第39話 文化祭二日目
今日は文化祭二日目。いつもと同じように健吾と雫と一緒に教室に入って行くと相模が寄って来た。
「おはよ、早乙女。午前十時開始だ。体制は倍の人員で行く。昨日追加の仕入れも出来ている。俺も付いているから」
「私も付いているわ」
「ありがとう。相模、堂本さん」
そして、午前十時、文化祭実行委員長の開始の合図で二日目が開始された。流石に最初の十分位は、誰も来なかった……では無く、既に五十人以上の生徒や一般客が並んでいる。
それ以外に模擬店の周りは人だかりだ。
―ねえ、あれが噂の早乙女麗人よ。
―綺麗だわねえ。
―うん、そして可愛い。
―やっぱり胸に晒し巻いているんじゃない。
―分からないわ。
―ねえ、知っている今日の午後のアレに早乙女君が出るかもしれないって。
―で、でも彼男でしょ。
―そんな事関係無いわ。この学校一の美少女を選ぶんだから。
なんか、変な声が聞こえているが、気にする暇がない。俺は会計をしているが、何故か皆、お金を受け取る時やお釣りを渡す時に俺の手を両手で掴んでニコっとする。
もう一時間経ったけど列は長くなるばかりだ。俺が交代になって横にずれると自称俺のファンクラブという女子だけでない男子までが背中に昇りたて腕章を巻き、頭には白いハチマキ…何故か早乙女様命って書いてある…を付けて俺の周りを十人位で囲んでいた。
「麗人、形はともかく変に声を掛けられなくて済むね」
「雫、喉渇いた」
―えっ!
何故か俺の周りには口の開いてないペットボトルが十本。流石ファンクラブ。仕方なく
「ありがとう」
と言って、男子からペットボトルを受け取ると、うぉーっやったぁとか言って白目を向けて気絶した。どうなってんだ。
結局、第一クールで二日目に用意した五百人分のポテトフライは完売。時間も大幅に超過して午後一時になってしまった。
「はぁ、お腹空いた。健吾、雫、模擬店で何か食べたい」
「「「「「「えっ!」」」」」」
またまた、自称ファンクラブの人達が俺と健吾と雫の周りを取巻いて歩いている。さらに後ろには何人いるか分からないけどぞろぞろと人が付いてくる。これ好きな物食べれるのかな?
「健吾、たこ焼きと焼きそばってどこか売っているか?」
「ああ、こっちだ」
先を歩いているファンクラブの子達が、一斉に動いた。どうしたんだ?
「健吾、どうしたんだ?」
「俺にも分からん?」
俺達は誘導される様に歩いて行くと、ここは多分二年生の模擬店。
「あっ、麗人。来てくれたの」
―し、失敗したわ。まさか九条先輩の模擬店とは。
―し、仕方ないわ。
「九条さん、焼きそば下さい。健吾と雫の分も」
「分かった」
何故か、出来たものを売ってくれればいいのに新しく作り始めた。五分位待っていると
「はい、麗人と小早川君と東雲さんの分よ」
なんかやたら量多いんだけど。
「麗人、後、たこ焼きだな」
またまた、ファンクラブの人が動いた。ここは一年生の模擬店だ。
「あっ、早乙女君来てくれたの。嬉しいわ」
―何やっているのよ。望月さんの模擬店じゃない。
―でも直ぐ側に有ったから。
揉めている様だが
「望月さん、たこ焼き二つ下さい。雫は俺と健吾のを上げる」
「うん、ありがとう」
―羨ましい。
―私も今日だけ東雲さんになりたい。
―うん、うん。
そんな言葉を無視して、ここでも望月さんが十分も掛けて作ってくれたたこ焼きを買った。出来たもの売ってくれればいいのに。
「健吾、雫。何処で食べる?」
「麗人、あそこ空いている」
何となく、すり鉢状で階段になっている。下に舞台が有るけど誰もいない。
「空いているからそこで食べるか」
何故か周りの人も同じようにランチタイム。皆我慢していたのか?
三十分位して食べ終わる頃には、周りに人が集まって来た。何か有るのか?
「健吾、ここってこれから何か有るのか?」
「さぁ?」
「雫知っている?」
「今年初めてだし。分からない」
更にそのまま休んでいると舞台に椅子が並べられ、スピーカーやマイク立てが置かれて来た。
「おっ、なんか音楽でもやるのかな?」
「そうみたいだな」
「見ていようか」
―やっぱり、早乙女様がここに居るって事は。
―あの噂は本当だったの?
―でもこれって。
―見ていれば分かるでしょ。
近くで理解出来ない事を言っている子達がいるけど無視した。
そして舞台の後ろに掛かった幕を見て、えっ!ミス星城コンテスト。これってミスコンか。
「麗人、面白そうだな」
「ああ、見ているか」
「あっ、九条さんと八頭さん、それになんと新垣さんや望月さんまで。皆綺麗な白いドレス来ている」
「ああ、こうしてみると結構綺麗だな」
「一応、去年は一年生の九条さんがミスコン取ったって聞いたわ」
「へーっ」
まあ、九条さんは綺麗だし、スタイル良いし。分かるけど。他の人も綺麗だな。ミスコンかぁ。文化祭って感じ。
九条さんや他の人が壇上に一人ずつ立って、色々アピールしている。
あっ、次は歌だ。九条さんや八頭さんってこんなに上手かったんだ。少し関心。
そして次は司会者から一人一人に色々質問されて答えている。へーっ、面白い。皆綺麗だし誰が優勝してもいいって感じ。
そして司会者が最後に
「それでは、皆さん。既にスマホアプリで配布していますミス星城コンテストの中でここにいる参加者のどなたか一人を選んで決定を押してください。
皆さんが応援している結果は、後ろのスクリーンに映し出されているミス星城コンテスト参加者名の後ろに数値として表されます。さぁ……」
「「「「ちょっと待って」」」」
「どうしたんですか四人共?」
あれ、何か有ったのか。
「ここにいるはずの人がいません」
「「「「「「「「「そーだー!」」」」」」」
「おお、凄い声援です。しかし、そのいるはずの人とは?」
「「「「あそこにいる人です」」」」
何故か、参加者全員が俺達の方を指さした。キョロキョロ見ているといきなり司会者のマイクを奪い取った新垣生徒会長が
「早乙女麗人。ここに来なさい!」
「「「「「「「「「「うぉーっ!」」」」」」」」
「「「「「「「「「そーだー!早乙女麗人がいないー!」」」」」」」」」」
「な、なんという珍事。ミス星城コンテスト始まって以来の出来事です。参加していない生徒が指名されました」
「「「「「「「「「「うぉーっ!」」」」」」」」
「麗人、諦めろ」
「しかし、健吾」
「麗人、仕方ないわ」
「おーっ、九条さん、八頭さん、新垣さん、望月さんが白いドレスの裾を摘まんで階段を昇っていきます。目的は早乙女麗人かぁ」
「麗人、来なさい!」
「麗人早く!」
「麗人!」
「早く!」
「な、なんと。四人の白いドレスを着た姫様にエスコートされた早乙女麗人がこちらに来ます。こうなったら仕方ない。技術部、ミスコン応援プログラム変更だ。すぐに早乙女麗人を追加しろ」
「任せとけ、五分も掛からん」
舞台に上がらされた俺は…。
―きゃーっ、早乙女様よ。
―おーっ、俺やっぱり今日から女に。
―ジェンダーレスだって言っただろ。
―見てぇ、あのお美しい顔。
―もう駄目ぇ。
「な、なんと。観客の中に気絶者が!」
「ソフト修正終わったぞ」
「皆さん、もう一度アプリを確認して下さい。早乙女麗人の名前が有りますかぁ?」
「「「「有りまーす」」」」
「で、では改めてミスコンの応援お願いしまーす。スタート」
バックスリーンに映し出されたミスコンの参加者の横の数値が、え、ええーっ!
「おーっ、結果がでましたー。えっとぉ、おーい、技術部、ソフト間違ってないよな」
「間違える訳無いだろう」
「でも、この結果」
「それが事実だよ。俺だって入れたんだ。早乙女に!」
パンパカパーン。
どこかで聞いたような音だな。
「えーっ、今年のミス星城は…満場一致で早乙女麗人さんでしたー」
「「「「「「「「「「うぉーっ!」」」」」」」」
「やっぱりこうなったか」
「今回は仕方ないわね。九条さん、新垣さん。望月さん」
「相手が悪いわ」
「歯が立たないわよ。彼じゃ」
「そうね。諦めよ」
俺、この後、ここの学校で過ごしていけるのかな。何故か俺の肩から腰に掛けてミス星城のタスキが掛けられていた。
―――――
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