第52話 クリスマスは静かに過ごしたい
昨日のクリスマスイブは、東郷さんのウィンドウショッピングに付き合って、その後昼食をご馳走した。
とても美味しいイブらしいデコレーションが施された料理が出て来た。精算の時に俺が男って何故分かったのかと聞いたらテーブルを担当してくれた店員さんが驚いて、
『えっ、女性じゃ無いんですか。僕はてっきり…』
と言われて、俺達をカップルでもGLの組み合わせだと思ったらしい。でも男だと知ったら、今度は別の意味で驚いていた。
この体は両親から授かったものだし、どうしようもない。まだ高校一年生だからどこかで男らしい顔に変わるかもしれないと期待してはいるのだけど。
その後、そこのレストランから歩いて五分も掛からない所に数年前に立て直したファッションビルに行った。
かつてはここからファッションが発信されていたと言われているところだ。ここで洋服をプレゼントしたのだけど、何店舗も付き合わされて、何回も試着に付き合わされ、その度に試着室の前で待たされてメンタル壊滅寸前で決めてくれた。
ニットセータとビ〇ディスのパンツ。とても素敵なコーデだ。ちょっとしたけど、お母さんから許可が出ているので構わない。東郷さんは物凄く喜んでくれた。
その後、そのビルの中にある喫茶店でお茶を飲んだ。女性ばかりだったけど、こういう時は顔立ちが得をした。
注目は相当にされたけどまあ、身長が百八十二センチもある女性?に見えるんだから驚くだろうけど。
今の季節は暗くなるも早いので、一応この日は東郷さんを家まで送って行った。万一彼女を襲う人がいたら、自分が間違いだった事を思い切りその身で知る事になるのだろうけど。
彼女の家は始めてだったけど、とても大きな屋敷という感じの家で驚いた。上がって行けと言われたけど遠慮した。理由は分かるよね。
家に戻り、お母さんが仕事から帰って来てからカードで使ったレシートを渡した。高いわねと言われるのかと思ったら、私も麗人とデートしたいわだった。俺はあなたの子供ですと言いたくなったよ。
翌日、月曜日、学校の最寄り駅の改札で健吾と雫に合流して学校に向った。俺達を見ている視線は依然多いが、前の様な視線ではない。皆慣れたのかな?
教室に入ると誠也が寄って来て
「麗人、今日学校終わったらクリパしようと思っているんだけど来ないか?」
その言葉にクラスの皆が一斉にこっちを見た。
「いや、俺はいいよ。家で静かにしている」
それを聞いた田畑さんが近付いて来て
「えーっ、早乙女君がクリスマスの日に家で静かにしているなんて人類の損失だよ。ねえ、一緒に行こう。少しの時間でもいいから」
「ごめん、そういうのはちょっと」
「まあ、駄目元で聞いてみただけだ。田畑さん、諦めよう」
「何言っているのよ。田所君は良いわよ。早乙女君と色々良い思いしているんだから。でも女子は、入学してから何もしてないのよ」
「いや、体育祭とか文化祭に…」
「あれは別よ。ねえ、いいでしょう」
周りの女子の視線が凄い。皆手を胸の前で合わせてこちらを見ている。
「麗人、仕方ない一時間だけ行くか。どうせ今日は午前中だけだし」
「健吾…」
「麗人、あなたが行くなら私と健吾も行くから」
ここまで言われたら仕方ないか。
「分かった、健吾と雫と一緒に参加するよ。でも一時間だけだぞ」
「「「「「きゃーっ!」」」」」
「「「「やったぁー!」」」」
おい、なんで男子まで喜ぶ。
「早乙女君ありがとう。田所君、場所大丈夫よね」
「いや、まさか麗人が参加してくれるとは思わなかったので十人部屋二つだけ」
「えーっ、ほぼ全員来るわよ。四十人入れないと」
「そんなでかいカラオケルーム無いよ」
「じゃあ、十人部屋を四つ」
「まった、麗人の入る部屋と入らない部屋で大変なことになるぞ」
予鈴が鳴ってしまった。
担任の桜庭先生が入って来た。今日も白いスーツで決めている。
「体育館で終業式があります。全員廊下に出て下さい」
校長先生の有難ーいお話を聞いて、連絡事項が伝えられた後、教室に戻ると担任が来るまでの間、さっきの話になった。
「早乙女君は四部屋を十五分ずつ回って貰うと言事で」
「しかし、それじゃあ、麗人が全然落ち着けないじゃないか。俺達は良いけど麗人が大変なだけだ」
「じゃあ、どうるのよ」
「麗人は、一つの部屋に居て、他の奴が十五分ずつ入れ替えはどうだ」
なんか凄い話になって来ている。
「誠也も田畑さんもちょっと待って、入れ替えは良いけど、健吾と雫は必ず俺の傍に居させてくれ」
「「分かった」」
学校が終わり通知表も受け取った後、皆で行く事になったが、皆で一斉に教室を出た為、他のクラスの人が驚いている。まあ、そうだよな。
だが、ここで問題が起きた。1Cの望月さんが、私も参加させてくれと言った事だ。流石に誠也がそれは無理、これは1Aの事だからと言っても引き下がらない。
仕方なく彼女だけと言ったのが更に失敗だった。早乙女君を守る会に残っている女子生徒が、私達は早乙女様を魔の手から守らなくてはいけませんとか言い出して来た。
「誠也どうする?」
「どうもこうも、参ったよ。ここまでは予想していなかった」
「誠也ちょっと」
俺は生徒が塊になっている昇降口方面とは別の方向に誠也を連れ出して
「誠也、俺が家の用事が急に入っていけなくなったと言ってくれ。人数が絞られるから。俺は健吾と雫で教えてもらったカラオケ店に行くよ」
「分かった」
俺達は皆の所に戻ると
「おーい、みんな聞いてくれ。麗人が今家から連絡が有って急遽行けなくなった」
「「「「えーっ!」」」」
―じゃあ、私行かない。
―俺も行かねえ。
―私も止めた。
―俺もだ。
急に少なくなる生徒達を横目に聞こえる様な声で
「誠也、悪いな。また今度」
「ああ、仕方ない」
「健吾、雫帰るか」
おかしいわね。何か不自然。
「望月さん、そういう訳だから、俺達1Aだけでやるから」
「田所君、分かったわ。ところで何処でやる予定だったの」
「まだ決まっていないんだ。急に人数が多くなった少なくなったりしたから」
教える訳には行かない。
私は1Aのクラスの子達が昇降口から帰って行く様子を見ていた。田所君がスマホに何か入力している。おかしい。
俺と、健吾、雫は駅に向かう振りをして途中で方向を変えた。
「麗人、上手く行った様だな」
「ああ、これで最初の人数位でやれるだろう」
俺達は少し迂回しながら開催ぎりぎりの時間に行くと…えっ!なんで皆いるの?
「誠也どういう事?」
「麗人、ごめん。昇降口で急いで今回の参加メンバだけにグルチャ送ったつもりが、クラスのグルチャに送ってしまって」
「はぁ…」
結局、俺と健吾と雫は同じ部屋から動かなかったけど、一時間じゃ少ないという事になって、結局二時間居させられた。帰り際に誠也が
「ごめん、その代わり三人分は他の参加メンバで払うから」
「それは良いけど」
結局、家に帰ったのは午後三時を過ぎていた。
「ただいま」
妹はもう帰っている様で
「おかえ…。どうしたの。思い切り疲れている様だけど」
「ああ、実は…」
「はぁ、それはご苦労様。家族のクリスマスパーティは、午後五時からだから休んでいて」
「えっ?!」
「昨日言ったでしょ。今日はお父さんもお母さんも早く帰れるから家族でやろうって」
「そうだった」
かくして、俺のクリスマスは…賑やかなままに一日を終えた。
―――――
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