12.初めての・・・

「実力を、見る?」


何故?といった感じで首を傾げるイーリスの頭を撫でながら説明する。


「貴方達は今日から魔物を狩りに行くんでしょ」

「ええ、そうです」


俺達がインフィルス領に来てやりたかったことの一つが魔物狩り。


来学期から実践的な授業でやるため、慣れといたほうがいいということでイーリスに経験させるつもりだった。


「お祖母様には事前にお伝えしたと思いますけど」

「ええ、聞いているわ。でもね、帝立学園生と言っても貴方達は子供。教師をしていた頃、貴方達みたいに魔物に挑んだ中学一年生が何人もいたわ。でもね、ほとんどの子が大怪我をして帰ってくるわ。実力が無いと無理なものよ。だから、私が直々に貴方達の実力を見てあげるわ。それで許可を出すか判断する」


やばいやばいやばい!俺、絶対実力無いって言われるよ。どうしよう。


俺が悩んでいる中、イーリスはやる気満々だった。


「魔法で良いですよね!どこに打てばいいんですか!」

「それなら、あそこの的に」


婆ちゃんが指したのは庭園の端の方にある大きな的。


「あれって―」

一応五大エクサまで耐えられるわよ」

「わかりました、全力で打っていいと言うことですね!」

「ええ」


許可をもらうとイーリスは魔法を打つ体勢に入る。魔法陣がイーリスの手のひらから構築されていく。光り輝く魔法陣は周囲の魔力を吸収して、大きな魔力の集まりが魔法へと変化していく。


イーリスは手を前に出して詠唱する。


四大水聖雷ペタ・ラ・ハイドウォース!」


大きな水流が放出される。ただそれは内部が白く輝いており、周囲が電流で覆われていた。水属性、風属性、聖属性を組み合わせた[混合魔法]。今イーリスが放てる最高級の魔法。


水流は的に勢いよく辺りに大きな音とともに地響きを起こす。的に穴を開け、弾けた電流が周囲に散らばる。的の裏の壁にはヒビが入り、一瞬何かが壊れる音がした。


「ありゃ〜屋敷を守っていた防壁バリアまで壊しちゃうか」

「あ!す、すいません!!!」

「いいのよ、すぐに直せるから。それより・・・凄いわね」

「はい!レーくんといっぱい練習したので!」


元気よくイーリスが言う。婆ちゃんは、嘘!っという表情をして俺を見る。俺は事実だからうなずく。


「そう、本当なのね。じゃあ、次はレイド。貴方のを見せなさい」

「お、俺ですか。いや、別に俺はいいですよ」

「そういうわけには行かないわ。教える側なんだったら実力ぐらいあるわよね」


そ、そうきますか。仕方ない、何を言われるかわからないが覚悟を決めてやるしか無い。


もう一つの的に向けて俺は打つ体勢に入る。チラリとイーリスを見ると心配そうな表情を浮かべている。


「ふぅ〜。・・・一大水聖雷メガ・ラ・ハイドウォーズ


俺が詠唱すると魔法陣ができ、先程と同じように魔力が集まり魔法が放たれる。しかし威力が大分落ちた水流が的に当たる。水と電流が当たると同時に弾けた。


「これが俺の実力ですよ」

「貴方、まさか全属性使えたりするの?」

「ええ、そうですよ」


婆ちゃんは驚いた表情を浮かべる。

無理もない。全属性を扱える人などほんと一握りしかいない。婆ちゃんも魔法は得意らしいけど、金属性は全く使えないらしい。イーリスは聖、水、風、土が使える。

身体強化は誰でも使えるため、それを除いて基本的な人は二つの属性が使える。四つなど珍しく、全属性などこの国にも数えられるぐらいしかいない。


俺は前世の勇者時代の能力のままのため全属性が使える。ただし、威力は弱いため結局最弱だ。


婆ちゃんは何か考えており、答えが見つかったのか俺達に呼びかけてくる。


「あんたたちの魔物狩りに私もついていくわ」


・・・え!



◇◇◇



私は前方を歩く子供を見つめる。

冒険者に近い動きやすい服装。私にも見覚えのある学園の耐久性がしっかりした服を着装している。


孫のレイドとその幼馴染であるイーリスは目的地へと徒歩で向かいながら、楽しそうに会話をしている。


二人を後ろから眺めながらフリラは一人、先程の光景を思い出していた。


まさか、こんな逸材がいたとは。


イーリスの魔法を見て年甲斐もなく震えてしまった。あれだけの威力をあの歳で使えるとは。感服せざる負えない。


あの歳でペタを使えるのは驚いたが、一番驚いたのはその【練度】だ。


練度とは言わば魔力をどれだけ操れているかということ。練度が高ければ高いほど正確に魔法を打つことができ、威力も上がる。

練度が百のメガ魔法なら練度七十のギガにすら勝ることが出来る。更に練度三十のテラすら相殺できるくらいなのだ。


ただ、この世界において練度はあまり重要視されていない。何より威力が強ければ強いほど良いため、練度はあまり優先的に訓練されてきていない。


だが、イーリスの威力と練度は将来を期待せざるおえないぐらいのものだった。その高い魔力量と技術力。末恐ろしいとすら感じる。


その練度で言うと、フリラはレイドの魔法には驚かされた。


全属性を使えるのも凄いが、その練度は百を軽く超えていると言ってもいいぐらいのものだった。あれだけの練度になるには数十年はかかる。フリラ自身もあれほどの練度は無理だった。


ただ、だからといってレイドが強いかと言うとそうでもない。結局威力がものを言うこの世界で、練度が高いだけでは強いとは言えない。


だが・・・もしレイドが練度の高め方をイーリスに叩きこめばどうなるか。イーリスがレイドほどの練度を持てばどうなるか。


「若さとは恐いね〜」


フリラは一人つぶやく。


この二人ならもしかすると、勇者になれるかもしれない。そう思ってしまった。


◇◇◇


青々とした雲一つ無い空。広々とした平原には風が吹き、草花が靡き、緑葉たちも風に揺られ動く。小鳥がさえずり、なんとかかんとか。


とりあえず、俺達は広々とした平原にいる。


魔物狩り―それは人に害をなす魔物を倒すということ。ほとんどの魔物が人になんかしらの害をなす。だからこそ狩ること自体は違法などにならない。


魔物と言ってもレベルが色々と分かれている。前世の400年前は下級、中級、上級、災害級と四段階だったが俺はそれを変えた。異世界モノによくありふれており、分かりやすいアルファベットの分け方。

下からE、D、C、B、A、S、SS、SSS級。八段階に分けた。


魔物討伐専門の[冒険者]。この世界の生物の中で最も占める魔物を倒すためのちゃんとした職業としてあり、国に登録すれば誰でもなれる。


冒険者たちが集まり会社化する【ギルド】に所属したり、野良で活動したり様々。

魔物討伐の依頼を斡旋する冒険者ギルドに行くことで仕事を貰っている。


だが、この冒険者にランクなどは無い。もっと言うならステータスなどもない。さらにさらに言うと、冒険者として登録して無くても魔物を狩って、出たアイテムなどを売ることも出来る。


もちろん、ある程度使える魔法の威力や剣術の力量で何となくステータス化する人もいるが、あくまで指標にすぎない。


どうやって討伐依頼を受けるかと言うと、完全に個人の判断。自分に合っているだろうものを見極める。ある程度高いランクの依頼は実力と実績のある冒険者を冒険者ギルドが選んで依頼する。そういう方式をこの世界ではとっている。


未成年で学生の俺やイーリスが魔物狩りが出来るのはそういうわけだ。



「さて、貴方達はこれから魔物狩りをやる。その上でしっかり覚えていくこと、三つ言える?イーリスちゃん」


先生のように問題を出してくる婆ちゃんにイーリスは、背筋を伸ばして答える。


「はい!一つ、敵わない相手に会ったら逃げること!二つ、相手を侮らないこと!三つ、自分の命を大切にすること!」

「良く言えたわね」


婆ちゃんに褒められると、イーリスはニヒヒと得意気な笑みを浮かべる。


「貴方達は二人。だからこそ連携を大切にしなさい」

「はい!」


その後も色々と説明があったが、学校の授業の復習だったため聞くふりをして周囲を見渡す。


一見何もいなさそうな平原。背の高い草しか生えていないように見えるが俺には分かる。周囲に魔力を少し流してみると感じ取れる。

魔力を少し流し、魔力を持っているものに当たるとこちらに跳ね返ってきて探知できる魔法。俗に言う探知魔法だ。これで魔物がいるかどうか分かるのだが・・・


「アルミラージか」


俺が探知魔法に引っかかった魔物の名をつぶやくと婆ちゃんがこちらの方を見る。


「よく気がついたわね」

「え!」


イーリスはなんのことか分からず驚いたので、俺は探知をするように言う。


「・・・わぁ!ほんとだ!何体か近くにいるのが分かる!」


大きな声を出してはしゃぐが、逃げてしまうかもと思ったのかすぐに口を噤む。


「いいかい、二人共。学校で倒し方はやったと思うけど実際やってみると簡単には行かない。だから、私の動きを見るんだよ」


そう言って婆ちゃんは風魔法を詠唱する。


大空風グランド・エアーウィン


空気によって作られた刃が風に押され真っ直ぐ速く動く。一見ただの草むらに放ったとしか思えないが次の瞬間―


 キュエーー!!


兎の体をした頭に一本の角を生やした動物、いや魔物が叫びながら飛び跳ねた。目は赤くこちらを睨んでくる。

ご自慢の脚力で逃げようとするが婆ちゃんがそれを許さない。


大空風グランド・エアーウィン


もう一度詠唱される。今度は正確に首を狙い、真っ直ぐ飛んでいく。その速さに対応できず、一匹のアルミラージの首に当たる。当たると同時に首を切り裂いてそこから青い血が噴き出る。

数秒間は痙攣していたが息絶えて動かなくなる。


その光景を見てイーリスは顔を手で覆い、目に涙を浮かべている。


「こうやってやるんだ。まあ、授業で聞くのと実際見るのでは違う。子供には少し耐えられない光景だろうね。だけど、これから何回もこんな光景を見ることになる。だから慣れなければならない」


婆ちゃんはイーリスの頭を優しく撫でる。


「次は貴方達の番だよ。出来るかい?」

「・・・はい!」


イーリスは覚悟を決めて大きな返事をした。



「イーリス、一人で出来るか?」

「が、頑張ってみる」


不安は残るがとりあえずやらせるしか無い。俺は少し離れたところで見守ることにした。


イーリスは周囲に魔力を流し、アルミラージを探す。少しして、見つけたのか離れの草むらの向かって魔法を放った。


一大水流刃メガ・ウォオーターブレイド


水でできた刃が勢いよく進む。しかし既のところで気づいたのかアルミラージが飛び跳ねて避ける。


「ひっっ」


本来は狙いどきな瞬間。しかしイーリスは赤い目で睨まれて思わず足がすくむ。それを見て自分よりも弱いと感じたのか、アルミラージは着地した後イーリスに向かって突っ込んで行く。。


震えていたイーリスだが、危機感を感じたため咄嗟に魔法を放つ。


「メ、一大空風メガ・エアーウィン!」


しかし震えながら打ったので当然狙いは定まらない。


放たれた魔法は明後日の方向に行ってしまった。

イーリスとの距離がどんどん狭まる。しかし腰が抜けてしまったのかイーリスは立ち上がろうとして失敗する。


このままではイーリスが怪我する!


俺は咄嗟に走って剣を抜く。

前しか見ず突っ込もうとするアルミラージの無防備な首に狙いを定め、俺は振り下ろした。


 シュ―――ザシンッッ!


振り下ろされた剣が肉を骨を切り裂く音が辺りに響く。一匹のアルミラージの胴体と頭が離れ離れになり、青い血を垂れ流す。


「ふぅ〜危なかった。大丈夫か?」


俺はイーリスの方に歩いていき手を差し伸べる。


「あ、ありがとう」


恐怖が収まったのか俺の手を取り立ち上がろうとする。が、後ろにある死体が目に入ったのかその場でまた踞り、そのまま嘔吐いてしまっていた。


どうすればよいか困っていると婆ちゃんが駆け寄ってきて優しくイーリスの背中を擦る。


「まあ、一、二回じゃ慣れないものよ。私達は魔物狩りをしているけど、命を奪っていることには変わりないわ。今はたくさん苦しみなさい。いつか慣れてしまうもの」


しわがれた優しい声で婆ちゃんは言う。ただ、何故か奇怪なものを見るような目で俺の方を向いてくる。


「それにしても、あんたは平気なようなのね」

「ええ、まあ」


前世では何千、何万体も殺してきましたし。


「魔物相手にも動じずに対応できるなんて、初めてじゃ普通できないことだわ」

「そ、それは学校で習いましたし、な、なんとなくで〜やったんですよ〜」


そうだよ、普通この歳で魔物相手に平気でいられるのもおかしかったわ。今から吐き真似するか・・・いや、余計怪しまれるわ。


「まあ、そういうことにしとくわ」


めっちゃ怪しまれているけど、ギリギリ乗り越えられた。


俺が内心焦っていた一方で、イーリスの嘔吐きは収まり、立ち上がろうとしていた。


「イーリスちゃん、無理しなくて良いんだよ。いつか、できればいいから」

「いいえ」


婆ちゃんが休むよう諭すがイーリスは拒んだ。


「まだ、出来ます」


そう言って再度魔力を周囲に流し探知をし始める。


「イーリス、無茶を―」

「見つけた、一大水流刃メガ・ウォーターブレイド!」


俺が止める前にイーリスは魔法を草むらへと放つ。

驚いたアルミラージが草むらから飛び跳ねて姿を現す。そこを―


一大空風メガ・エアーウォン!」


今度は正確に風の刃を放つ。

きれいな刃が勢いよく真っ直ぐ頭と胴体の間、首へ目がけて行く。


 シュゥッッ―――――ザクッッ


魔法が綺麗に首を切り裂いてアルミラージを絶命させる。


「はぁぁ、ふぅぅ、はぁぁ」


息をイーリスは整えた。

息絶えたアルミラージからは青い血が大量に流れ出ていた。それをイーリスは肩を震わせ、涙を堪えながら凝視した。


 この子の命を私が奪ったんだ。


この日、イーリス・ルーラ・フラウドは初めて魔物を狩ったのだった。

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