地獄のバケーションを生き抜く方法

ハルヤネコ

オープニング

1

 僕は車の窓から、外の景色を眺めていた。

 どこまで行っても見えるのは景色は、広大なトウモロコシ畑のみで、全く変わらない。

 思わずため息をついてしまう。

 

「ロイ、そんなため息ばかりついてると、幸せが逃げていくよ」

「父さん、こんなど田舎に預けられる時点で、僕は不幸だよ」

「もう、まだ文句言ってるの?しょうがないじゃない。お祖父ちゃんの具合が悪くなっちゃったんだもの」

 

 僕はハイスクールが休みの間、母方の親戚に預けられるために、車に詰められゴトゴトと舗装されていない道を走っていた。

 父さんの父さん、僕にとってのお祖父さんの具合が良くないらしく、看病の為にと母さんが呼ばれたらしい。

 お祖父さんはとても偏屈で子供嫌いで、僕が子供の頃も何度も怒鳴られたから、会わなくていいっていうのは賛成なんだけど、母さんは車の運転が出来ないというので父さんも一緒に看病に行くというのだ。

 となると、僕の預け先がないという事で、今まで疎遠だった母方の親戚の家に預けられる事になったのだ。

 だけど見渡す限りのトウモロコシ畑。

 絶対田舎だ。

 ゲームセンターもなさそうなこんな田舎で、何をしてればいいのか解らない。

 友達の家に行くといったけど、どれだけの間行っているか分からないのに無理よ。と母さんはほがらかに拒否をした。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。田舎なのはこの町に入る前だけで、入ってしまえば普通の町と一緒なんだから」

「そうだぞ、レイ。それにアビゲイルのお姉さんの家には、同じ年の子供も居るって言ってたし、いいじゃないか」

 そう言って父さんが母さんに微笑みかけ、何年経ってもラブラブな夫婦を見せつけられ、僕はげんなりとしま。

 子供が見ている前で、そういうの止めてほしいって言ってるのに。

 それに、同じ年の子供が居たとしても何がいいのか分からない。

 僕は結構人見知りだし、背も前から数えた方が早い方し、おまけにソバカスまである。小さい頃、よくからかわれて嫌な思いをしたから、そこから度の入っていない眼鏡で隠し始めた。

 一緒に暮らしたら、そんなのすぐバレていじめられるかもしれないと思うと、不安ばかり込み上げてくる。

 僕は、またため息をついた。

 すると車がいきなり止まった。

 

「なに、どうしたの?」

「倒れている人が居るんだ」

 

 言うなり父さんは車から出ていった。

 トウモロコシ畑に頭を突っ込んだ状態で倒れている老人に父さんは駆け寄り、何かを喋ってから肩を貸してこっちへと向かってきた。

 

「具合が悪そうだから、家まで連れていく事になった」

 

 麦わら帽子を目深に被り、日に焼けた老人は僕の隣へと座った。

 そして、歯の抜けた顔でニヤッと笑った。

 僕は慌てて目を反らし、ゲーム機へと目を落とした。

 なんか変な匂いがする気がして、僕は出来る限り端によった。

 

「大丈夫ですか?水飲みます?」

「さすがアビゲイルは優しいな」

 

 母さんが心配そうに老人へと、封を開けていないミネラルウォーターを渡すと、老人はビチャビチャと飲み始めた。

 気味が悪かった。 

 老人はペットボトルの水を三分の二程を一気に飲み干すと、嗄れた奇妙な言葉を喋った。

 

「いえいえ、人助けですから」

 

 その言葉に父さんは鷹揚に返事をする。

 僕には何を言ったのか全く分からなかったが、父さんには分かったみたいだ。

 それから、老人は母さんと父さんと何やら和やかに話し始めたが、僕には何を言っているかさっぱり分からなかった。

 時々何やら笑っているので、楽しい話しなのだろう。

 僕は不貞腐れたようにゲームに没頭した。

 やっと長いトウモロコシ畑を過ぎた所に、ボロボロな小屋のようなものが1軒立っていた。

 

「お家はあちらですか?」

 

 父さんの言葉に顔をあげると、老人は頷いている。

 やっと居なくなる。と僕はホッとした。

 父さんが小屋の側に車を止めると、先に様子を見てくる。と父さんと母さんが車から降りていってしまった。

 置いていかないで。と思ったけど遅かった。

 車の中で気まずくゲームの画面を見ていると、老人が僕の腕を軽く突いた。

 

「何?」

 

 今まで父さん達とは楽しそうに話していて、僕になんか興味をもっていなそうだったのに、いきなりで驚いた。

 だって何を言ってるか分からなかったし。

 僕が警戒しながら返事をすると、老人は笑いながらポケットの中から奇妙な物を取りだし、押し付けてきた。

 藁のようなもので出来た、小さな人型の人形だった。

 薄気味悪くて受け取りたくなかったが、老人は受け取るまで出ていかない。とばかりに無理矢理押し付けてくるから、諦めて受け取った。

 老人は満足そうに頷いてから、車から出ていった。

 父さん達は、外で老人と何かを話している。

 僕は受け取った奇妙な人形をながめた。

 人差し指ぐらいの小さな人形には毛糸で出来たような小さな服みたいなものを着ていて、全体的になんか薄汚れているような感じがした。

 この地域での民芸品か何かかな。

 眺めていると父さん達が戻ってきたから、慌ててポケットの中へとしまった。

 

「人助けはいいものだな」

「そうね。ロイがこれからお世話になる町ですもの。あなたには色々と迷惑をかけるわね」

「そんな事ないさ、アビゲイル」

「ねえ、暑いから早くスーパー行きたいんだけど」

 

 放っておくといつまでも続きそうな両親のイチャイチャを止める。

 喉が乾いたのは本当だけど。

 

「そうだな」

 

 父さんは苦笑しながら車のエンジンをかける。

 するとすぐに看板が出てきた。

 パドンフィールドへようこそ。と書かれていた。

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