討ち取りたいのは愛のため! おっとり悪魔と恋敵
胡麻桜 薫
第1話 ケルベロスの登場
十月上旬の土曜、夕方六時。
今日は町の神社で
誰もが足を止め、
黒いパンツスーツに身を包んだ、小柄で
髪は短く、瞳はキリッとしている。髪も瞳も、スーツと同じ黒色だった。
やがて、女性は小さな公園の前で立ち止まった。
薄暗い公園は一見、誰もいないように見える。だがよく見ると、高校生くらいの少女が一人でブランコに座っていた。
パンツスーツの女性は公園に足を踏み入れると、まっすぐ少女のもとに向かい、声をかけた。
「君が新しい実行担当・・・で間違いない?」
「あ、は~い、そうでぇす!」
少女は嬉しそうに答えると、揺らしていたブランコを止め、ぴょんっと立ち上がった。
パンツスーツの女性よりも、少しだけ背が高い。
ミントグリーンの髪はセミロング。
可愛らしい
おっとりした雰囲気の顔つきで、いかにも
服は
そして、背中には──。
女性は、やや呆れた表情で指摘した。
「君、
少女の背中からは、
「え!? ほんとですかぁ!? ごめんなさぁい、気ぃ抜いちゃってました〜! うむむむぅ〜・・・」
少女は目をつぶり、どこか気の抜けた声で
すると、翼がポンッと引っ込められた。
不思議なことに、ワイシャツの背に穴は空いていない。
「・・・地上では、翼は隠しておいてね」
「はぁい、気をつけます! それじゃ改めてぇ・・・わたし、新任としてやって来ました、ケルベロスですぅ」
「ケルベロス・・・」
少女は照れくさそうに笑うと、のんびりした口調で言った。
「えへへ〜伝説の『ケルベロス』のように強くなってねぇ〜っていう意味で名付けられたんですぅ。ちょ〜っと長いので、ベルって呼んでくださぁい」
「・・・わたしは支援担当のエボニー。君を迎えにきた」
「エボニーさんっ、よろしくお願いしまぁす」
ケルベロス──ベルはぺこりと頭を下げた。
「・・・うん、よろしく」
ベルの独特なペースに、エボニーは面食らってしまった。
(またずいぶんと、のんびりした子が来たものだな・・・まあ、わたし達の任務なんて形だけのものなんだから、問題はないか)
エボニーは気を取り直し、ベルに言った。
「それじゃあ・・・君を拠点に案内するよ」
────────────
エボニーは来た道を戻り、ベルを目的地に案内した。神輿はもう見えなくなっており、通りは先程よりもガランとしていた。
「ここだよ」
二人の前にあるのは、三角屋根の一軒家だ。二階建てで、外から見る限り変わったところはない。
エボニーは玄関扉に手をかけ、そのままガチャリと開けた。鍵はかけていないらしい。
扉を開けた先には、靴を脱ぐためのたたきもなければ、廊下もなかった。
入ってすぐ広い部屋になっており、その空間の中に、必要最低限の家具が
部屋の隅には二階への階段があり、奥には
「ただいま、連れてきたよ」
「あら? おかえりなさい」
ダイニングテーブルで雑誌を読んでいた女性が、スッと腰を上げた。
エボニーと同い年くらいの女性だ。
髪と瞳の色は茶色。
長い髪をゆるめのポニーテールにしており、切れ長の目に落ち着いた雰囲気を
七分袖のブラウスを着て、ロングスカートを履いていた。
女性はベルを迎え入れ、柔らかな声で言った。
「初めまして、わたしはセピア。エボニーと同じく支援担当よ」
「初めまして〜ケロベロスですぅ。ベルって呼んでくださいっ」
セピアはベルに優しく微笑みかけた。
「よろしくね、ベルちゃん。ここが、わたし達の拠点よ」
「そうだ、今日からは君もここで暮らすことになる」
エボニーはセピアの隣に立つと、涼やかな微笑を浮かべた。
「少なくとも50年は付き合うことになるんだ。仲良くやっていこう。とりあえずお茶でも
「ごめんなさいっ、ゆっくりはできないんですぅ。わたし、出かけないと〜」
「「え?」」
ベルの意外な発言に、エボニーとセピアは顔を見合わせた。
「地上に来たばかりなのに・・・用事でもあるの?」
セピアに尋ねられ、今度はベルが不思議そうな顔をした。
「用事って・・・だってぇ、わたしは実行担当としてここに来たんですよぉ?」
「そ、そうだけど、わたし達は実際には・・・」
エボニーはそこまで言うと、居心地悪そうに視線を泳がせた。
その煮え切らない態度を見て、ベルは
「むぅ〜! わたしは『
そう宣言するや
のんびりした口調からは想像できない、素早い動きだった。
次の瞬間、ベルの右手には刃渡り13センチ程のナイフが握られていた。
ブレードの形状は、刃先近くの背が
頑丈そうなハンドル(持ち手)は真っ黒で、
そして、ブレードには『Cerberus』と刻印が打たれていた。
「わたしは今夜中に、リリス姐さんをぶっ倒すんです!! ぜ〜ったいに!!」
ベルの可愛い垂れ目には、
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