第2章:ポゼッション

(1)

「おい、こら、てめえ、何で召喚状を受け取ってから何日も出頭しなかったんだ?」

 留置所で取調べ官に、そう怒鳴られた。

 でも、僕としては、こう言うしか無い。

 え……何の事……?

 僕は人命救助レスキューギルドのレズっぽい女に言われた通り……えっと、魔法医の診療所に行って……僕の心身を汚染してた邪気を除去……いや待て、何で、そんな治療を受ける必要が有ったんだっけ?

 で……その後、自宅に帰るまでの記憶が曖昧だ。

 しかし、取調べ官に、そう話しても信じてくれないだろう。

 

 どうやら、僕は……重大な犯罪か事故の参考人になってたらしい……知らない内に。

 そして、召喚状が来たのに(いや、僕は受け取った記憶が無いんだが)当局に出頭しないまま数日が経過していたようだ。

 当然、当局の取調べ官は大激怒。

「もういい。そっち系の専門家を呼んだ。お前の脳味噌から直接情報を引き出す」

「えっ?」

「あ〜、入って下さい」

 その声と共に、取調べ室のドアが開き……。

 同時に、僕の顎は外れかけた……。

 魔法で耳を隠して……あと、肌と髪の色を一時的に少数民族の北方系白肌人種っぽくない色に変えてるけど……。

「ほう、今から何をするか予想が付いたようだな。自発的に白状したなら罪を軽くしてやるつもりだったが……今更泣いて後悔しても、もう遅い。貴様は仲間のテロリストどもと同罪だ。ぎゃはははは……ここ何年かちまたで流行ってる『ざまぁ』系とは、こんな感じだったかな? くけけけけけ……」

 完全にサディスト丸出しの表情かおになってる上に、「ざまぁ」系を何か勘違いしてるらしい取調べ官。

 でも、僕が混乱して固まってるのは……取調べ室に入って来たのが……僕が良く知ってるけど……まさか、こんな状況で現われるとは思ってもみなかった人物だからだ。

 そして……の手が、僕の頭に触れると……。

 ぐがっ?

 ぐがが……。

 へげげげげぇ〜ッ‼

 脳味噌が……脳味噌が……脳味噌が……。

 な……なんだ、この光景?

 何年か前の例の伝染病の大流行の時に……多くの人達を救った、あの名医を僕が殺し……やった覚えない。

 な……なんだ、これ?

 どう見てもドワーフなのに……手足が異常に長い……おい、普通の人間より背が高いドワーフなんんて、誰が作ったんだ?

 な……なに……これ……ああああ……僕の憧れの人だった「黄金龍の勇者」のモノにそっくりな鎧を着装つけた……アンデッドと……その足下に広がる死体死体死体死体死体……。

 な……なに……覚えが有るのに……覚えが無ああああああ……?

 有るのに無い。無いのに有る。気功拳士モンク達が良くやる意味不明な問答みたいだだだだ?

「困りましたね……。かなり複雑な精神操作が行なわれているようです」

「へっ?」

「この被疑者にかけられた……」

「すいません、まだ参考人です。正式に被疑者にすると、取調べの規則が厳しくなるので、裁判が行なわれる直前まで、建前上は『被疑者』じゃなくて『参考人』です」

「なるほど、ともかく、この参考人は精神操作の魔法で都合の悪い記憶を封じられています」

「あ〜、その可能性も考慮して、魔法技官である貴方を呼んだのですが……」

「しかも、その精神操作には何重ものトラップが仕掛けられています。そのトラップの1つでも解除するのに失敗すれば……」

「すれば……?」

「この参考人の脳味噌は完全にクルクルパーになります。あ……元から頭は悪いようですが、更に悪くなって、そちらが必要な情報は、参考人の脳味噌から消える可能性が高いと思われます。すいません、参考人の脳味噌から必要な情報を取り出すに当たっては……少し、やり方を考えさせて下さい」

「は……はぁ……そ……そうですか……」

「まぁ、明日の朝までには、良い手を考えておきましょう。それは、それとして……」

「何ですか?」

 次の瞬間、呪文詠唱さえ無しに物体転移トランスポーテーションの魔法が発動。

「えっ?」

 シュネの手の中に……一本の剣が出現。

「はい、リーダー、新しい聖剣を持って来たよ」

 ザクっ‼

 鞘から引き抜かれたのは汚れも錆も全くないりが有る輝く刃。

 でも……。

 その「聖剣」の切っ先が喉元に刺さった取調べ官は、見る見る間に、ミイラと化して……。

 何かおかしい。いや、何か、最近、僕の身の回りで異常な事しか起きてない……いや……ここ最近の記憶が曖昧なのに……何で、異常な事が起きてるって判るんだ?

 あと、物体転移トランスポーテーションの魔法は、普通、マジック・アイテムじゃないモノを取り寄せる為のモノで、強力なマジック・アイテムを物体転移トランスポーテーションで取り寄せるのは……かなり高レベルの魔法の筈……。

 シュネって、こんなに高レベルだったっけ?

 あ……あと……。

「あの……これ……聖剣じゃないよね?」

「聖剣だよ」

「どこがッ⁉ どう見ても、殺した相手の血を吸う魔剣じゃないかッ⁉」

「血だけじゃないよ。生命力と……持ってたら魔力とか霊力とか気とかも根刮ねこそぎ吸いとるんだよ」

「余計に聖剣じゃなくて魔剣だよッ‼」

「あ、そっか、正確には元・聖剣」

「はぁ?」

「何代か前の冒険者ランキング1位のパーティーのリーダーが使ってたヤツ。元々は、リーダーが前に使ってた聖剣より更に強力なヤツだったけど『悪事に使うと呪いの剣と化す』って制限魔法セキュリティもかかってて……その制限魔法セキュリティが暴走して『呪われた魔剣』に変っちゃった……元『聖剣』。あ〜、わざと制限魔法セキュリティを暴走させて、チート級の『呪われてるけど鬼強い魔剣』に変えた、って噂も……聞いた事が有る気がする」

 あ……あ……あ……ま……まさか……一般人には知られてないし……公式の設定アングルでは、これまで見付かった中で最も深いダンジョンに冒険に行ったっきり戻ってない事になってるけど……リーダーである通称「白銀のサムライ」がトチ狂ってパーティー・メンバーを皆殺しにした挙句……自分もハラキリして死んだって……噂が……ある……あの……。

「な……なんで、シュネが……こんなの持って……」

「ギルドからの仕事の依頼。一週間以内に、この都市まちの自治会長に名士にな宗派のお坊さんを……合せて十五人ぐらい殺せって。もちろん、あたし達がやったってバレたら駄目。これは、その為にギルドからもらったの、はい、使って」

 嫌です。

 でも……他に選択肢は無さそうだ。

「あ……あと……さっきの言ってた僕に精神操作の魔法がかけられてて、都合の悪い記憶が封じられてるってのは……」

「リーダーさぁ、現実を直視しなよ。そりゃ、『この世界は1つ上の現実の小説投稿サイトとやらにヘボ文士が書いてる三文小説だ』とか現実逃避したくなる気は判るけどさぁ……。でも、現実は現実」

 う……うそ……。

「でも……何で、僕だけ?」

「ローアは体は人間でも魂は半分魔性フィーンドみたいなモノで、しかも多重人格だから、普通の人間用の精神操作は効かない。……ってか、良くて効かない、最悪の場合は効いた結果、何が起きるか予想出来ない……かな? あと、もう死んじゃったけどシュタール1号機は、元からガチガチに精神操作されてんで、これ以上、精神操作の上書きやったら……多分、ブッ壊れる。ギルド本部としては全員に精神操作をやって都合の悪い記憶を封印したかったらしいけど……リーダー以外のメンバーには、迂闊に精神操作が出来ないから、結局、リーダーだけが、記憶を封じられた」

 でも……あれ? ええっと……容姿ランクB+以上の女子冒険者は……精神操作耐性は御法度だった筈……。えっと……女子冒険者に精神操作耐性が有ったら、可愛い女の子が催眠で操られるシチュエーションが大好きなファンが激怒……。

 ……。

 …………。

 ……………………。

「リーダー、そろそろ、逃げるよ。詳しい説明は後」

「あ……待って……」

 シュネはいつの間にか開いてた魔法の転移門ポータルに入りながら、そう言った。

 あ……何だ……二日酔いみたいに頭が痛くて重い。

 ぼ……僕は……何を「何か変だ」と思ったんだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る