第1章:ミッドナイト・ライダー

(1)

「僕らも、いつか、ランキング1位になれるのかなぁ……?」

 一仕事終えた後、居酒屋の2階のベランダ席から大通りを見下みおろしながら、僕は、そう言った。

「なれますよ。頑張っていれば、神は手を差し延べてくれます」

 営業用の人格に切り替わったローアは、そう言ってくれた。

 偽エルフのシュネは……その台詞を聞いて嫌そうな表情かおになる。いや、正確には、オーバーな演技で「吐きそう」って表情とゼスチャーをしたが……ローアは、そのシュネの方に……微笑みかけ……。

 微笑み続け……。

 更に微笑み続け……。

 まだまだ、微笑み続け……。

 普通の人間なら……同じ表情を、こんなに長く続けられる訳がない。多少は、顔の筋肉に何かの動きが有る筈だ。

 でも、ローアの顔には微笑みが貼り付き続けている。そして、この睨めっこは、いつも、元々は白肌人種のシュネの顔が、更に……病気か何かみたいに……真っ青になり終る。

 さっきの仕事に連れて行かなかった偽ドワーフの戦士のシュタールは……黙々と酒を飲んでるが……明らかに酒なしでは正気を保てない奴の表情ツラだ。

 ドワーフは、人間より寿命が長いって「設定アングル」だけど……小人症の人間をドワーフに改造した直後の状態で、残り寿命は、長くても十数年になってしまい、約7割が5〜6年で壊れてしまう。

 しかも、ドワーフに改造した時に精神操作系の魔法もガンガンかけてるようで、精神も不安定になってるらしい。

 一般人には知られてないが、精神操作系や肉体干渉系の能力を持つモンスターと戦ったら、真っ先にドワーフ(正確にはドワーフに改造された小人症の人間)がやられるってのは、冒険者の間では常識だ。体にも心にも手が後先考えないような改造がされてる分、その手の魔法や能力に対して、ドワーフ(正確には以下略)は無茶苦茶脆弱だ。

 そろそろ、新しいシュタールを調達しなきゃ、いけなさそうだ。

 でも、たった3年で壊れかけてるなんて……パーティーを組んだ時に、ギルドから、とんだ「不良品」を掴まされたらしい。

「ちょっと……トイレに……」

「どうしたんですか? まだ、そんなにお酒を飲んでないでしょ……?」

「いや、その、あははは……」

「体調悪いんでしたら、わたくしの治癒魔法で……」

「いや……いい、いいよ、大丈夫。多分、疲れてるだけだ。明日丸1日ゆっくり休めば回復してるよ、はははは……」

 パーティーを組んだばかりの頃は……ローアを本当の「聖女」だと思っていた。

 今は……彼女が「聖女」の人格に切り替わってる時には、ガチで吐き気がする事が有る。

 本物かつ魔物の人格は……極悪非道のサイコパスだが、まだ、話は通じるし、「クソ野郎で何が悪い」と開き直ってる分、性格に裏表も無い。

 如何にもな「聖女」そのものの笑顔も……本物かつ魔物の方がまだ人間的な……おぞましい作り物にしか思えない時が有る。

 クソ……。

 この都市まちでの「冒険者ランキング1位」を目指し始めてから……どんどん正気が削られていく。

 クソ汚いトイレで思い切り吐き続け……。

「あ……?」

 畜生、また、あの幻覚だ。

 トイレの中に……今まで殺してきた人達の顔が見える。

 さっき殺した……あの名医の顔もだ。

 いいよ……どうせ、偽「聖女」様に何度も何度も何度も実はクソ危険ヤバい「治癒魔法」をかけてもらったせいで、死んだら魔物に魂を食われる事は決ってるんだ。

 地獄で、今まで殺した奴らに袋叩きにされる心配だけは無い。

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