15.不幸は付き物
「それでは、お世話になりました!」
イーリスは深々と頭を下げる。それを暖かな目で見る祖父母。
「また来なさい。いつでも待ってるわ」
「そうじゃ、そうじゃ。いつでも待ってるぞ」
婆ちゃんと爺ちゃんは笑顔で答える。
「はい、ありがとうございます。ものすごく充実した日々を過ごせました」
ニコリと笑うイーリスを愛しそうに見つめる二人だが、不意にこちらをジト目で見てくる。
「家の孫にイーリスちゃんが良かったわ」
「本当にそうだな。こんな良い子、中々おらんぞ」
酷い言い草だ!孫に向かって!俺、家出してしまいますわ!
まあ、見た目は十二のガキ、前世は七十の爺、精神は十八の引きこもり。
言っていて自分でも気持ち悪い存在だと分かる。
にしても、いつの間に爺ちゃんともイーリスは仲良くなっていたのか。
俺の味方がいない。
「お、お祖母様もお祖父様もありがとうございました」
礼を言うと、やれやれといった感じで言われる。
「まあ、貴方も来たかったらいつでも来ていいわよ」
「そうじゃ。いつでも待っておるぞ」
さっき程、心こもってねえぞ!とツッコみたくなる。
「そ、それではさようなら」
そそくさと俺は馬車へと乗り込む。
イーリスは暫く二人と話をして馬車に乗り込んだ。それと同時に馬車が進みだした。
◇◇◇
馬車はインフィルス子爵家領を南へと進む。向かう旅行先は【エルランド大同盟】。
エルランド大同盟は大陸の南方にある大きな島を領する国。半月型のこの島は殆どを森で覆われている。その森で数千年前から暮らし、エルランド国民の大半を占めるのがエルフだ。
昔からエルランドにはいくつものエルフ部族があった。それぞれが対立し合ったりしていたが、数百年前に全部族が同盟を組み、エルランド大同盟ができた。
エルランド大同盟の首都は大陸に近い海側の街、フィールス。そこで国の運営をしているが、基本はそれぞれの部族が自らの領地を治めている。言ってしまえば小国家の集まりみたいなものだ。
エルランド大同盟のトップは同盟主。エルフの中から稀に生まれるハイエルフと呼ばれる上位種族の中から選ばれる。
さて、次にエルフだ。
エルフと呼ばれる種族は、耳がシュッと長く美形で長寿。異世界種族認知度ランキング上位に入るぐらいにはメジャーな種族だ。
エルフは基本的に弓と魔法の使い手。特に弓に魔法は付与する金魔法と癒しの聖魔法を得意としている。
中でも聖魔法を特に得意とする存在をハイエルフと呼ぶ。
ハイエルフは他のエルフよりも聖魔法が使える存在であり、この国そして世界でも尊い存在である。
インフィルス領から馬車で丸二日。
最南端の街、ソースから船が出ており、丸四日かけてエルランド大同盟へと行ける。
「わぁ〜凄い綺麗!見てみて、魚が飛び跳ねてる。あ!あれイルカだ!私初めてみた!」
はしゃぐイーリス。
「そう言えばエルランドに美味しい食べ物があるってさっき聞いたんだ。たしか・・・フルーツポンチ、だった気がする。色々なフルーツと白玉っていうのを合わせて食べるらしいよ!」
ああ、日本ではよく食べたよ。
「でねでね、他にもあんこって言う食べもがあって、見た目は少し変だけど甘いんだって」
この世界にもあるのか。
「後、やっぱりフルーツが美味しいらしいよ。スイカっていうまん丸で外が緑と黒のシマシマで中が真っ赤なな物や、同じようにまん丸で外も中も黃緑色のメロンっていう物が今は旬らしいよ!」
さすが果物の名産地。なんでもありそう。
「そうそう、学園の近くに美味しいパフェ店あるじゃん。あの生クリームと果物を薄い生地で巻くあのパフェ!なんでもエルランドが発祥で、その店の本店もあるらしいよ!」
そうなのか、へぇ〜。
「後一日で着くね!楽しみだな〜。お土産とか何が良いんだろう?やっぱフルーツかな?でも、日持ちするかな?」
好きにすれば良い。
「レーくん、聞いてるの?」
「はいはい、聞いてます」
「素っ気ない」
「仕方ないだろ、船酔いしているんだか―うっぷ、」
危ない。口を開くと吐きそうになる。
大海原の上を進む大きな帆船。白いワンピースを着た少女は麦わらの帽子を被り、嬉しそうに笑いかけてくる。
海風がいたずらしようと強風を吹かせ、少女は帽子が飛ばないように頭を押さえ、ワンピースが捲れないように内股になる。
そんないたずらすら楽しそうに笑う少女。
そんな映画のワンシーンのような場面。
俺は・・・隣で・・・・・・吐き気を催していた。
場違いにも目を虚ろにさせ、どこか遠くを見ていた。大きな揺れが起きると、溢れ出る吐き気を必死に抑えていた。
「大丈夫?」
白いワンピースの少女、イーリスが心配そうに見てくる。
「ああ、ただの船酔いだ―うっぷ」
横になっている分は良いが、立ち上がれない。だから今は横になっている。
「それにしても、まさかレーくんにこんな弱点があったなんて」
「ああ、俺自身驚いたよ」
前世ではまったく酔わなかったけど・・・この体は船には酔いやすいようだ。
「はぁ〜まだ着かないかな」
「さっきも言ったけど後一日は我慢しないと」
「はぁ〜〜―うっぷ、」
精神は既にぼろぼろ。弱音をタラタラと吐いてしまう。
ポジティブに行かなければ!
俺は必死に妄想した。
付いたら一回寝て、美味しい飯をいっぱい食べる!そうだ、パフェの発祥地だ、いっぱい食べよう!
?まてよ、エルフの国なんだろ。だったら美人も多いはず。も、もしかして可愛いエルフさんに出会って、色々有りながら最終的にキャキャキャウフフ的な展開に!
「デュフゥ」
「変な声上げて鼻血出してるけど大丈夫?」
はっ!いかんいかん。純粋極まりない勇者の隣でこんな考えをしてしまうとは・・・
でも楽しみだ。デュフフフフ・・・
彼は忘れていた。勇者に事件は付きものだということを。
◇◇◇
さて、やっと着いた。
問題なく船は進み、問題なくエルランド大同盟の首都、は実際は無く中心地【エルファニア】に到着した。
船が停泊したのは大きな港。そこから街の様子がよく見える。
まず目に入ったのは真っ白な建物。港から真正面に見える城と言うほどでもないが立派な高い建物。見張り台二つが周囲に見える為、恐らく行政施設か何かだ。
次に目に入ったのが活気ある街並みだ。白い大きな建物までの大きな通りにたくさんの人々が行き交っていた。多くの店が並んでおり、美味しそうな匂いがここまで届く。
他にも目を引いたのが、白い大きな建物の後ろにそびえる大きな木。
エルフは自然信奉者と知られており、実際に自然と共存してこれまで生きてきている。もちろん大きな街を作るなど文化的になっているが、それでも自然第一の考えは変わらない。
特にエルフ達が大事にしているのが【聖樹】。
ここに中心地があるのも聖樹があるからだ。
太古より存在しており、何で信奉しているのか知らないが、とりあえず大事らしい。
その聖樹を守る者こそハイエルフ。
ハイエルフはエルランドの盟主と同時に聖樹の守護者なのだ。
とりあえず、何事もなく着いた。
「はぁーはぁー」
俺は酔いが治まるように息を整えながら船から降りる。
足取りは覚束ず、フラフラする。思考もぼーっとしていてあまり何も考えたくなかった。
何故かできている長い列に俺らは並ぶ。列は少しずつ進み続けるが俺は特に気にしなかった。
あ〜早く出会ったエルフとあんなことやこんなことを・・・
「次!」
声のした前方を見ると衛兵がおり何やら検査をしている。検査をされているのはおそらく船に乗っていた人達。おそらく簡易的な入国審査だろう。
少しすると列がどんどん進み遂に俺らの番となる。
「身分証を」
二人の衛兵の内、俺から見て右側に身分証を渡す。
「よし」
裏表を一通り見て返される。
それにしても・・・かっこいいな。
二人の衛兵はどちらもエルフ。鍛えられた体は着ている服からよく伝わる。顔はさすがエルフと言うべきか。白い肌はよく焼け、爽やかな全体的な顔は見た人の目線を奪う。
ただ、少し残念なのが二人ともかっこいいためどちらかが目立つわけでは無い。
「おお!」
何やら白い光が出て二人が驚いているが俺は特に気にはならない。
それより酔いが酷い!早く揺れないところで寝たい!
そして、ボンキュッポンなグラマーエルフとイチャラブを、デュフフフフ・・・
そんな変態的な事を考えていると衛兵から呼ばれる。
「次は君」
呼ばれた俺は前に出る。机の上には透明な丸い玉、水晶玉が置かれていた。
「手を置け」
「あ、はい」
これは何だっけ?え〜っと・・・正常に頭が動かん。まぁ〜言う通りに、
俺は手を軽く水晶玉に乗せる。
「こ、これは!」
衛兵が声を上げる。お、遂に俺という偉大なる存在に気づいたか。
内心で冗談を言いながら虚ろな目で下の水晶玉を見る。そして、俺も驚愕する。
色は、黒。
漆黒というわけではない。かと言ってグレーでは無い。単純に黒。水晶玉は黒色になっていた。
・・・・・・え!?
「おい、犯罪者・・・いやその歳なら犯罪者予備軍!拘束させてもらう」
「・・・へ?」
持っていた槍を俺の喉元に突きつけてくる衛兵。流石に酔いも少し醒める。だが、根本的な解決ではない。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「そ、そうですよ、レーくんは悪い人じゃありません!」
俺とイーリスは訳も分からず何かを否定する。
「いいや、この【真実の玉】は絶対だ。君、そこの彼から離れなさい!おい、犯罪者予備軍!手錠を掛ける」
俺に抵抗する隙を与えず拘束される。
何でこうなった!!!
◇◇◇
そんなこんなで俺は牢屋の中。手錠と足枷(重くない)をはめられた。
何度も無罪を叫んだのに聞いてくれない。ただ、捕まった経緯は理解できた。
「おい、出ろ」
数人のエルフ衛兵を連れて身分の高そうな奴が牢屋の鍵を開ける。
そのまま衛兵二人に両脇を抱えられ何処かへと連れて行かれる。
船酔いが治った今は正常な判断が出来る。だが、既に遅しだ。
「被告、レイド・ルーロ・インフィルスを連れてまいりました」
門番二人が守る大きな門。そこで俺の前を歩いていた身分の高い奴が大声で叫ぶ。
「・・・入れ」
「はは!」
ギ、ギギギギギーーーー
大きな音を立てて門は開く。その先に広がる・・・いやある光景を見て自分の死期を悟った。
大きな広間の中央にみすぼらしい椅子と机。両側にはそれぞれに豪華な椅子と机。正面は裁判所のようになっており、その中央に一際目立つ椅子があった。
まるで漫画で見る異端審問会のような場所。
俺はそのまま中央のみすぼらしい机へ。
よく見ると俺の後ろには数十人の人が座っていた。裁判所のような傍聴席だろう。
その中にイーリスを見つける。心配そうな顔をしてこちらを見てくる。
前方を向くと裁判長のような人が五人。そして中央には一際美しいエルフが。俺はそれがこの国のトップのハイエルフだと一目でわかった。
なぜなら・・・いや、今は死ぬかもしれない異端審問会始まるんだった。
「静粛に!これよりレイド・ルーロ・インフィルスの裁判を始める!ダンアーツ審問官。詳細を述べよ!」
「はっ!」
始まりを宣言したハイエルフ様の前に座る老齢なエルフが、俺の右側に座る男を呼ぶ。そしてダンアーツと呼ばれた男が話し始める。
ざっくり言う・・・前に俺がなぜ捕まったのか。
それは船を降りた後触ったあの水晶玉にある。
水晶玉の名前は、真実の玉。これに触った者の心の内を色で表してくれるのだ。
白は完全な善人、黒は犯罪者や悪いことをする可能性のある犯罪者予備軍。青は普通の人、黄色は改心した元罪人、緑はエルフ、と言った感じで、触れただけでその人の全てが分かるのだ。
これはエルフしか持っていなく、これにより世界の中でも犯罪の少ない国として名を轟かせていた。
そして、俺がそれに引っかかってしまったのだ。・・・・・・何故?
審問官も俺が黒く染まったと言う内容を話した。
「被告人!その前にある真実の玉に触れよ!」
俺は仕方なく触ると予想通り玉は黒く染まる。
「何と、あのような歳で黒とは・・・」
「犯罪者予備軍とは・・・」
「数十年ぶりらしいぞ」
「魔王の生まれ変わりに違いない」
傍聴席のヒソヒソ声が耳に入る。
しかし元勇者の生まれ変わりが魔王と呼ばれるとは情けない・・・俺のことだが。
「静粛に!!被告人、申し開きはあるか!」
「申し開きも何も―」
「そのようなものは要らぬ!即刻罰を与えるべし!」
俺が弁明する前に右端の裁判官が声を荒げる。すると他の裁判官達も賛同する。
「そうだ、そうだ!悪に違いない!」
「今すぐ罰を!」
はぁ〜、俺は何で責められているんだ?この真実の玉が欠陥品なのでは?
だって俺は仮にも元勇者だぞ!心は透き通って・・・・
第四大天使を堕天使呼ばわり、平民を権力で脅す、優越感に溺れる、エルフとのイチャラブを想像する・・・・・・
俺の心、結構黒いな。悲しい。こりゃ〜自分でも弁明できない。
俺の、新しい、人生は、終わった・・・・・・
いや、もう一つの望みにかけろ!もしかすると正義の美人ボンキュンなエルフが助けに現れるかも。異議あり!、って。
「それでは被告人の罰は、手足両断の刑とする!」
そんな、もう駄目だ。
「それでは―」
「ちょっと待ちなさい!」
その声に全員が振り返る。傍聴席の後ろから前へと進んでくる少女。そして後ろを歩く少女。
どちらも見覚えはある。後ろにいるのはイーリスだ。そして前のは―
「貴方方は帝国に喧嘩を売るのかしら?」
一番現れてほしくなかった人物。一番苦手な人物。だが、一番この審問会止める力を持っている人物。
「お久しぶりね、レイド」
ヴェリーナ・ルーラ・アルレンスがそこにいた。
転生した勇者は最弱でした 〜クズな俺は自分の為に勇者を育成する〜 スクール H @school-J-H
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