第99話 GWの後で
ソティーブンはBBQの後、都内のホテルに泊まるという事で文子さん連れて帰って行った。秀子さんも紅さんの車で自宅に戻った。
嵐の後の静けさなんて言葉は我が家に通じる事も無く、
「お兄ちゃんどうするの?」
「どうするって?」
「あの文子さんって人が、転校してきたら今以上に大変になるよ」
「分かっている。でももうどうにもならないだろう」
「でもぅ」
「とにかく今以上に騒がない様にするしかない」
「そう出来ればいいんだけど」
「ところで麗人、セガールが言っていた来年の映画出演の件だけど」
「お母さん、俺は絶対に出ないからね」
「でも彼はもう麗人が出る事を前提に話しをまとめて来るわ」
「そんな事俺には関係ない。高校生活だって大変なのに大学生になっても同じ事になったら堪らないよ」
「でもセガールも言っていたじゃない。向こうじゃ、皆大学に行っているって」
「それはそうだけど」
「お母さんはお兄ちゃんをUSに行かせたいの。私は絶対に反対だからね」
「何で美麗が反対するの?」
「だって…お兄ちゃんは私のたった一人のお兄ちゃんだから」
「…そうね」
困ったものね。美麗の気持ちは分かるけど、あくまで兄妹愛と恋愛を一緒にしているだけ。恋に恋する女の子か。仕方ないわね。
「私も麗人が一人でUSに行くのは反対だ。なりたくない俳優の為にUSに行くなんて本末転倒だ」
「あら、あなたそれなら国内で活動させればいいじゃない。早めの社会経験になるわ」
「そういう事を言っているんじゃない。麗人に静かな学生生活を送らせてあげたいだけだ」
「それは私も賛成だわ。でもどの道を選ぶかは麗人次第でしょ」
「それはそうだが」
俺は俳優なんかしたくない。お父さんの様に一研究者として世の中に役立つ仕事をしたいだけなのに。
次の日、BBQのセットを片付けた後、健吾と雫に文子さんの事を伝えた。
「話は分かったが麗人、事は簡単でないぞ。今でさえ、芦屋さんがいる。学校の方針としては、当然俺達と同じクラスに入って来る。そうしたら芦屋、望月ラインだけでは済まされなくなる。
芦屋さんは、露骨という表現は良くないが、真っ向から麗人の事を好きだと言っている。そこに文子さんが来たら、火にガソリンを撒く勢いになるぞ」
「分かっている。だから頭痛い」
「麗人、それに塾の事も有るわ。今は芦屋さんは気付いていないけどあの人の事、必ず嗅ぎつけるわ。そこに文子さんが入ってきたら、秀子さん、芦屋さん、文子さんで塾で勉強どころじゃなくなるわ」
「そうだな。とにかく出来る限りの予防処置をするしかない。後、相談だが、いい加減にフード、サングラス、マスクは季節を考えてもおかしい。何かいい方法無いか?」
「ウィッグ付けて女装するか?」
「健吾、冗談だろう。勘弁してくれ」
「でも、思い切り女性の姿でサングラスしたら逆心理で分からないかも」
「雫もなんて事…して見るか。…いや止めておく。なんかとんでもない事になりそうだ」
映画の事を思い出してしまった。
そんな平和な?事を考えている内にGWも終りに近づいた時、文子さんから連絡が入った。
『麗人さん、東京に越してきました。会えませんか?』
『えっ、もう来たんですか?』
『はい、GW明けには麗人さんの学校に転入します』
『えーっ、転入手続きとか試験とか有るのでは?』
『麗人さんの所に行く前に全て終わっています』
何てことだ。あの時の会話は、事後の話だったのか。ソティーブン図ったな。でも一人にする訳には行かないし。
『分かりました。会うっていつの事ですか?』
『今からです』
『今から?』
『はい、もう麗人さんのご自宅の玄関前に居ます』
『えーっ!』
俺はスマホを持ったまま玄関のカメラを覗くと……。なんという行動力。さすがソティーブンの子供だ。相手に判断する時間を与えない。
外に居て貰う訳には行かず取敢えず、家に上がって貰う事にしたのだが、
「お兄ちゃん、なんであの人がここに居るのよ?」
「俺に聞かれても…」
文子さんは、お母さんと仲良くダイニングで会話している。それも昼食を作りながら。どう受け止めればいいんだ。
最初、ソティーブンがこの家に預かって欲しいと言った意味が何となく分かって来たぞ。でもそれだけは避けないと。
学校だけでなくプライベートでも生活が賑やかになってしまう。
そしてGWは明け、登校する日を迎えた。
気が重い。
―――――
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