第一章 第16話 交易都市の現状

 降下艇で空中から交易都市に到着したが、隠蔽モードなので誰にも気づかれていない様だ・・・。


 ある程度の魔法による警戒網は、この大陸では都市以上の規模の拠点では当たり前の様に、魔法具等で備わっているが、全ては魔力の使用による反応に対しての物で、魔法を介在しない降下艇ではどうしようもないらしい。


 なので、この魔力しか感知出来ない状況を利用し、俺とアンジーはインナースーツで変装した上で、地上に降りる事にする。


 建物の裏で人目につかない路地に、音もなく降下した俺達は素早く辺りを見回し、問題無しと判断すると路地から表通りにゆっくりと歩き出す。


 そしてアンジーに聞こえるだけの声量で、俺は確認する・・・。




 「・・・アンジー・・・、取り敢えず周りには警戒されていない様なので、例の【駅郵便所】とやらに向かおう・・・」




 「・・・そうね、このまま表通りを進んで行くと見えてくる、都市庁舎に隣接する建物らしいから、堂々と正門から入りましょう・・・」




 小声で打ち合わせて、あまり早すぎない様に歩く事で周りの注目を集めず、俺達は駅郵便所に入って行く・・・。


 駅郵便所とは、駅と呼ばれる中継場所を経由して、基本は馬による郵便物を届ける場所で、準公営の組織なので国の郵便物が最優先ではあるが、民間の郵便物も当然扱ってくれる組織らしい。


 ただ、民間の郵便物の場合、一定の量の郵便物が溜まらないと馬での輸送は行わないそうで、専ら商会のキャラバン隊が組織された場合についでのように託されるそうだ。


 だが、金額を多く払えば国の郵便物と同じく、馬での速達を受けてくれるらしい。


 なので俺達はアンジーに予め手紙をしたためさせて、アンジー達の祖父が統治する大公国に存在する公国の出張所に向けて、速達で送ることにしていた。


 特に問題無く駅郵便所での用を済ませて、俺達は此の交易都市にて【情報屋】を抱える組織【商会ギルド】に向かう。


 商会ギルドも、表通り沿いに存在しかなりの大きさの建物を構えている。


 俺達は変装した際に考えて置いた架空の人物になりきり、公国の商人としての立場で相談する。


 受付に常駐しているらしい女性が、鑑札の提示を求めて来たので、アンジーが軍用の取引のあった実際に存在する公国の商人の物を提示した。


 鑑札といっても、簡単な金属板に文字を魔法で刻まれた物で、アンジーが大公国に向かう方針を決めた際に、公国の商人にお願いして譲られた本物なので、何の問題も無かった。




 「それでは、王国と公国の最近の情勢と物流の状況、其れ等を詳細な情報で且つ、書面で欲しいという訳ですね?」




 「嗚呼、出来れば此処一ヶ月前からの情報を、資料の形で貰いたいんだ。


 又、大公国付近の情勢も知りたい」




 「ですと、交易通貨で一万ギル(約100万円)必要となりますが、よろしいでしょうか?」




 「了解した。 王国通貨でも構わないかな?」




 「ええ、王国通貨なら交易通貨と同等交換となりますので、問題有りません」




 「それでは、此れでお願いする」




 「承りました、では時間が掛かりますので、応接室でお待ち下さい!」




 その返事を受けて、案内された応接室で待つ事になった・・・。


 周囲に聞き耳を立てる者がいないのを確認し、俺とアンジーは会話し始めた。




 「・・・驚いたわヴァン! 【星人ほしびと】であるというのに、まるで長年商売をして来た商人の様でしたよ!」




 「逆だよアンジー! 例の立体映像で勉強して、此の地の商人のやり取りを真似してみたんだよ。


 アンジーの太鼓判を得られたとは、俺の真似も捨てたもんじゃないな」




 とお互いにクスクスと笑い合う、始めて見るアンジーの自然な笑顔に、俺も顔を綻ばせていたのだろう、アンジーは更に笑みを深くして俺に感謝して来た。




 「本当にありがとうヴァン! それにしてもあの王国通貨はどうしたの?」




 其の問いに、俺は人の悪い笑みを浮かべて、アンジーに教えて上げた。




 「フフ、例の王国追跡部隊が持っていたお金だよ。


 こんな形で俺達に使われ、王国に仇をなすとは奴等としては痛恨の極みだろうな!」




 そう言って上げると、アンジーは当初呆れた顔をしていたが、やがてさっきと同様にクスクスと笑ってくれた。




 (・・・そうだよ・・・、そんな風に笑い掛けてくれる【人類同胞】を求めて、遥かなる宇宙の旅路をして来たんだ・・・、本当に此の惑星に来て良かったよ・・・)




 俺は、染み染みと感慨に耽りながら、アンジーの可愛い笑顔を見つめ続けた・・・。

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