


(ええと、でも、どうしてこんなことになったんだっけ)


 幼馴染からこうして抱きしめられることになったのは、小学六年生の朝、が始まりだった────




〈1〉出会い


 小林こばやし悠陽ゆうひは目を疑った。

 通学路にランドセルが浮いているように


(な、なんだあれ、妖怪ってやつか……!?)


 見なかったことにしようと、浮遊するランドセルから忍び足で離れようとして。


「ぐすっ……っすんっ……」


 かすかな泣き声がして、悠陽はすぐさま駆け寄った。

 ランドセルが浮いていたわけではなく、ランドセルを背負った女の子が泣いていたのだった。

 つまり、ランドセルに隠れてしまうくらいに女の子は幼く、小柄だった。


「うっ、うう、うううう……」


 悠陽はハンカチを差し出す。


「これ、つかう?」


 女の子は悠陽の足にすがりついて泣いた。


「え、あ、ちょ、ハンカチ……」

「ううぅー……うっうぅ……」


 女の子は悠陽にしがみついて泣きじゃくる。

 悠陽のなかで初めて庇護欲ひごよくというものが芽生えた。


「大丈夫、だいじょうぶだからな」


 背中をゆっくりとさすると、女の子はよりいっそう大声で泣いた。泣きまくった。聞けば飼っていたハムスターが亡くなったのだという。

 結局、女の子が泣き止むまでずっと背中を撫でていた。

 授業の始まりにはもう遅れていたが、そんなことどうでもよかった。


「きみ、名前は? 学年は言える?」

「……みお。おおもり、みお。いちねんせい」

「おっけー。みおちゃん、学校いけるかな?」


 みお──美桜みおがこくりと頷く。それから悠陽の手をギュッと握ってきた。

 悠陽は驚いた。

 しかし、不安なのだろうと察して、安心させるためすぐに握り返す。

 小さな手だった。

 美桜がぽつりと尋ねる。


「おにいちゃんはなんていうの」

「おれ? おれの名前?」


 美桜は頷く。


「おれ、こばやしゆうひ。よろしくな!」

「ゆう……ゆうちゃん?」

「ちゃん!? ちゃんはカワいすぎるって!」


 美桜はしばらく考えて、にこりと笑った。


「じゃあ、ゆう兄ちゃん」

「ゆう、兄ちゃん……!」


 ひとりっ子だった悠陽は新鮮な響きに感動する。


「ああ、おれが兄ちゃんだ。いつでもたよってくれよ!」

「ん……ありがと、ゆう兄ちゃん」


 悠陽は美桜が泣いていたわけなんて知らなくても迷うことなく彼女を救った。

 だから。


 その日から、悠陽ゆうひ美桜みおの『兄ちゃん』になった。




〈2〉仲良しぐらし


 仲良くなった悠陽たちは遊ぶようになった。

 二人は同じマンションに住んでいたこともあり、登下校は常に悠陽が手を引いて歩いた。

 互いに両親が共働きだったため、悠陽が美桜の面倒をみて放課後を過ごすことも多かった。


 晴れの日は外で遊び、雨の日は家の中でゲームをした。

 美桜が宿題で困っていれば悠陽は隣で教えてあげた。

 美桜が体育で逆上がりができなかったといえば、悠陽は練習につきあって背中を支えてやった。


 二人は本物の兄妹よりも兄妹らしかった。


 出会いの春が過ぎ、じめじめとした梅雨が明け、夏休みになり。

 美桜の心の傷──ペットを亡くしてしまった悲しみも癒えてきて、ようやく彼女は本来の明るさを取り戻しはじめた。


「ゆう兄ちゃん、夏祭り行こう!」


 浴衣姿の美桜に誘われ、祭りへと繰り出す。

 朱色の鳥居をくぐると非日常が現れる。屋台の群れに掴まって、お囃子の音に心を躍らせて、二人は手を繋いで歩く。焼きそば、射的、わたあめ、金魚すくい……。

 わずかなおこづかいをやりくりして二人は祭りを満喫していく。

 財布が軽くなったころ、悠陽は美桜の頭を撫でた。


「ラムネ買って帰ろうか。美桜ちゃんも飲むだろ?」

「うん!」


 悠陽が美桜の手を引いて家路につこうとしたとき。


「あ」


 美桜の足が一瞬だけ止まる。それは本当にわずかな仕草で、すぐあとには美桜は何事もなかったかのように歩きだす。

 普通であればなんてことのない瞬間。

 だが悠陽は見逃さない。


「なんか欲しいのあった?」


 美桜の視線が屋台に向けられていたことに気づいていた。


「……えっとね」


 美桜は遠慮がちに屋台を指さす。


「あれ、かわいいなーって、思って」


 美桜は店頭に飾られた、キャラがつけているのと同じ色のシュシュが気になったのだという。


「買おう!」

「でも、ゆう兄ちゃんラムネ買うって……」

「いーよいーよ。美桜ちゃんが欲しいんだろ?」


 こうして美桜のトレードマークは、ピンク色のシュシュになった。

 二人の仲は、悠陽が中学生に上がっても変わらず続いた。


 そうして4年が経ったある日。

 幸せな生活は唐突に終わりを迎える。


「俺が心臓の病気? ?」




〈3〉別れ、そして再会


 医者は苦い表情で頷いた。

 現実は残酷だった。


 曰く、治療法が見つかるまで最短でも10年かかる。

 曰く、病状が進行すれば、もって1年。


 医療用AIの下した結論は冷徹れいてつだった。

 中学三年生の悠陽へ、受け止めきれない現実が津波のように押し寄せてくる。抗うことのできない運命というものを、悠陽は初めて思い知った。

 だがそこへ一筋の光明こうみょうが差し込む。


「……え、なんとかなるかもしれない?」

「確実とは言えないけれど、一つあるとすれば……」


 医者は渋そうな顔で言う。


──助かるにはコールドスリープにつくしかない。


「はい?」


 悠陽は思わず聞き返した。

 要するに、いつか治療できる未来を夢見てというのだ。

 治療法だって見つかる確証はない。最短でも10年というのは運が良ければ、という数値なのだという。

『死』が『仮死』になったところで喜べるわけではない。


 いつか生き返れる、というよりも、という方がふさわしいからだ。


 それに、悠陽にはもうひとつ恐ろしいことがあった。


(嘘だろ……なんでこんなことに……)


 悠陽はだだっ広い病室のベッドでひとり、身を震わせている。

 選択は、悠陽の意志に託されていた。


(どうしたらいいんだ……これしかないのは分かってる……でも)


「……やっぱ、怖えよ」


 悠陽が恐れていたこと、それは。

 コールドスリープから目覚めたときのこと。

 治療法が見つかって、心臓が治って、何事もなく元気になったとして。


「誰も俺を知らないかもしれないんだろ……?」


 あまりに長い時が経ってしまったら、健康になったとしても誰にも会えない。誰もいない。

 家族も友人も。

 そして美桜さえも。

 イヤな想像に引っ張られ、思考はよくない方へと落ちていき。


(みんなが死んだ後に俺だけ生き残るくらいならいっそ……)


 悠陽は病室に一人きり。

 ベッドの上で膝を抱えて丸まて。


「……いっそ、俺がもう、死んだほうが────」


 絶望に溺れてしまいそうになったその時。


「私、待ってるから!」


 ドアを勢いよく開けて美桜が入ってくる。

 今の言葉を聞かれていたのだと、悠陽には分かった。

 まだ10歳の美桜は叫ぶ。


「来年も、再来年も、10年後も、大きくなっても、おばあちゃんになっても待ってるから! 死んじゃっても、きっと、ぜったい生き返るから! だから……」


 美桜はボロボロと涙をこぼしながら、それでも微笑みを浮かべて。


「だから、死ぬなんて言わないで、ゆう兄ちゃん」


 悠陽はその顔を見て、コールドスリープにつく覚悟を決めた。


「ああ……ごめん。馬鹿なこと言ったよ。……俺は帰ってくる。どれだけ時間がかかっても、ぜってー帰ってくるから」


 力強く言葉にする。

 美桜がそうしてくれたように、悠陽も強い言葉を使う。


「だから帰ってきたらまた遊んでくれよ」

「もちろんだよ、ゆう兄ちゃん」


 涙に濡れた美桜は笑って頷く。

 次の日からコールドスリープの手続きが始まった。


(美桜ちゃんがあそこまで言ってくれたんだ。『兄ちゃん』の俺がビビってる場合じゃないよな)


 悠陽はもう寂しくはなかった。怖くもなかった。

 冷凍カプセルに裸で寝そべった時も、よく分からない薬をたくさん飲まされた時も、冷たい液体が全身を包んだ時も、悠陽は平気だった。

 美桜の泣きながら笑う顔を思い出すだけで、悠陽は平気だった。



 それから10年後。

 仮死から生き返った悠陽は、病室を訪ねてきた女性から目が離せなかった。

 美人である。

 それもスタイルがいい。

 モデルのように高い背、存在感のある豊かな胸のふくらみ、それでいてくびれた腰つき──グラマラスな体型の女性だった。

 彼女は微笑む。


「おかえり、ゆう兄ちゃん」


 ゆるく結ばれた髪の毛はでまとめられている。


「もしかして、美桜ちゃ──」

「よかった! 帰ってきてくれて……ほんとうに……!」


 悠陽は抱きしめられた。

 突然のことに言葉を失う。それから美桜の体温をじんわりと感じて。

 10年ぶりの再会に感動していた悠陽の口から、美桜への言葉が飛び出る。



「うぉ……でっか……」



 ぜんぜん感動のセリフではなかった!

 魂からの動揺だった!


(ありえんて! 小さくて妹みたいだった幼馴染が、でっかくて綺麗なお姉さんになってる!? ありえんありえん!)


 だが、ありえていた。 

 ちゃんと柔らかい胸の感触を感じる。

 どむんっと、安定感のある重み。

 悠陽の鼓動が早くなる。


(生き返ったと思ったら……ここは極楽か!?)


 ふわりと香る甘い匂いに、目覚めたばかりの心臓がドキドキと鳴りはじめた。

 抱きついたままの美桜が耳元でささやく。


「ゆう兄ちゃん。約束覚えてる?」

「約束って、もしかして」

「そう! これから、いーっぱい遊ぼうね、ゆう兄ちゃんっ」




 ____

 イチャラブ極楽生活、始まります♪

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 ぜひお楽しみください( ˘ω˘ )

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