Wonderwall
ノーネーム
第1話 誘いのカイト 群れる三人称
「もしも、私とあなたとの間に見えない壁があるのなら、
私はどうにかしてその壁をすり抜けたい」
昔、あるお祭りの日、私はかつて交流のあった、
学校のクラスメイトたちの声を会場で聴いた。
しかし、私は彼らに声を掛けられなかった。
なぜならば、かつて私自身が、彼らを拒絶したからである。
同じ祭りの会場で、同じように存在する私と彼らの間には、
何か、目に見えない「巨大な透明な壁」が存在するかのように感じられた。
そんなことを今、思い出している。
────数十分前、私は動画サイトで、「現在配信中」の動画を探していた。
そして同時に、「同接数の少ない配信者」を探していた。
邪な考えであったが、コメントへの反応が高く期待できる、と思ったからだ。
そこで目についたのが、「ある配信者」であった。
「彼女」と思わしき配信者は、曰く同接数ゼロの状態の彼女は、
私が配信を見ると、
視聴者に気付いたのかのか、ひとり、歌を歌いだした。
まだ慣れない風の、震えた歌声は、私に「応援したい」という気持ちを喚起させた。
徐々にひとり、ふたり、と増えていく視聴者。
トークも開始される。美しい声であった。彼女はよく、くすり、と笑った。
コメントを送ってみる。
彼女は、必要以上に自分を謙遜した。
別の視聴者からコメントが来る。
すると彼女は、突如、こんな声も、と、「可愛い声」を出した。
私の思考は、一瞬止まった。こんな簡単に、人は人の「望みに答える」ものなのか。
それからしばらくして私は、眠るため、それを報告せねば、と思い立ち、
「寝るので離脱します」
とコメントした。すると。
「ああそうですか」
と言った後、彼女はまた笑い出した。
…私は、バカだった。世間知らずもいい所だった。
自分の無神経なコメントで、結局、傷付いてしまった。
私はさらに「バカ」をくりかえす。
数週間後、またも彼女の配信を訪れてしまったのだ。
今度こそ。私も楽しく参加できるはずだ、と思い。
前回よりも、配信の同接数は増えていた。
彼女は前回よりも配信に慣れたのか、流暢にトークしていた。
好きな音楽の話。私は頷いた。コメントした。
「あっ…(察し)」
(彼女は私のコメントにしばし触れたのち、)
「私の存在などなかった」かのように、くすり、と笑い、喋りだした。
好きな音楽の話。聴衆もまた、私など「いない」かのように、穏やかに、
談笑は進む。
「見えない壁」が出現した。
そして現在。私は祭りを思い出し、こう思った。
「もし、私とあなたとの間に見えない壁があるのなら、
私はどうにかしてその壁をすり抜けたい」
そんなことは思わない方がいい。なぜなら、
「人の踏み込んではいけない領域に踏み込んで、いいことなどない」からだ。
私は、「人の地雷を無意識で踏んでしまう」ようだ。
私はもう、自らの「上から目線」を恥じたい。
そしてこう言いたい。やはりインターネットは難しい。
Wonderwall ノーネーム @noname1616
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