第42話 麗人の恋人?


 私、東郷秀子。帝都大文学部一年生。私は今から十年前に私の家のある駅から二つ目の道場に通い始めた。


 女の子が…って思うでしょうけど、我東郷家は代々文武両道を故とする家柄。祖先は明治時代に隣の大きな国と海戦を行って勝った総司令官とか聞いている。だから小さい頃から通うのが当たり前と思っていた。


 始めて行った時、少し年下の可愛い女の子がいると思って、随分長い間、その子を女の子として見ていた。


 でもその子が中学に入る頃、上半身を裸にした時が有った。そして…胸が無い。最初は貧乳と思っていたのだけ、その内分かった事。その子は男の子だった。


 その時は流石に驚いた。それから彼を異性として見る様になった。でも特に接点も無い私達は、挨拶程度の話しかした事ない。


 彼が中学の一年の時、一緒に行った夏休み合宿で地元の人に迷惑を掛けて以来…というか彼は何もしていない。周りが騒ぎ過ぎて、稽古どころではなくなり、中学二年から行かなくなった。


 その時は色々と話したけど。それくらい。でも昨日飛んでも無い事を依頼された。


 偽恋人になってくれと。これには驚いた。私は、二週間に一回のデートとキス、それに名前呼びを要求したけど、流石にキスは断られた。当たり前だけど。うんと言ってくれたらどんなに嬉しかったか。


 でもおかげで今日木曜日からは私の都合に合わせて火曜日と木曜日の登下校、水曜日と金曜日の登校、月曜日の下校だけを彼と一緒にする事になった。こんなラッキーがあるだろうか。


 これを利用すれば、彼と偽を取った本物の恋人になれるかもしれない。




 我家がある最寄り駅から彼の学校方向に三つ目が麗人の家の最寄り駅。私は嬉しく随分早く目が覚めて、約束の時間より二十分も早く来てしまった。でも彼も五分も過ぎない内にやって来た。


「おはようございます。東郷さん」

「麗人、約束守らないと今回の事は無しよ」

「約束?」


「そう、お互い名前呼びでしょ。もう一度言って」

「あの…。分かりました。おはようございます秀子さん」

「駄目」

「えっ、でも名前呼びしましたよね」

「さんはいらない。秀子」

 結構細かいな。


「おはようございます、秀子」

「うん、おはよう麗人。さっ行こうか」

 何故か東郷さんは、俺の腕にしがみついて来た。結構ボリュームを感じる。


―なんだあいつら。朝からうざいんだよ。

―でもなぁ。あの二人お似合いだろう。

―凛とした男と可愛い女の子。身長は逆転しているけど

―まあそうだな。

―行こ行こ。俺達は縁のない世界だ。


 あの、お兄さん達。何か誤解している様な。



 早く着いた所為か、学校の最寄り駅の改札を出ても健吾も雫も居なかった。でも十分もしない内に改札から二人が出て来た。


「「おはよ、麗人」」

「おはよ、健吾、雫。こちらが昨日話した東郷秀子さん」

「さん無しでしょ」

「いや、ここは」


「東郷さん、麗人の幼馴染で小早川健吾と言います。宜しく」

「うん、宜しくね。健吾」


「私東雲雫と言います。宜しくお願いします」

「東雲さん、可愛いお名前ね。宜しく」

 なんで私だけ名字読み?


「じゃあ、行きましょうか」



 俺の隣に秀子さん。しっかりと手でなく腕を組んでいる。後ろに健吾と雫だ。学校が近付くにつれて、周りの生徒が驚いている。


―誰、早乙女様の傍に居る人。

―凛として綺麗だけど。

―腕を組んでいるわよね。

―高校生というよりもっと年上?

―まさか、麗人様の…。

―えーっ!



 まあ、予想通りの反応だ。俺達への視線は、校門に着く頃にはピークに達していた。そう、他校生が俺達を待っていたからだ。


―えっ、どういう事?

―なに、あの腕の組み方。

―早乙女様って彼女いるの?


 俺は校門で立ち止って、秀子さんに礼を言おうとした時、いきなり抱きしめられた。そして耳元で小声で

「麗人、こうした方がいいでしょ。挨拶は大きな声でするから」


 そう言うと今度は皆に聞こえる声で

「麗人、行ってらっしゃい。帰りもここで待っているわ」


―きゃーっ!

―な、なんなのよ。これなんなのよ!

―早乙女様に決まった人はいなかったんじゃないの!

―もう帰る。こんなの見に来たんじゃない!

―そうよ、そうよ。



 他校生が波が引く様に校門から消えて行った。俺は秀子さんの後姿を見てから校門をくぐろうとすると健吾が

「効果てき面だったな。この噂は直ぐに校内にも広まる」

「よかったよ」

「でもまだ分からないわよ」

「雫…」

 女の悪い予感は当たりそう。


 俺達が教室に入って、直ぐには何も無かった。上条さんも普通に挨拶をしてくれた。



 午前中の授業が終わり、健吾と雫と昼食を摂っている時、田畑さんといつも仲の良い二人の女子が近付いて来て


「早乙女君、これなあに?」

 そう言って、朝校門で俺と秀子さんが抱き合っている所が映っているスマホの画面を見せられた。


「えっ、俺の彼女です」

「えっ、嘘よね」

「本当です。もう長い付き合いです」


―きゃーっ、聞いた。

―うん、早乙女君付き合っている人が居たんだ。

―それも長い間だって。

―私、明日から何を求めて生きて行けばいいいの?

―わたしもう駄目。


 皆さん、まだ高校一年生です。生きる希望は一杯有ります。


 田畑さん達が納得できない顔で引き返すと今度は誠也達がやって来た。

「麗人、お前に彼女がいるって噂で学食は持ち切りだ。本当なのか」

「誠也、ちょっと良いか」


 俺は誠也達には嘘をつきたくなかったので、廊下で小声で事情を話すと誠也と川上それに相模が、

「分かった。俺達も応援するから」

「当分、それで行こう」

「協力するぜ早乙女」

「悪いな。宜しく頼む」

「任せとけ」


 ふふっ、また聞いてしまったわ。これでライバルはぐっと減る。私ってやっぱり早乙女君と…。



 今日は木曜日。水やりは無いので一人で校門のところに行くと秀子さんが待っていた。俺の傍に来ると直ぐに腕を回して来た。この人結構胸有るんだよな。思い切りぶつかっている。明日からは手繋ぎに変えて貰おう。


 秀子さんとはそのまま帰ったが、芝居が功を奏したのか、周りの目が衝撃と悲しみの目になった気がする。これでいい。


―――――


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