第92話 部活オリはやっぱり大変でした
入学式の次の日は土曜日だ。午前中は紅さんの車で道場迄行き…。えっ、何故か人が一杯いる。
車が停まり、俺が降りると
―わーっ、本物だ。
―美しい。
―あの人に教えて貰えるの?
どうしたんだ?俺は道場の入口から入って着替え室に行こうとして山下先輩が居たので聞いてみると
「麗人の事が漏れたみたいだ。多分のここの門下生の口からも知れない。あれは、道場に入門したいって人達だよ」
「えっ、入門。でもあんなに受け入れられないですよね」
「ああ、さっき、師範と師範代とで考えて、抽選で選ぶ事にしたよ」
「そうなんですか」
そう言えば道場の人達には、俺がここで稽古しているって事、黙っていてなんて言ってないものな。でも困ったな。
俺は胴着に着替えて稽古場に戻って来るとまだ入り口が落着いてなかった。入り口は稽古場と少し離れているから稽古には問題ないのだが。
いつもの様に準備運動から初めて型から入り、攻撃と防御に分かれて稽古をして、最後に組手をして終わった。今日は師範代の人が相手してくれた。
稽古が終わって少し気を落ち着かせていると秀子さんが近寄って来た。
「麗人、あなた塾に行くの?」
「行きたかったんですけど、春期講習で行った時、最後の日にバレちゃって、結局今探しています」
「そう、私が個人指導しようか?」
「いいです。それに秀子さんは文科一類ですよね。俺、理学系を受けたいので」
「大丈夫よ。受験勉強なら教えられるわ」
「でも良いです。健吾も雫も一緒に勉強したいので」
「一緒でも良いわよ」
「いえ、結構です。普通の塾に行きます」
「そう、勿体ないなあ」
何が勿体ないんだ?
日曜日は健吾や雫と一緒にスマホで塾の事で相談した。やはりオープン型は無理があるから三人で受けれる少人数受講型を選ぼうという事になった。
そうなると結構限られてくる。放課後行くとなると、距離的な事もあるので個人の個別指導を行っている塾を問い合わせる事にした。
三人で手分けして聞いて、後でもう一度話そうという事になった。
そして月曜日、そう部活オリがある日だ。今回は園芸部の募集に二年生も対象になっているので、部活オリの時、三年生は通常授業だが、二年生は園芸部のオリの時だけ参加する事になっている。
勿論部活オリに参加する三年生はオリ担当の時だけ、授業を抜け出す事になっている。精々十五分位だ。
いつもの賑やかな昼休みも終わり、午後の授業時間になった。二十近くある部活があるので一部活辺りは五分だ。だけど特例が有って吹奏楽部と園芸部だけはこの時間幅ではない。まあ、当たり前だけど。
健吾や雫が男子バスケや女子バスケのオリで出て行った。その間、俺は授業を受けている。
そして二人が終わった後、俺と望月さんが行く。体育館に二人で着くとまだ、吹奏楽部が演奏中だった。
それも終わり楽器が片付けられると同時に二年生も体育館に入って来た。
俺のファンクラブの人が、例によって背中にのぼりを背負っておでこに麗人命と書かれたハチマキをした姿で去年使ったダーツの的を持って壇上に上がって行く。
―おーっ!
―何だあれ?
―ダーツみたいだけど?
―凄い格好だな。でも早乙女麗人ファンクラブって説明なかったような?
一通り準備が終わり部活オリ進行役の先生が
「それでは、これから園芸部の部員抽選会を開きます。既に一年生、二年生には番号札が教室で渡されていると思います。
その番号をこのダーツで決めます。当たった人は、この壇上に上がって来て下さい」
―おーっ、すげぇ。
―当たったら、あの早乙女麗人と一緒に部活出来るんだ。
―おい、命懸けだぞ。
―お、おう。
命かける必要はありません。
「それでは、園芸部員、早乙女麗人部長、望月美紀さん、九条美奈さん、壇上に上がって来て下さい」
―おーっ、早乙女麗人だー!
―望月って先輩も九条って先輩も綺麗じゃないか。
―こりゃ、大変な事になるぞ。
―やっぱり命懸けだ。
―男子、うるさい。
―そうよそうよ。
「皆さん、静かに。二年生から一人。一年生から二人選びます。では、早乙女部長、二年生を選ぶ一投目をお願いします」
ダーツは例によって矢じりがスポンジだ。的はマジックテープになっている。
シュッ。
パチ。
「えーっ、一番目の数字は……二です」
―当たったぁ。
―駄目だー。
―きゃーっ、当たったぁ。
―もう人生終わりよ。
「二投目、望月さんお願いします」
シュッ。
パチ。
「二番目の数字は、……七です」
―やったぁ。二つ並んだぞ。リーチだ。
―おい寄こせ。
―駄目だ。
「横取り、譲渡は出来ません。では次、九条美奈さんお願いします」
シュッ。
パチ。
「三番目の数字は、数字は、数字は…………」
何故か、どこかのクイズ番組みたいに進行役の先生が時間を引っ張っている。楽しんでいるじゃないか。
「六でしたー!」
「やったぁ。私、私でーす」
「当たった人は、壇上に上がって来て下さい」
その子が壇上に上がって来た。
えっ?美麗?
ふふっ、これでお兄ちゃんと一緒に居れる時間が増えた。
「「「「「うおーっ、早乙女美麗さんだー!」」」」」」
「こ、これは、また何と。早乙女麗人君の妹美麗さんが二年の園芸部員選ばれましたー」
「「「「「うおーっ!」」」」」」
「「「「「きゃーっ!」」」」」」
―ついに園芸部は早乙女兄妹の部になったぞ。
―これは、どう言ったらいいんだ。
―星城高校始まって以来の珍事だ。
先生達も静かにして下さい。
私、桜庭京子、園芸部顧問、なんでよりによって美麗ちゃんなの。神様は何処まで私を苦しめるのよ。
「では、次です。一年生の園芸部員は二人です」
一年生全員が自分の番号札を手に持ってお祈りしている。大丈夫かな?
「では、早乙女君、一投目お願いします」
そして残り二人も無事?選ばれたのだが…。なんで皆女の子なの?二百四十名の内の半分は男子も居るよね?なんで?
園芸部員が並んだけど、俺以外皆女性じゃないか。もう!
―すげぇ。園芸部美人図鑑でも出来そうだな。
―ああ、写真部作ってくれないかな。
―モルカリに出したら百万はくだらないぜ。
―いや、別サイトのオークションがもっと高い。
「そこの二人、それ以上言うと停学処分ですよ」
「「すみませーん」」
「では、皆さん。これで園芸部の部員抽選会は終わりますが、一年生で選ばれた、七瀬由紀子(ななせゆきこ)さんと、百瀬明代(ももせあきよ)さんは特別校則枠に入ります。部活妨害や嫌がらせなどした場合、即時退学となります。絶対にしない様にして下さい」
私、桜庭京子のHPは残り二十パーセントを切りました。あ、あぁーっ。(桜庭先生の心の叫び)
―――――
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