第3話 レベルアップ

「え? は? ……全属性って、マジ?」

「やっばっ! こんなの生きてて全然見たことな~い! ランと魔力を共有出来てサイコー。運すごくない?」


 アクアが勝手に一人泣き笑いのような顔をしてわーいわーいと両手をあげて喜んでいる。


 マジで……って、あの、ごめんごめん、はしゃいでるところ申し訳ないんだけど、こっちも口挟ませて⁉

 アクアだけの問題じゃないから!


「ちょい待ちアクア!」

「ひょえっ⁉」


 ビクッとアクアが、ぷかぷかと空中に浮いたまま飛び跳ねる。


 そして、流石に一人騒ぎがまずいと思ったのか、ちらりとこちらをうかがう。

 そこから、


「な、何っ……かな?」


 と強がって、私に上目遣いで可愛いポーズをしてきた。それに若干イラつきながら、聞く。


「全属性って……そんなに珍しい? 歴史の中に一人とか二人とかいるんじゃな」

「いないわ!」


 かぶせ気味にアクアは突っ込む。


「あたしだって一万年くらい前に産み落とされて今まで生き残って、色々人間と一緒に魔力を共有しているけど、全属性なんて見たことないって!」


 一万……いや今一万年って言った? と別のところに突っ込みそうになって、口を押えた。


「えっと。つまり要約すると、私は呪文や念じるだけで全属性の魔法が使えるってことでOK?」


 いきなり変わった世界に戸惑って、しかもこんなめちゃくちゃなことを知らされれば、興奮するのも無理はない……はず。


 自分でも顔が赤くなっていくのが手に取るように……分かる。恥ずかしい。


「そうだけど……えっ、ちょっと待って! ラン、それ止めて!」


「えっ」と思って振り返る。

 そこには、細長く丈夫なツルが何重にも巻き付いたツタがあった。


 それは天にまで上り、我先にとアクアに飛びつく。そして、アクアの小さい腕と足に巻き付いた。


 枝分かれした植物の一つが、アクアの首を絞める。


「私の「水魔法ウォータ・マジカル」じゃ、逆に植物を成長させちゃう……! それじゃ、強力になるだけ! お願い、ラン……魔法を解除、して!」


 それを今やろうとしてるけど、何故か強力になるばっかりで何もできないの!


 魔法は発動できるのに、解除できないってどんな異常事態なの⁉ 誰か助けて!

 この際梨花りかでもいいから!


「もう……魔力が……!」

「えっ⁉ アクア、ちょっと!」


 魔法を解けずにかなり悪戦苦闘していると、その言葉を最後に、アクアが目を閉じた。

 そして何も言わなくなる。


 すると、周りに粉が散って、そのキラキラと金色に輝く粉が、私にまとわりつく。

 ちょっと待って、なにこれ⁉


 毒⁉ 妖精の最後の抵抗⁉ アクアが攻撃しようとしてる⁉


[水ノ妖精、個体名アクアヲ獲得。『水魔法アクア・マジカル』ノレベル大幅アップ]


 ……今のは何? 機械音?

 敵か⁉ いやでも、私に手出したら最大級に極悪な魔法で殺してやるから……ってえ?

 

 なんかポケットが光ってる。

 

 下を向くと、ポケットの中に細長い物が入っていた。つやつやと光っていて、先端に虹色の綺麗な結晶がついている。


 しかも、その結晶の下には、色々な形のバッジがズラッとはまっていて、今は雫型のブローチが淡い光を放っていた。


 あれ、もしかしたら水の妖精……つまりアクアを倒しちゃったから? それで、アクアのスキル的なのが私に流れ込んで?

 アクアが言っていた魔法を使うための「杖」が勝手にできちゃったのかな⁉


 うわ~、アクアには色々なこと教えてもらったのに、ちょっとの魔力の暴走でこんなことになっちゃうなんて!


「あっ、そういえば、あのツタどこ行ったの……って」


 振り向くと、太いツルは何処までも伸びて、手当たり次第に獲物を見つけて捕まえて、倒していく。


 顔がサーッと青ざめるのが分かった。


「おいちょっと待って止まってええええ‼」


 叫んでも、ツルの勢いは静まらない。そんなことに注目しているうちに、あのブローチまみれの杖は輝き続けた。


炎竜サラマンダー獲得。炎魔法フレア・マジカルノレベル大幅アップ]


森精霊フォレスト・フェアリー獲得。聖魔法ホーリー・マジックノレベル大幅アップ]


[レベル七十八ノ魔女ウィッチ獲得。闇魔法ダーク・マジカルノレベル大幅アップ]


 ツルの勢いは止まらず、最後にはすべてのバッジがまぶしいほどの光を放っていた。待って! ほんとに、誰もこの展開についていけてないと思うから……。


 これは力を手に入れすぎてまた制御できずに暴走するパターンでは? いやだよそれ。


[現在幻魔法ヲ発動中。半径三㎞ノ者ヲ眠リ状態ニシマス]


 ほらやった。手から怪しげな紫色の粉が出てる。


 本当に目に見えるんだ、邪悪なオーラって。これって人体に害はないよね?

 いっや幻魔法で人眠らせるって言ってるから害ありまくり……。


 というか気合入れて何とか制御できない? ふんぬぬぬぬ……だめだこりゃ。


[幻魔法ニヨリ、植物竜プラント・ドラゴン獲得。植物魔法プラント・マジカル最大レベル]


 おぉう……また来た。まぁでも、最大レベルってことはこれ以上レベルは上にならないよね? ああよかった……。


植物魔法プラント・マジカル最大レベルニヨリ、魔法レベル上限ヲ解放シマス]


 期待して損しました、うん。

 これは終わりがなかった……。ゲームでよくある奴。わかってたよ。わざわざフラグ立てなければよかった。


 その時、いくつものサイレンの音が鳴り響いてきた。


『謎のツル発生者を逮捕しろ! 幻魔法を吸い込まないよう、特殊マスクを装着して突進せよ!』


 これはちょっと、マジでまずいことになってきたかも。警察が来た……。


 よし、とりあえず逃げるが勝ちっていうし! えーと……お、色々魔法を手に入れたから、できることが増えてる気がする!


付与魔法エンチャント・マジカル、『加速アクセラレーター』!」


 足に加速の魔法を付与する。

 魔力を大分込めたから、これで逃げ切れるはず!


 ……んなわけで、ここまでが説明。

 私は「七大精霊セブン・フェアリー」以上の力を持つ少女に……転生しちゃったらしい。

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