第7話 空間

「『反転ミラー』……ねぇ。その場に発動されている敵の魔法を、自動的に感知してはねかえすのかぁ」


 女は、私の使った魔法をじいっと見て笑っている。

 でも、なぜあんなに余裕があるんだろ。


 だって、女の魔力は、「消魔力シール」で失われているはずなのに……。

 私だったら、解決策がなければめちゃくちゃ焦る。


「じゃあ、ひさしぶりにとっておきでも見せちゃおっかな~?」


 意地の悪そうな笑みが、本当に腹立たしく感じる。

 リリーも大分魔力を消費していると思うし、早めに決着をつけないと……!


 杖を握る手に力を入れた時、女がゴソゴソとポケットを探り、顔を明るくした。


「あっ、あった~!」


 そこから出てきたのは……汚い、泥人形だった。

 落ちくぼんだ目と、恨み言をつぶやいているかのような半開きの口は、いやにリアルで、気持ち悪い。


 あれも何かの魔力を込めて作られたのかな……? もしかしたら、呪いの道具だったりして。

 そう考え、本当に鳥肌が立つ。


 女は鼻歌を歌いながら、泥人形を高く掲げた。


「禁呪魔法、『魔力増大』、『人形遊戯ドールパレード』!」


 叫ぶような声と同時に。

 私の目には化け物のようなものが映った。


 あの泥人形が音をたてて大きくなり、無限に増殖して枝分かれしながら、私たちを喰らおうと暴れまわっている。


 急ごしらえだけど、仕方ない、杖を!


「吸収魔法、『無限領域インフィニティ・ルーム』!」


 魔法を吸収する技を出すが、泥人形の勢いはすさまじく、吸収するスピードよりも、増殖するスピードの方が圧倒的だ。


 これを全て吸い込むのは……私の今の制限魔力じゃ、厳し過ぎる!


 辺りに被害の出ないよう結界は張ってあるが、このままじゃ、結界の中が魔法で埋め尽くされて……私たちは死ぬ。


「ラン!」


 リリーに呼ばれた。

 手招きをしている。


 その瞬間、脳が正解をはじき出した気がした。全力でそちらへ走る。


 すると、リリーはぎゅっと私の手を握った。

 すると、手に魔力が込められていたのか、リリーの魔力が、私の体に流れ込んでくる。


「お願い、使って。今、これを止められるのは、ランしかいない」

「リリー……」

「大丈夫、魔力は時間がたてば回復するんだから」


 にこっと笑うリリーに、私は涙が出そうになる。

 それをぐっとこらえて、リリーから渡された魔力を頭の中でイメージした。


 魔法はイメージの世界だ。

 しっかり想像して、それを自身の魔力で具現化する。


 思い起こせ……あのリリーの魔力属性、空間を!


空間魔法スペース・マジカル、『虚無穴ゼロ・ホールみだれ>』!」


 極度にまで研ぎ澄ました魔法を、魔力を、女を囲むようにして作り出す。

 漆黒の空間はどんどん増え、あらゆる方向から、魔法をのみ込んだ。


「このまま……押し切る!」


 段々、相手の増殖するスピードが遅くなってきている。

 あちらも、魔力は限界に近付いているのだ。


 どちらも、最後の奥の手――!


 ♢

 ♢

 ♢


 気づけば、女は魔力切れを起こし、その場に倒れ込んだ。


 女が使ったのは、「禁呪魔法」。

 決して使ってはいけないと、神様の本に記された、禁忌だ。


 魔力を爆発的に高めたり、人間では到底不可能な魔法を作り上げたり、属性を増やしたりと色々なものがある。


 ――が、興味本位で使えば、命取りになるのだ。

 そのため、少しでも発動したら魔法警察に捕まえられる……らしい。


 ま、全部リリーからの情報だけどね。


「いや~……疲れた!」


 私は叫んでみてから、本当に納得した。

 それしか言う言葉がない。


 まだ魔力は有り余ってるけど、疲労感だけは拭い切れないんだよね……。


「はぁ……私なんか魔力切れのせいで、めっちゃだるいし、立てもしないんだよ……いいなぁ、魔力多い人間は……」


 どうやら、空間魔法スペース・マジカルは、自分の望むところに空間を一から作り出す、という高度な魔法。


 全部自分でイメージして、さらに無限をつくるから、魔力の消費もえらいことになるらしい。


 だから、空間は一個しか作れなかったが、私の魔力で空間を何個も作り出せた、というわけだ。


「にしても、終わったねぇ。あ、その前に女に逃げられないように、しっかりと手足を縛っておかないと……――」


 立ち上がって女に近寄った瞬間、


「待て」


 ――結界を張っているというのに、明らかに近くから声が聞こえた。

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