第102話 塾は皆で真面目に楽しく
私は翌日、中休みに麗人さんが教室を出て行くのを見計らって、少しだけ遅れて廊下に出て、彼の用事が終わるのを待って、声を掛けた。
「麗人さん、お話が。ここでは出来ないので、階段の下とかに行きませんか?」
「話?」
「ええ、とても重要なお話です」
「今すぐ?」
「はい」
私は麗人さんを階段の下の所に連れて行くと
「麗人さん、駅の向こう側にある可愛塾に通っていますよね?」
「えっ、どうしてそれを」
確かにこれは教室では話せない。
「麗人さん、小早川さん、東雲さんが、入って行くのを見ました」
ばれたら仕方ない。
「確かに通っていますけど」
「確か個室を使って受けていますよね?」
そこまで知っているのか。
「はい、他の受講生に迷惑が掛かるので」
「私も一緒に受けれませんか」
「それは、ちょっと。出来れば他の塾にしてくれると」
「麗人さん、あなたと私はいずれ結ばれる運命です。この様な事も一緒にしていきたいのです。お願いします」
文子さんが頭を下げている。参ったなあ。それに将来の事は何も決まっていないのだけど。
「でも途中からだと大変なのでは?」
「そんな事何も問題ありません。麗人さんが許してくれるなら今日にでも塾に行きたいのですけど」
「それは、塾側に聞かないと」
「分かりました。直ぐに確認します」
私、芦屋真名。麗人お兄様が席を外した後、少し遅れてセガールさんが教室を出た。私の直感が怪しいと言っている。
気付かれない様に付いてきたら、なんと塾の話とは。彼女だけに抜け駆けなんて許さない。私も今日塾に聞いてみるか。
その日の放課後、俺と健吾と雫はいつもの様な感じで塾に行った。受講中は何も無かったのだが、何故か終わった後、個室から出てくると……。
文子さんと芦屋さんがにらめっこならぬ目線で火花を散らしていた。そして、周りには一般の受講生が…。
☆以下、心の声です。
文子『何であんたがいるのよ』
真名『何言っているのよ。この抜け駆け女が』
文子『ちょっと売れているからって偉そうな顔しないでよ』
真名『偉そうに。ふざけんじゃないわよ。あんたなんか麗人お兄様の穢れになるだけよ』
文子『何ですって、成り上がりの小娘が』
真名『へーっ、私と勝負をするき』
文子『親の衣を借る小娘とはしないわ。所詮、親頼みの実力も魅力もない女が偉そうに言うんじゃないわよ』
真名『縁戚も実力の内。文句あるんだった同じ事すればいいじゃない』
文子『その面に泣きべそかくなよ』
真名『あんたこそ』
文子真名『ふん!』
なんか凄い。もう天井が焼け落ちている。消火器はどこ行った。冗談です。
―なんか凄くない?
―そんな事関係無いわよ。
―で、でも。ほかの人気付いてないんじゃない。
―そんな事ないと思うけど。
―きゃーっ、芦屋真名、文子・セガールが居ても凄いのに早乙女麗人も出て来たーっ!
―本当だ。す、凄い。
―いったいどうしたんだ。
―ねぇ、ねぇ。写真撮ろ。
―スマホ、スマホ。
「はい、みなさーん。そこに居ては邪魔ですよ。それに写真は許されません。早乙女麗人保護プログラムを知らないのですか?」
―あーっ、そう言えば。
―えーっ、撮れないの?
―仕方ないだろう。
「麗人さん、塾の方から入塾許可が出ました。明日から一緒に学びましょう」
「麗人お兄様、私も塾から入塾許可を頂きました。明日から一緒に勉強しましょう」
明日って、確か講師は…。来るのが怖くなって来た。
翌日は、朝から頭が痛い。物理的に痛い訳じゃない。放課後が怖いんだ。こういう時に限って、時間が流れるのは早く、…もう放課後になってしまった。
いつもの様に何食わぬ顔で健吾と雫には先に行って貰い、俺は紅さんの車で行くのだが、塾の入口に何と!
『当塾は早乙女麗人保護プログラム実施中に付き、当塾生及び関係者以外の立ち入りは元より入口に立つ事も許可しない。違反が有れば強制的に排除します』
と看板が立てかけられ警備員が二人立っていた。
参った。ここまでするとは。昨日バレた所為もあり変装無しで塾に入ると、塾生が入り口から個室迄を遠巻きに見ている。流石にスマホは出していないが、
―来たわよ。
―これで三人目、芦屋真名、文子・セガールそして早乙女麗人まで見れるなんて。
―私コースを変えようかしら。
なんなんだ、これは。驚きながらも個室に入ると俺以外、健吾と雫、それに芦屋さんと文子さんは個室に入っていた。
個室と言っても四人掛け長テーブルが四つあり、前には大きなホワイトボードと六十インチのディスプレイ、天井にはプロジェクターが付いていて立派な会議室だ。
俺が入ると、塾長が入って来た。
「皆さん、昨日の騒ぎで皆さんの存在が知られてしまいました。当塾としては皆さんと受講生の安全の為、敢えて皆さんの存在を表に出した上で安心安全を確保しつつ、しっかりとした講義を提供して行きたいと考えています。どうかご了承頂きたく宜しくお願いします」
それだけ言うと個室から出て行った。俺の右隣りは健吾、左隣は雫が座り、芦屋さんと文子さんは一つ後ろのテーブルに間二つ明けて端っこ同士で座っている。まあここまではいい。
問題は今日の受講科目だ。国語と英語だ。その講師は秀子さん。不安一杯で秀子さんが来るのを待っているとドアが開いて秀子さんが入って来た。
「「えっ、東郷さん。なんで?」」
ハモってます。
「静かに。本日からこの講座に入って来た芦屋真名さんと文子・セガールさん。お二人は途中からの受講を承知でこのコースに入って来たと聞いています。
お二人の為に講義を一からし直す事はしません。付いてこれなければいつでも止めて結構です」
全くよりによってこの二人が入って来るとは。何とか排除する方法はないかしら。
秀子さんももう少し言い様が有るだろうに。明らかに二人を挑発してい気がする。
チラッと右後ろと左後ろを見ると、えっ、当たり前でしょって顔している。まあ、成績は二人共良いし、問題ないんだろうな。
それから秀子さんは前回からの続きを講義し始めた。
俺達の講義が終わると、何故か受付の周りに人が一杯いる。自分達の講習は大丈夫なのだろうか?
しかし、これでは夏期合宿はいけそうにないな。集中講義を楽しみにしていたんだが。
―――――
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