第2話 明治のラブコメ
「いけないでゴワス・・・」
大きなギョロ目をさらに開いた西郷どんが台所に入ってきた。
「寝坊、しちゃったでゴワス・・・」
羽織った浴衣地の着物から覗かせる胸毛が悩ましい。
同居している利通は喉が上下するのを必死に隠そうとしていた。
だが、目ざとく見つけた隆盛が大げさな声を出した。
「あっー・・大久保どんの目、いやらしかぁ・・・」
ワザとらしく胸を隠すように部屋を出る。
素早く箱膳に用意されていた利通のオニギリを手に取る。
そのまま口にくわえると、玄関に置いてあった風呂敷を持ち出て行った。
「あ、あいつめぇ・・・」
利通は嬉しそうに呟くと、同じくオニギリをくわえて家を出るのだった。
毎朝の行事に。
二人は胸をときめかせ、藩校へと走る。
「遅刻、遅刻ぅ・・・」
と、オニギリをモグモグさせながら。
「ひょんなる(笑)」偶然で。
隆盛と利通は同居するはめになった。
薩摩藩校一年生。
十五歳の春のことだった。
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