第11話 試験

「これから魔法騎士団マジカルナイツに入団するための試験、始めるよ~!」


 大声で、金髪の女性が横にピースをつくりながら言った。

 私はさっきまで、招集されたホールにいたはずなんだけど……。


「ここはね~、ホールに張り巡らされた空間転移装置スペーステレポート! あったでしょ? あれからできた仮想空間、灰鬼樹林だよ」


 にこにこの顔を崩さずに、しゃべり続ける女性からは強力な魔力が放たれている。

 私は魔力を制限できるからばれないけど。


 きっと、この魔力と力からして、どっかの団の団長クラスだろうな。

 それとももっと凄腕とか。


「やっほー。おねーさんはね、『暗闇の使者』団の団長、ユラ・クラリスだよ~。みんなからは、ユラさんとかユラ団長とか、クラさんとか呼ばれてるね~。

 今回の第一次試験の試験官を担当しま~す」


 ダブルピースを強調しながら、ゆるい雰囲気のまま説明が始まった。


「えっと、第一次試験は基礎中の基礎。まずは第一カンモン。ホウキ乗りの才能を試していくよ~」


 ホウキ……?

 その言葉に、私は疑問しか出てこない。


 ホウキって何だ?

 そんな技術まで必要なの?


 面倒くさっ‼

 それに、そんなこと全くやったことないんだけど。初心者の私にできる?


「じゃ~、魔法を勝手にかけられないように、こっちから専用のホウキを配布するからね~」


 ユラさん(と呼ぶことにした)は、パチンと指を鳴らす。

 すると、奥から大量のホウキが飛んで出てきた。……びっくりするんだけど。


 どういう仕組みなんだろ、と思いながら、飛んできたホウキを手に取る。

 チラッと他の人を見てみると、ホウキにまたがり、魔力を込めて浮いていた。


 へ~……魔力を込めれば普通に浮くのかな?


「ほっ」


 とりあえず、魔力の制限はかけたままで、最大限の魔力を込める。

 すると……ボッ。


 ホウキに生命が宿ったように、ひとりでに立った。


「お、すごい。じゃ、私をのせてここら辺を飛んでくれる?」


 ここは森っぽいし、広いスペースもあるから言ってみたら、ホウキはスッと横向きで飛んでくる。


 そして、「立って乗れ」と言わんばかりにはねた。


 いきなりハードル高すぎないかなぁ……。

 しかし迷ってても仕方ないので、ホウキに両足で立ってみた。


 すると、ゆっくりと浮いて、森の中を自在に飛び回りだした。


 結構スリルある。でも、直感だけど落ちない気がする。

 しかも、「右に行け」と思ったら右に行くし、「高度を下げろ」と思ったら高さを下げてくれるんだよね。


 このホウキ有能すぎじゃないかな?


 やっぱり、「基礎中の基礎」って言ってたし、簡単な感じなんだ。

 他の人はホウキにまたがって低めに飛んでいる。


 一番高いところで立ったまま他の人を見下ろせるなぁ。結構気持ちいいかも。


 って感じで、次第に私はホウキに乗ることに全く抵抗を感じなくなった。

 むしろめっちゃ楽しい!


「あ~……もう大丈夫ですよ~。下りてきてくださ~い」


 ユラさんの声が聞こえたので着地する。

 ホウキを魔法で浮かせて、パシッとキャッチした。


 いや~、結構愛着わいちゃったな。


 ………う~ん、周りから視線感じる。もしかして高く飛び過ぎた?

 目立つのは勘弁だから、次からは力を抑えよう。


 正体がばれると本当にまずい。


「え~、次は第二カンモンで~す。私が飛ぶマトを一つずつ作り出しますので、それを叩き壊して下さ~い。もしも壊せず、五つ以上マトがある状態になると失格で~す」


 ユラさんが気を取り直したように言う。

 そして、バッグから名簿表を取り出した。


「う~んと……最初はフラル・カトレースさん?」

「はい」

「じゃ、こっちに来てね~。あ、待つ人はここで魔力の操作でも練習しててね~」


 呼ばれたフラルという子とユラさんが歩いていく。

 私はフゥッと座り込んだ。


 休憩時間かな。まあ、魔力は尽きることなくビンビンの状態だけど。


 そういや、魔力を込めることで魔道具を発動させたり、植物を成長させたりできるって聞いたことがあるなぁ。


 試しに、と近くにあった雑草に手をかざす。

 そして、魔力を流すイメージを、目をつぶってやってみた。


 そしたらスルスルと成長して、大きな淡い色の花が咲く。

 なんだかちょっと嬉しい気持ちになって、「保管魔法」と「収納魔法」で花を取っておくことにした。


 これも思い出だね。


「次~、カイズ・リクレさん~」

「はいっ!」


 元気そうな茶髪の男の子が、名前を呼ばれて元気に駆けていくのを横目で見ながら、私は魔法を複合させて魔道具マジカル・アイテムを作った。


 結構出来の良いのができて、満足満足。


 魔力を込めると光ったり、蝶が飛んだり、甘い香りが漂ったりするんだよ。

 魔法を色々なことに役立てるのって、すごく楽しい。


 そのせいで結構犠牲になっちゃうものも多いけど、私は今の状態にかなり満足している。


 し・か・も。

 この森には珍しい素材が多い。


 魔物の一種、毒蜘蛛の朱角とか。

 回復草のコケとか。


 さらにさらに、蘇生の魔力を持つ砂とかね!


 もうこんなの、夢中にならない方がおかしいでしょ。

 どんどん採集して、ポイポイッと収納ゲートに入れていく。


 この中は無限に広がってるから、いくらでも詰め込めてほんと便利だよ。


「最後――。え~と、ランさん?」


 お、呼ばれた呼ばれた。

 ユラさんの声がした方に、ホウキで飛んでいく。


 このホウキ、第一カンモン(?)が終わっても回収されなかったから、好きなだけ使っちゃお。

 こっちも便利!


 すると、ユラさんがちらりと見えたので、クルリとホウキを回転させて着地する。


「早速、ホウキを使いこなしてるようだね~。えっと、ランさんであってるよね~?」

「はい!」


 ホウキを収納ゲートへ入れながら返事をする。


「じゃ、試験開始だよ」


 ユラさんの、肩から紐でつないでいるらしい杖が、キラリと光る。

 ポンッと音をたてて、空中にマトができた。


 単調な動きだ。

 これなら全然、生き物より楽に仕留められる!


 私は杖を取り出した。

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