第一章 第52話 国境の砦での戦闘⑮

 アンジー達と俺の部下達が残存王国軍を倒して、砦前に居る俺のもとに帰って来たので、速やかに砦に戻ってそのまま国境の街の砦と反対側の大公国領側に向かった。


 


 実は、此の時までに残存王国軍が攻め寄せて来たタイミングを合わせて、大公国軍が国境の街に対して、大攻勢を仕掛けて来ていたのである。




 恐らくは、残存王国軍と示し合わせて国境の街を占拠しようと目論んだのだろうが、既に守護機士【アテナス】と残存王国軍は打倒しているので、連動して攻撃して来ても現状では意味が無い。




 なのに、未だに総攻撃をしているらしく、鬨の声が我々が向かう間にも響いてくる・・・。




 (・・・まあ、まさか守護機士【アテナス】を擁している残存王国軍が、敗れるとは心底想定していないのだろうな・・・)




 俺達が砦に残して置いた幾つかの武器を運びながら、砦と反対側の大公国領側に向かっていると、街の住民と思われる方々が道路の辻辻から出てきて、応援してくれた。




 「頑張れよー!」




 「応援してるぞー!」




 「勝ってくれー!」




 「俺達も、戦うぞー!」




 「自衛団を組織してるから、何時でも呼んでくれ!」




 等などの応援の声が、俺達を応援してくれる・・・。


 俺は、此の惑星に来て本当に良かったと、胸が熱くなる自分を発見していた。




 (・・・生まれ故郷を脱出させて、本当の人生を歩める様にと願ってくれた母さん、俺は同じ種族の【人類同胞】が文明を築いている此の惑星で、精一杯生きて行くよ・・・)




 俺は、俺の信念で応援しようと心に誓ったアンジーを、全力で支援している現在を、非常に誇らしく思いながら大公国軍が押し寄せている、砦と反対側の大公国領側に疾走する。




 其処では、残存王国軍に対して攻撃に向かった守備隊とは別の、拠点防衛を得意とする兵員である2千人が、急造ではあるがしっかりとした高さの防御壁を利用して、大公国軍の大攻勢から街を守っている真っ最中であった。




 その防御戦闘の援軍としてやって来た俺達は、【爆裂魔法】を封入した【魔法石】を手榴弾として、攻めて来ている大公国軍の前線に投擲した!




 ズドドドドドォォーーーンッ!!




 いきなり先程までは弓矢と攻撃魔法でしか攻撃を受けていなかった大公国軍は、一斉に投じられた30個の【爆裂魔法】を封入した【魔法石】を浴びて、四分五裂に前線を崩壊させられて、一気に士気を落とされてしまった。




 そのタイミングで俺は、拡声魔法で大公国軍の司令部に呼びかけた。




 「大公国軍の司令部に告ぐ! お前たちの頼りの綱である残存王国軍と守護機士【アテナス】は、我々が打倒して既に軍門に降っている!


 此れ以上の戦闘行動は無駄である上に無意味である!


 即刻、我々への攻撃を中止して、本国に帰還する事を勧告する!


 直ちに攻撃を止めず、戦闘をし続けるのならば、残存王国軍と守護機士【アテナス】を打倒した兵器達により、容赦無い破壊の力が大公国軍の頭上に落とされるであろう!」




 そう、俺は恫喝混じりの戦闘中止勧告を行った。


 暫くの間、大公国軍は戦闘行動を止めて、司令部と前線の兵士との間でやり取りが繰り返された様だが、やがて先程までの勢いこそ無いが攻撃が再開された。




 だが、明らかにやる気の無さそうな攻撃内容から、おそらくは兵士の方は既に戦闘を拒絶しているが、司令部の強制命令で戦闘している事が判ったので、俺は使用したくは無かったが、亜空間から【スナイピング・ライフル】を取り出して、徐ろに700メートル程の距離に有る大公国軍の司令部に狙いを定めた。




 【スナイピング・ライフル】の上部に有る光学照準器は、大公国軍の司令部に居る【ゾング】将軍とその幕僚達を映し出す。


 次の瞬間、俺は躊躇いもなく全員をマークした上で、順番に引き金を引いて全員の額に直径3センチの穴を空けてやった。




 その後も散発的な攻撃が街の防御壁に繰り返されたが、やがて攻撃は止んで当惑した様な大公国軍兵士達が、ゆっくりと街の防御壁から100メートル程離れた場所に集結し始めた。




 そして30分程経ってから、代表者と思われる兵士が5人が街に近付いて来て、そのまま白旗を上げて投降の意志を示して来た。




 此の頃には、代官と守備兵の司令官達もやって来ていて、直ちに投降して来た代表者と思われる兵士達5人を防御壁内に迎え入れて、交渉を始めた。




 交渉は実にスムーズに進められた。


 そもそも今回の戦闘行動自体が、大公国軍兵士達に説明されておらず、何故自分達が自国領である筈の国境の街を攻撃する命令を受けているのか理解不能で、イヤイヤ攻撃していたら猛烈な反撃を喰らった上に、俺からの戦闘中止勧告を受けて司令部に具申しても、一切の説明が無いまま攻撃続行を命令され、不満が兵士の間に広がって行った。


 そして唐突な司令部の崩壊により、命令を下す上層部が居なくなったので、此の意味不明な戦争はする必要は無いと兵士達で決断し、投降する事に決めたそうだ。




 それを受けて、代官と守備兵の司令官達、そして俺を含む傭兵団の代表で協議して、武装解除した上で一旦街の空き倉庫に入ってもらい、一人一人聞き取り聴取を行った上で、希望に添う形で判断する事が決められた。




 その決断が成されて、残存王国軍兵士と大公国軍兵士を捕虜として、空き倉庫に収容し周りを守備兵が警護と警戒配置した事で、漸く国境の街を巡る戦争が終結したのであった。

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