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 この都市まちに出現した魔物フィーンド達同士で、勢力争いが起きて……その勝者になったのは……邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンを名乗る奴らしかった。

 そして、僕は何故か、その邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンとか言う奴から指名手配されていたそうだ。

 この都市まち魔物フィーンド達の巣窟になる切っ掛けになった、あの夜の火事……それを起こした奴を生きたまま連れて来いと……。

 ああ……。

 ほんの数日前の事なのに……遠い昔みたいだ。

 自分がやった事の……筈……なのに……自分がやったって実感が無い……。

 あれ?

 ここは……?

 かつての冒険者ギルド本部。

 僕を連行した暴徒達は……ゴブリンから、大金が入ってるらしいズダ袋を受け取る。

 金なんて……この状況で何の役に立つか判んないけど……。

「言ッタダロ……出来損ナイノのっぽガ……オ前ハ……所詮……出来損ナイダ。出来損ナイノ癖ニ、下ラナイ夢ヲ見タ神罰ダ……。俺達ヲ『ざまぁ』出来ルトデモ思ッタカ?『ざまぁ』スルノハ俺達ダ。『ざまぁ』ッテノハ、オ前ミタイナ出来損ナイジャナクテ、俺達ミテェ〜ナ、マトモナ人間ノ方ガヤルモンナンダヨ……ケケケケケ」

 縛られたままの僕を……この建物内のどこかに連れて行こうとしているゴブリンは……意味不明な事を言っている。

「な……何を言ってるんだよ? 人間って言うのは僕みたいなのの事で……お前は……ゴブリンだろ」

「違ウ。忘レタカ? 俺達ノ村デハ……俺達ミタイナノガ、マトモナ人間……オ前ハ……神様ニ引キ取ラレル事ガ無イ欠陥品ダ」

「神様? どんな神様だよ?」

「ココガ……神ノ館。神ニ選バレタ、まともナ人間ハ……ココデ……新シイ姿ニナリ、神ニ仕エルシモベトシテ、崇高ナル御役目ヲ担エル。ソシテ、御役目ヲ果タシテ死ネバ、天国ニ行ケル。ダガ、欠陥品トシテ生マレタオ前ハ……欠陥品ノママ死ニ地獄ニ堕チルダケダ」

 何を……言ってるんだ……。

 いや……何かが……。

『冒険者になってランキング1位になる? 夢見てんじゃね〜よ、ばぁ〜か♪』

 突然……頭に浮かんだのは……子供の頃の記憶。

 僕をいじめた奴を見返ざまぁしてやる為に……冒険者になった筈……。

 でも……記憶の中のいじめっ子達の体は……。

 小さい……。

 何で……?

 何で、僕よりも小さい奴らが……いくら集団とは言え、僕をいじめる事が出来たんだ?

 いやだ……。

 だから……僕は……誰……?

「連レテマイリマシタ」

「そいつだけ、この部屋に入れて……お前は下がれ」

「ハイ……」

 ギルド本部の地下の一室。

 どうやら、ここが……僕の……冒険の……旅の……人生の終着点らしい。

 そこに居たのは……。

 3人。

 人間? 人間とエルフ? 何で、魔物フィーンドじゃない奴らが……魔物フィーンド同士の内輪揉めの勝者なんだ?

 1人は顔まで隠れる鎧に腰にはサムライのカタナ風の曲刀。

 1人は……如何にもな「聖女」風の格好の人間の若い女。

 もう1人は……魔法使い風の格好の若いエルフの女。……って言ってもエルフなんで実際の年齢は知れたモノじゃないけど……。

「あ……あ……え……えっと……どこかで見たような顔……」

 そう言った奴が……おそらく、邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンを名乗ってる奴なんだろう……。

 でも……その口調は……威厳もクソもないマヌケな……何か……混乱してるような声。

「おい、シュネ……ローア……何で……こいつの顔は……」

 待て……その名前は……。

 邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンらしき男は兜を取った。

「ど……どうなってんだよ? 何で……こいつの顔……?」

 兜の中から出て来た顔は……顔は……顔は……ああああ……そ……そんな馬鹿な……。

 聖女風の姿の女は……聖女らしからぬ舌打ち。

「ま……まさか……手前てめえだったとは……

「おい……ローア、何を言ってる。俺の2号機? ドワーフじゃあるまいし……」

「お前、本当に底抜けのマヌケだな……。小人症の人間をドワーフやゴブリンに改造して、使い捨てにするような組織が……普通の人間を使い捨てにしないとでも思ったのか」

 その時、エルフの魔法使いが……邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンだか……もう1人の僕だかの頭に手を置いた。

「ふにゃっ?」

 ドタン……。

 邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンだか……もう1人の僕だかは……マヌケな声と共に……床に倒れた……。

「あの……お姉様……こいつ、精神操作のかけ過ぎで、脳味噌ブッ壊れかけてんで……」

「判ってるわよ。でも、丁度良かったじゃない。代替機が、ここに居る」

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