転生した勇者は最弱でした 〜クズな俺は自分の為に勇者を育成する〜
スクール H
1.プロローグ 勇者
「
高身長の銀髪で耳の長い女性が魔法の炎を纏う矢を放つ。
「グギャァーーー!!!!」
矢は真っ直ぐ進み、角が生え、長髪で細身の禍々しい男に当たる。当たると纏っていた火が一瞬で体中を駆け巡り、男は火達磨になる。が、なんとか自らを強化して消火をする。
だが、その一瞬の隙を彼らは見逃さない。
「「「今よ、タイガ!」」」
三人の仲間たちに呼ばれた青年、【四谷 大河】が前に出る。白く光るロングソードを構えて、これまでの戦いで傷ついた禍々しい男に斬りかかる。
「死ねーーー、魔王サテス!!!!!」
戦友であり、体の一部と言っていいロングソード、【フレイス・ライト】が魔王【サテス・サティーニ】の体に食い込む。
大河は力を込めて振り斬ろうとして、剣は段々と魔王の肉体に侵入し肉を断ち切っていく。
「我が負けるはずなど無い!!!!」
雄叫びを上げ、剣に抗う魔王。
自身を強化して、なんとか剣の侵入を食い止める。
「行けーーー!!!!!」
大河も力を込めて、斬ろうとする。魔王によって亡くなった人々、苦しんだ人々の思いを込めて。
「反転魔法、
流石にやばいと思った魔王が最高級反転魔法を詠唱すると、フレイス・ライトにヒビが入る。
パキッ、パキパキパキッッ
反転魔法によりヒビができて段々大きくなる。聖剣の剣身が砕け、剣の柄だけが残る。
思わず大河が後ろに下がると、それを見て勝ち誇ったかのように不気味な笑みを浮かべる魔王。
「ハハハ、お前の片腕とも呼べる聖剣が壊れたぞ!お前らの負け―」
「まだだ」
大河は剣の柄を放り投げ、慢心の笑みを浮かべる魔王へと突っ込んでいく。
すまない、フレイス。今までありがとう。
七つに砕けた剣を横目に、大河は懐に手を入れて白く輝く短剣を取り出す。
「これも、作戦の内だ!!」
そう叫びながら、聖剣の一部で作られた短剣【フレイ】を魔王の心臓めがけて刺そうとする。その攻撃に合わせて、後ろで見守っていた仲間の女性三人が一斉に詠唱する。
「
魔王に刺さる直前に聖なる力が短剣に宿る。
それが油断していた魔王の胸に一直線に突き刺さる。
「ど、どういうことだぁー!!!」
何が起こったか分からない表情をして、悲鳴を上げる魔王からは大量の血が噴き出す。
大河が短剣を引き抜くと、胸に大きな穴が空いていた。
魔王はその場に膝を付き、恨めしそうに大河を睨んで言う。
「何を・・した」
「簡単なことだ。今まで切り札は聖剣フレイスだけとお前に思わせておいていたんだ。だが、聖剣フレイスの一部から作られたこの短剣は聖剣と同等の力を持つ。魔王は聖剣でないと殺せない。だから、お前は必ず警戒するはず。そして、何らかの形でお前が聖剣を折ってくるだろうと予測し、懐に短剣をしのばせてお前の不意をついたって訳さ!」
「ひ、卑怯な!」
「ははは!もっと卑怯なことも俺はしてきたぜ!」
「な、何だと!」
「お前の部下で魔王軍のトップに君臨する魔四天王の内、二人が離反しただろう」
「あ、ああ・・・そのせいで、予想以上に、お前らが早くこの城に、来た・・・。あいつらの裏切りのせいで!!!」
「その件だけどさ、第四魔は金で買収して、第二魔は実験好きだったから、あいつには捕まえた邪神をくれてやった。そしたら、まんまと裏切ってくれたよ。ははは」
「そ、そんな馬鹿な」
「事実さ。お陰で戦わないで済んだ。スタミナ温存」
「そ、それでも、お前は勇者なのか・・・?!相手を離反させるなど、勇者がやる行動ではない!正々堂々と戦いで勝て!この卑怯者め!!」
「あれ?魔王にあるまじき言い草じゃん?それとも、それって誉め言葉か?卑怯で結構コケコッコー、だ。勝つためだったら俺は何だってする。だから、正々堂々と騙すんだよ!!」
「クズ、め」
「俺にはそれも褒め言葉なんだよな〜」
あっけらかんと言う大河に怒りと憎しみしか覚えない魔王。
「お、おのれ・・よくも我を・・・この恨み、必ず!」
「五月蝿え、お前の負けだ!」
言葉を吐き捨てた大河は魔王を蹴飛ばす。
ドサッッッ
「こ、れで・・・勝った・・・と・・・・・・」
魔王はその場に崩れ落ち、最後の言葉を吐き捨てて息絶えた。その瞬間に勇者たち、人類の勝利が決まった。
勇者一行はしばらく死んだ魔王を見ていたが、不意に一人がつぶやく。
「か、勝ったわよね?」
「ああ、勝ったとも。この長い戦いは終わったんだ」
大河は拳を天に突き掲げ、嬉しさを噛みしめる。これまでどれだけ辛かったか、どれだけ苦労したか。物思いにふけり、涙を流す。
「何泣いているの?貴方らしくはないわ」
金髪で白いコーデをしている女性が呆れた表情をして言う。他の二人も大河をよく知っているためか、泣いている姿を見て気味悪がる。
「ちょ、お前ら何でそんな目で見るんだよ!俺は勇者だぞ!色々噛みしめるものがあるんだよ!」
「どうだか。君がこれまでにやってきた勇者らしくない卑怯なふるまいを思えば、むしろ殺された奴らの方が哀れに思えてくるよ」
銀髪の女性の言い分に何も言い返せず思わず苦笑いをする。実際、これまで大河がやってきた数々の卑怯な手口は誰の目から見てもドン引きするものだった。
ただ同時に、勇者としてこれまでに多くの人々を救ったのも事実。
「まあでも、ここまで長い道のりだったわね!」
「確かにそうだ。俺が召喚されてから五年も経った。こんな過酷な世界に放り込まれて、マジ大変だったよ…」
「最初は泣いてたもんね?」
「そりゃあそうだよ!平和な世界で生きていた俺にとって、この世界は恐怖と地獄以外の何ものでもなかった。でも、超絶厳しかった師匠のおかげで強くなれたし、ここまで来れた。きっと、死んだ師匠も草葉の陰で泣いているよ…」
「・・・まだ生きているわよ」
「・・・わかっている。口が滑った。それと、今、ものすごい悪寒が走った」
大河は体を震わせて警戒するように辺りを見渡す。そんな姿を見ながら三人は再度呆れる。
「いるわけ無いでしょ。相変わらず師匠のことが苦手なのね」
「あれはもう人間じゃない!魔王以上に、恐いよ。あの人にどれだけ俺が苦しめられたと思っているんだ!もうあんな訓練は嫌だ!」
駄々を捏ねる大河。
「まあ確かに師匠の訓練は尋常じゃなかったわね。そう言えば―」
ボロボロの四人はしばらく昔話に花を咲かすのだった。
しばらくすると、これからのことについての話になる。
「大河、貴方はこれからどうするの?貴方の使命の魔王を倒した。晴れて自由の身よ」
「でも、この世界は未だ混乱しているし・・・」
「ここは貴方が生まれ育った世界でもない。貴方が何か責任を感じる理由はない。貴方がしたいことを私達は望むわ」
他の二人もうなずく。
しばらく思案した大河はポツリとつぶやく。
「国でも創るか・・・」
「・・・え!そんな簡単に言うものなの!?」
「確かにこの世界は俺の生まれ故郷でもない。でも、俺は一応勇者だ。召喚されてしまった以上平和にする責任がある。だからちょっくら革命でも起こそうかな、て思ったんだ。平和な国を目指して戦う」
「貴方らしいのか、らしくないのか・・・。でも貴方はそれを望むのね?」
「ああ、めんどくさいけど」
「最後が余計!」
そうツッコミが入ると四人は笑い出す。魔王を倒した後なのに。これから革命を起こすと言っているのに・・・。でも、それが勇者一行なのだ。
「三人共、俺に協力してくれ」
「「「はい」」」
◇◇◇
目を覚ますとそこはいつもの天井だった。
金色の装飾をした豪華なものだが、王族、しかも初代国王で元勇者の部屋としては質素だった。
「夢、か」
しわがれた声で大河はつぶやく。体中にシワが有り、髪は白く染まっている。体を動かそうとするが老いで体中が痛む。
歳のせいか眠気にまた襲われ、目を閉じた。
「・・様、大祖父様!」
幼い声で呼ばれ、目を覚ます。
隣を見ると可愛らしい目をした幼子たちがいた。いつの間に、自分の部屋に入っていたのか?
「大祖父様!また冒険のお話をしてください!」
目を輝かせ今か今かと待つひ孫たちを見て、大河は何度も話した自分の冒険譚を語り聞かせるのであった。
語り終えると、ひ孫たちは次の遊びをしに中庭へと向かった。
そんなひ孫たちの後ろ姿を微笑んで見送り、窓から外を見る。
晴天の下で、今日も街は賑わっていた。
人々は行き交い、忙しなく動いていた。子どもたちは外で遊び、大人たちは楽しく仕事をする。
「俺が守りたかったのはこの風景だ。こんな日常だ」
遥か昔のことを思い出しながらつぶやくのだった。
ー四谷 大河ー
地球の日本で生まれた彼だが、いじめに合い高校生で引きこもりになっていた。
ゲームやアニメ視聴ばかりをやっており、周りからは社会不適合者と呼ばれていた。
十八歳のとき、外出中に突如足元に魔法陣ができて彼を飲み込んだ。俗に言う異世界召喚だ。
新しい人生を始められる!
喜んだのも束の間、召喚されたその世界は壮絶だった。
魔王は世界制服を目論見、国は乱れ、国同士の争いも続いていた。
そんな何もかも混乱している世界に放り込まれたのだ。
大河自身、勇者の素質は持っていたもののチートを与えられたわけではなく、最初は強くなかった。
捻くれていたが、強くならないと生きていけないと気づき人の十倍努力した。
そのお陰で性格は多少丸くなり、この世界で一番の強さにまで成長した。
仲間たちと出会い、魔王を倒し、悪政の敷かれた国も倒して、争いを収めた。
大河筆頭の勇者一行は新しく国を建国し、その下に多くの人々が集まった。
世界は平和になり、誰もが笑っていられる世になったのだ。
その後、大河は国王となり、多くの政務をこなして善政に務め、退位して今に至る。
「・・上!父上!」
目を開けて隣を見ると現国王で大河の長男がいた。心配したように大河を見つめる。
「どう・・した?」
「どうしたもこうしたもありません。父上が私を呼んだんでしょ」
「そうか」
最近は物忘れも酷くなり、自らの死が迫っていることを感じていた。
そうだ、遺言を言うために長男を呼んだのだった。
「お前を呼んだのは遺言を言うためだ」
「父上、そんな弱音を吐かないでください」
「自分の死期がそう遠くないことぐらい、何となくわかるわ」
「でも・・らしくないです」
その言葉を聞いて思わず笑みがこぼれる。
らしくない・・・か。昔、たまにそう言われたものだ。
「まあ、老人の戯言だと思って聞いてくれ」
「分かりました」
「言いたいことは一つだけ。平和を保て」
「それは・・・何とも抽象的ですね」
「そうだな。だが元勇者としての言葉だ。平和などそう長く続くとは思っていない。それでも、平和を長く維持しろ。それが大切なのだ」
信念を持って大河は言う。平和、それが自分が人生を賭けて残したものなのだから。
「父上らしくありませんね」
「また言うか。格好良く決めたのに」
「私の知っている父上は、めんどくさがり屋で陰湿で頼りありませんでした」
「酷い言いわれようだな。つまりクズってことだな」
「父上の代名詞ですね。ですが、同時に救うべき人のために力を、頭をお使いになる。だからいつでも私の憧れです」
息子からの言葉が気恥ずかしく、頬を掻く。
「それで、平和を保てるか?」
「必ず」
その言葉を聞いて安堵する。きっと約束は守られるだろう。
大河は息子を下がらせて一人になる。
「そろそろ俺の人生も終わりだな・・・。壮絶な人生が」
自嘲する大河。
「もうあんな努力はしたくないし、無双とかしてみたい・・・」
地球での記憶はまだ鮮明にあり、異世界モノに憧れていた。
「ここで、終わる・・のか・・・」
意識が朦朧としていく。
老衰か。悪くない死に方だ。
ただ、最後の願い・・は、あいつを・・救わなけれ・・・ば・・・・・・
そこで意識が無くなった。
ゴーン・・ ゴーン・・ ゴーン・・・
その日、街中の鐘が突如一斉に鳴り響いた。
それは、英雄の死を知らせるかのようだった・・・
勇者で英雄、四谷大河。享年七十でこの世を去った。
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