キミに贈る、幸せの花。

@tyoko_reta

キミに贈る、幸せの花。

私たちの出会いは、突然にやってきた。

中学校に入学してきて2、3週間経った頃だった。部活動の入部届を出そうと思って、顧問の先生の教室に向かった。教室の前で授業が終わるのを待っていると、私の隣に誰かが現れた。


彼女はとても素敵だった。一目見ただけで、私の心をつかんで離さなかった。

同じ一年生だろうか。

ヒマワリみたいに暖かく、エネルギッシュな雰囲気がある。

肩甲骨あたりまで伸びたこげ茶色の髪に、眉を隠すように切られたふわっとした前髪。少し高い背は彼女の魅力を引きたてる。とぅるんとした唇が愛らしい。


「どうかしましたか?」

はっ。いけない。気付かないうちに、私はその子に見入っていた。

「いえ。」

少し冷たい言い方になっちゃった。私の悪い癖だ。緊張して、うまく話そうとすればするほど、言い方がきつくなってしまう。そのせいで、クラスでも浮いてしまっている。

「もしかして、日野森さん?」

「はい。」

「よかった。」

彼女は私にやさしく微笑みかけてくれた。

「私、音楽部の入部届を出しに来たんだけど、日野森さんは?」

「私もです。」

「じゃあ、同じ部活かぁ。よろしくね!日野森さん。」

「よろしくお願いします。」

「そんなかしこまらなくていいよ!

もしよかったら、下の名前で呼びたいんだけど、、、下の名前、教えてくれる?」

「...明日翔あすかです。」

「よろしく、明日翔......ちゃん?」

「明日翔でいいです。」

「おーけー!じゃあ、私のことも名前で呼んでほしいな。」

私、この人の名前知らない。。。どうしよう。。。えぇと。。。

「あっ、私、七瀬ななせ ひなです!」

「雛、、、ちゃん?」

「呼びやすい名前でいいよ。」

優しいな。

「じゃあ、雛。」

「明日翔、よろしく。」

「よろしく。」

「同じクラスだよね?」

「えっ?」

「いや、入学したときの名簿に、私の近くに日野森さんの名前があったから。私、3組なんだけど。。。」

「私も。」

「席近いよね?」

「知らない。」

あっ。。。今の言い方きついかな。。。?

「ご、ごめーーーーー」

「だよね~私もわかんない。」

彼女はケラケラ笑っていた。なんて魅力的な人なんだろう。わたしは彼女の魅力にすっかり魅せられていた。


「ただいま~」

「お帰りなさいませ。お嬢様。」

大勢のメイドと執事が私に頭を下げる。


「お帰りなさいませ。雛お嬢様。」

そして、私の付き添いのメイド、アリアは私の手を取る。


「おかえり、雛。」

そして、アリアに連れられてお父様の部屋へ行く。


「ただいま、お父様。」

「雛、今日の報告を。」

「うん。今日は日野森 明日翔とみられる人物と接触したよ。

部活も言われた通り、明日翔と同じ部活に入った。気さくに話しかけてみたら、すごく嬉しそうにしてたんだ。

で、次は何をすればいい?」

「優秀だ。とりあえず、シナリオ通り、このまま関係を発展させろ。そして、明日翔にほかの人物を寄せ付けないように。早ければ情報を吐かせられるかもな。あと、このやしきには絶対に近づけるな。家に招待するときは、別荘の方に。」

「了解。」

「変な情は捨てたほうがいい。」

「。。。」

「最後は、『終わる』んだから。」


私は考えていた。どうにか『終わら』せない方法を。私は、いつもお父様から命じられたままたくさんの人を『終わらせて』きた。でも、『終わった』人にも、、、、、いや、いつも通りやればいい。私は、殺し屋の娘なんだから。


翌日、学校に行くと、校門で雛が待っていた。

「おはよう!明日翔!ずっとここで待ってたんだよぉ!」

「おはよう、雛。」

私は内心驚いた。こんな私のために朝早く待っててくれるなんて。昨日、よろしく、と言ったものの、面倒くさがられるのが落ちだと思ってたからだ。

他のクラスメイトも、あまり話さずつんけんしている私に遠慮していた。

でも、雛は違ったんだ。私は心の中で喜びをかみしめていた。

「今日、一緒に帰らない?」

「別にいいけど。」

「やったぁ!」

一緒に帰る、か。中学校になってから初めてだ。

教室に入ると、私たちの席が近いことに気づいた。通路を挟んで斜め隣だ。私の方が席が前で気づかなかったのか。

「やった~!席めっちゃ近いね!」

「。。。」

「え~嬉しくないのぉ。」

「嬉しそうだね。」

「めっちゃ他人事~」

いや、本当はとっても嬉しい。でも、恥ずかしくて全然反応ができない。

「じゃ、また後で。」

「うん。」

授業後も、雛はずっと私に話しかけてくれた。とても、嬉しかった。

そして、放課後も一緒に帰ることになった。

「ねぇさ、少し私の家寄らない?」

「どういうこと?」

「そんなに警戒しないでよ~。少し私の家で遊ばない?」

「いいけど。」

「やった~」

「よかったね。」

「絶対今、自分も嬉しいって思ってたでしょ!」

「何言ってんの、バカ。早くいこ。」

「もぉ、赤いほっぺして何を言ってるんですか~。」

優しい。とっても面白いし、私にはもったいない程いい子だな。

「私の家はここ!普通の一軒家!」

「わぁ。。。素敵。。。」

「そんな、大したことないよ。まぁ、入って入って。」

「お邪魔します。」

「礼儀正しいんだね。」

「当たり前でしょ?」

「十分すごいことだよ。」

「そ。。。ありがと。」

「よし、ゲームでもするか!」

そういって雛が取り出したのは将棋盤だった。

「将、、、棋?」

「うん。私、テレビゲームとかあんまり持ってなくてさ。高いから買ってもらえないんだよね。つまんなかったらごめんね?」

「別にいいよ。」

「ありがとう!」



「。。。私、また負けたんだけど。」

「やった~勝った!これで3連勝だぁ!」

「私も小さい頃おじいちゃんに少し教えてもらってたんだけどなぁ。。。」

「こういうゲームは散々やってきたからね。」

「雛、スマホとか持ってる?」

「スマホは持ってるけど、ゲームとか入れらんないしぃ。。。」

「今度、私の家、来る?」

「えぇ!いいのぉ!」

「ゲームとか色々あるよ。」

「やったぁ!」

なんか乗りで家に招待できた。嬉しい。いつにしよっかな。

「予定とかは、お母さん、、、に、、、、、、」

「どうしたの?明日翔?」

「やっぱごめん。招待、できない。」

「なんでぇ?」

雛が悲しそうに声をしぼめる。

でも、ダメなんだ。お母さんから、言われてる。自分の家に招待してはダメ、と。

実は私は、世界でもトップレベルの売り上げを誇る、旧財閥の西園寺グループの社長令嬢なのだ。

でも、世間には娘がいることを知らせていない。それは、私の安全を守るため。万一、家に招待して社長令嬢なのがバレてしまえば、どうなるか分からない。

「ごめんね。」


「お父様。帰ったよぉ!」

「雛、おいで。」

「別荘に明日翔を招待したよ。明日翔から、明日翔の家に行こう、って言ってたけど、やっぱりだめ、とのこと。きっと、西園寺グループの社長に娘がいることを知られたくないんだろうね。そうしたら、世界が明日翔を狙うだろうから。」

「でも、雛の努力次第では、西園寺さいおんじ 明日翔あすかの家に行けそうだな。すごい発展だ。さすがは雛だ。」

「うん。ところで、、、なんですぐに殺さないの?」

「情報を吐かせるんだ。それに、身代金とか、色々金を絞れるしな。」

「ふぅん。それならよかった。依頼が来てるのに、すぐにやらないからどうかしちゃったのかと思った。」

「内心、安心してるか?」

「!」

「もうすぐ、やるんだから。」

「わかった。。。」


いままで、たくさんの人を『終わらせて』きた。でも、いつもなら依頼が入って、その人のこと調べて、シュミレーションして、『終わらせる』だけだったのに。

初めての潜入調査で情が移っちゃったかな。

でも、明日翔とはバイバイしなきゃ。私は殺し屋の娘。依頼はちゃんと片付ける。

まだ明日翔とバイバイするのは先の話だ。今、この時を楽しもう。


でも、時間が過ぎるのは残酷で、瞬く間に過ぎていき、明日翔とのきずなも瞬く間に深くなっていた。そして、最初の期末テストが目前に迫っていた。


「おはよ。」

「。。。」

「おはよう!」

「。。。」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉはぁぁぁぁぁぁぁぁよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「うわっ!」

「最近どうしたの?ずっとぼーっとしてるけど。。。」

「大丈夫だよ。」

言えない。明日翔が死ぬなんて。2年生を迎える前に、私に殺されて。。。本当は殺したくないけど、失敗が許されなくって。。。言えたらどんなに楽だろう。

「本当に大丈夫?」

「うん。最近勉強がうまくいかなくて。。。」

「じゃあ、図書館で今日は勉強会でもする?」

「あ、、、それだけじゃなくて。。。できれば、明日翔の家、とか、ダメかな?」

「ううん。。。」

「あっ、ごめんね。だめだよね。前も言ってたのにごめんね。」

「いいよ。何とかOKもらえるようにする!」

「え、、、?」

「だって、雛が辛そうなんだもん。」

何て優しいんだろう。入学当初は、任務だから明るく接していただけで、それ以上の意味なんてなかったのに。いけ好かない奴だなって思ってたのに。

こんなにも優しくて、強くて。。。

「ありがとう。」

そして、放課後に家に行けるということが決まった。

「条件付きだけど家に行けるって。」

「条件?」

「うん。まずは、スマホは預けること、お父さんとお母さんの部屋、その他指定された部屋には入らないこと、だって。」

「厳しいんだね。。。」

「うん。色々あってね。」

「分かった。じゃあ、明日翔ちゃん家に行こうか。」

「うん!」


「明日翔ちゃん家って、商店街と通ってちょっと進んだところだよね。」

「何で知ってるの!?」

しまった。家を事前に調べているなんて言えない。

「いや、明日翔ちゃん家って、マンションじゃん?ここらへんで言うと、マンションってあそこくらいしかないかな~って。」

「へぇ!すごい。」

「土地勘とか、結構ある方だから。」

戦うときとかは、土地勘とか、あった方が便利だから、そういうのを把握しておいてるだけだよ。

「すごいねぇ。あっ!もうすぐ商店街だよ!」

商店街はとても賑わっていて、平穏だった。

「ねぇ、雛。みて、これ。」

明日翔が指さしたのは、アクセサアリー店のショーウィンドーに飾ってあるネックレスだった。

とても細かい銀色の鎖に、雫型のサファイヤは、とても魅力的に光っていて、一目見ただけで人を引き付けた。本物のサファイヤのようだ。

「ちょっと入ってみようよ。」

「え!?」

「あの、ショーウィンドーにあるサファイアのネックレス買えませんか?」

「えーーーーー!?明日翔!?」

「40万になりますが。。。。」

「じゃあ、クレジットカードで。」

「くれじっとかぁど?ですか?」

店員さんもびっくりしている。

「はい!」

「お買い上げありがとうございました。。。」

「はい、雛。これあげる。」

「いやいやいやいや、もらえないもらえない。」

「ちょっと高いけど、もらって。私の気持ち。」

5000円の物買ったくらいの感覚で言わないで!?金銭感覚おかしいって!

まぁ、社長令嬢だし、、、、、、当たり前なのか?

結局、明日翔に押し切られてもらってしまった。

「ありがとう、一生大切にするね!」

「着けてあげる。うぅん、難しいな。。。。。。あっ!できたよ。

わぁ、とっても似合ってる。」

鏡で見てみると、本当によく似合ってる。ネックレスがいいアクセントになっている。

「!」

私は明日翔に抱き着いた。

「どうしたの?」

明日翔は優しく私に微笑みかける。

「ううん、何でもない。」


「お邪魔しま~す。。。」

「入って入って!」

ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピー

「うわっ!?」

なんかのアラームかな。。。。。。いや、違う。アラームじゃない。これは、金属探知機、または、、、、、、盗聴器発見機の警告音だ。

「あっ!そういえばスマホ預けてなかったね。」

よかった。金属探知機の方で。盗聴器の方だったら、考えただけでも寒気がする。

「あっ!ごめん、忘れてた。」

「ごめんね、びっくりしたよね。うちの家、セキュリティにこだわってるから。金属探知機とかがあるの。」

「ううん、大丈夫!」

盗聴器もちゃんと外さなきゃ。


「わぁ!広い。。。景色も綺麗。。。」

さすが、タワマンの最上階だけあるなぁ。家もホテルみたいにおしゃれだし。

奥にあるガラスのダイニングテーブルがキラリと光る。

「リビングで勉強する?見晴らしもいいし。」

「うん。」

しかし、家には一つも写真がないな。もしかすると、隠したのかな?まあいいや。部屋を見ただけで得られる情報はいくらでもある。

家の構造、凶器や外部への連絡手段、建物の高さや逃げ道。家にあるものや監視カメラ、金属探知機の位置。ソファの柔らかささえも重要なカギになる。

こんな時にまで任務を遂行している自分が嫌になる。

「雛、大丈夫?」

「あっ!うん。。。」

「ほんとに?でも、顔に悲しいって、書いてあるよ。」

「ぁ、、、、、、うすうす気付いたんだけど、明日翔ちゃんって、かなり、お金持ちだよね。」

「。。。。。。えぇ~そうかなぁ。」

「そうだよ。だって、普通の家には金属探知機なんてないじゃん。」

「今どきはどこにでもあるんじゃない?」

「そういうものなんだね。でも、ほら、やけに高そうなところ住んでるし、スマホのホーム画面も、ほら。この家族写真、テレビで見たことあるよ。西園寺さんでしょ。」

これで、ちゃんと裏を取る。明日翔は、西園寺グループの娘じゃないんだって。そしたら、殺らなくていいから。

「、、、、、、バレちゃったかぁ。本当はこんなじゃなかったんだけどな。でも、ボロが出るもんだねぇ。さすがだよ、雛。大正解。

私は旧財閥の社長の娘、西園寺明日翔。私、もう死んじゃうのかなぁ。」

息の詰まった、泣きそうな声をして、明日翔は言った。

「そんなことないよ。」

だって、明日翔は、明日翔は、私がっ。。。。。。

「私、旧財閥のお嬢様何でしょ?それがバレたら、どれだけ危険か。ずっと、両親から、口酸っぱく言われていた。決して西園寺家の娘だとバラしてはいけない。そうすれば、世界が私を狙ってくるから。決して知らせてはいけない、知られ太はいけないって。

もしも、知られたら、命が無くなると思えって。」

「そっか。ごめんね。気づいちゃって。ごめんねっ、ごめんねっ。。。。。」

本当に、ごめんね。


殺しちゃって、ごめんね。


教えさせちゃって、ごめんね。


自分が殺し屋で、ごめんね。


殺し屋だってかくして、ごめんね。


反抗できなくて、ごめんね。


ごめんしか言えない私で、ごめんね。


こんな性格で、ごめんね。


こんな私で、ごめんね。


こんな私が生きてて、ごめんね。


生まれてきて、ごめんね。


泣いちゃいけないのになぁ。。。

「生まれてきて、ごめんねぇ、、、、、、」

「っ!二度と、そんな風に言わないでよ!雛は、私の大切な友達なんだよ?雛を愛してくれる人がいるのに、そんな風に言わないで。なんで雛が泣いてるの?」

泣きそうな声で私の瞳をまっすぐと見つめる。優しくて、強い瞳。

明日翔の訴えは切実だった。

「うぅ、、、うぅぅぅぅぅぅぅぅ。」

「大丈夫、大丈夫。」

明日翔は、「大丈夫、大丈夫」といって私の背中をさすってくれた。

話してもいいかな?お父さんに付けられている盗聴器兼GPSも、超小型カメラも、いまは預けているから。。。。。。でも、何が起こるかなんて、分かんない。言っちゃ、だめかぁ。辛いよぉ。辛いよぉ。

何で殺らなきゃいけないの?

ただただ、二人で一緒に過ごせていれば、それで十分幸せだったのに。そんな小さな幸せさえも、願えないの?こんな世界、もう嫌だ。

______________________________________

違う。幸せは望むものじゃない。手に入れるんだ。私が弱腰になってるだけで、本当は、幸せも願えるし、明日翔を殺らなくていい。

悪いのは世界じゃない。世界は平等だ。格差は勝手に人間が作り出したガラクタだ。格差があるのは、人間が悪い。

だとしたら、私が恨むべきは、願うべきは、世界じゃない。


人間である、私自身だ。


泣いていてはいけない。現状を変えたいんだったら、前を向かなくては。下を向いたって、上を向いたって、答えは、目の前にあるんだから。


何度だって立ち上がる。弱音を吐いただけ、傷の数だけ強くなるんだ。


「ごめん、取り乱した。」

「大丈夫?」

「うん。私、明日翔に伝えなきゃいけないことがあるんだ。」

「え、、、、、、?」

「聞いても、驚かないでね。約束できる?」

「えっ。。。。。。どうしたの?雛?」

「お願い、聞いて、明日翔。驚かないって、約束して。」

「分かった。」

「すぅ、、、はぁ、、、

実はね、私、、、、、、殺し屋なんだ。」

「!」

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