他天体からの脱出者は、亡国の公女を助けて国を興す

ミスター仙人

序章 【ヴァン・ヴォルフィード】誕生、そして脱出・・・

 惑星【アース】・・・、此の星は第137小宇宙に於ける、2983銀河星雲の首都星である、いや、遥かな過去にそうであったというべきだろう・・・。


 今やかつての繁栄がまるで嘘の様に、地表は荒れ果て、地殻は割れ、ひっきりなしに降る雨水は、硫酸を含んでおり、とても人の住めない大気となって充満している・・・。


 既に此の惑星には、生きた人類は一人として居らず、後は滅ぶのみの死の惑星と言っところか・・・。


 


 此の星が此の様な状態になったのは、何も惑星の寿命でなった訳では無い!


 外宇宙からやって来た、外敵によるものである。




 奴等は、凡そ200年前位に、2983銀河星雲の外縁部に移民していた惑星に対し、突如として侵攻して来た!


 侵攻された惑星に居住していた移民団は、「外宇宙からの侵略者」とだけ、惑星【アース】に送信して、以降音信不通となる・・・。




 数年を経ずに、同様の事態が2983銀河星雲の外縁部全体に頻発し、とうとう人類は大規模な遠征軍艦隊を中央で組織し、外宇宙からの侵攻者に対し、全面的な対抗戦を行う事になった。


 その艦隊規模は、数億という此れまでの常識を逸脱するものだったが、相手は無尽蔵と呼べる程の数の敵で、遠征軍艦隊は辛うじて相手の素性を掴むのが精一杯の状態で敗北した・・・。




 外宇宙からの侵攻者とは【旧支配者】という存在・・・。


 かつて、此の2983銀河星雲銀河を支配していた、クトゥルフという存在を中心とする邪神の群れである。


 奴等には、一切の光学兵器の類は通じず、辛うじて通用した物理攻撃も時間が経つと修復してしまい、殆ど意味が無い事となった。


 遠征軍艦隊の敗北から100年・・・、殆どの星域は奴等【旧支配者】に侵略されて、我等【人類同胞】は生存領域を奪われてしまった・・・。




 残った【人類同胞】達は、ある者は2983銀河星雲を捨てて、他の星雲目指して逃走し、ある者は必死の抵抗と共に滅んで行った・・・。




 そして首都星である惑星【アース】は、生残している生物が一匹たりと居ない状態で、打ち捨てられていた。


 そんな中でも、惑星の中心核のエネルギーを利用する、セントラル・コンピュター【アルゴス】は星系との繋がりを保ち、残った【人類同胞】を円滑に脱出させる為に、稼働し続けた・・・。




 だが、その動きも奴等【旧支配者】に察知され、いよいよ最後の時を迎えようとしていた。




 その事を以前から予想していたセントラル・コンピュター【アルゴス】は、ある計画を実行に移した。


 


 ”それは・・・、ある一人の母親の我が子への切なる願い・・・”




 此の人類にとって未曾有の危機にあって、【聖皇女アフロディア】は瀕死の状態にありながら、一人の赤子を産み落とす。


 そして、死の間際にありながらも、その赤子をセントラル・コンピュター【アルゴス】に託しながら、ある願いを口にした。




 「・・・わ、私の・・・、い、愛しい、赤ちゃん・・・、ご、ごめんな、さいね・・・、お、お母さんは、貴方に・・・、幸せな・・・、じ、人生を、与えられ、そうに、な、無いわ・・・、ア、【アルゴス】、どうか・・・、わ、私の、最後の・・・、願いを・・・、き、聞いて、ちょ、頂戴・・・!


 あ、貴方、ならば・・・、こ、此の惑星、【アース】から、この、子を・・・、ぶ、無事に・・・、脱出・・・、させて、あ、あげられるは、筈よ・・・。


 そ、そして・・・、こ、この子が・・・、他の、星でも・・・、も、問題無く・・・、過ごせる、様に・・・、処置して、あ、あげてね・・・、その、際の・・・、す、全ての、き、禁止事項の、撤廃をめ、命令、します・・・。


 わ、私が、この、まま死ねば・・・、全ての、せ、聖皇家の者、は、この子を、除いて、そ、存在、しなく、なるわ・・・、あら、ゆる、倫理、規定も、い、意味が、無く、なるの・・・。


 な、ならば、ほ、本来、制限、されて、然るべき・・・、り、リミッターを、か、解除、しても・・・、か、構わないわ・・・。


 ああ、【ヒューベリオン】、い、今から、貴方の、お側に・・・参りますね・・・。


 そ、そうだったわ・・・、【アルゴス】、そ、その子の、名前を告げる、わ・・・、ヴァン、【ヴァン・ヴォルフィード】よ・・・、ヴォル、フィード、聖皇家、の、正統、後継者、よ・・・。


 ・・・ヴァン・・・、他の、星に、居る・・・、同族、たる・・・、【人類同胞】と、共に・・・、幸せな、人生を、歩んで、ね・・・・・・・・・・」




 そう告げると【聖皇女アフロディア】は身罷り、セントラル・コンピュター【アルゴス】は産まれたばかりの赤子を、生育カプセルに搬入した。




 そしてセントラル・コンピュター【アルゴス】は、【聖皇女アフロディア】の願い通りに、常識的な生育プログラムを遥かに越えた調整を、赤子に施して行く・・・。




 いよいよ後数日で、奴等【旧支配者】が此の惑星【アース】にやって来る事が判ったので、セントラル・コンピュター【アルゴス】は【ヴァン・ヴォルフィード】を、脱出させる為に最後に残っていた星雲間航行用艦船〈YTK-21881〉に、生育カプセル毎搬入して、生育プログラムを施しながら、惑星【アース】を脱出させた。


 


 その後、惑星【アース】は【旧支配者】の眷属たる、【星喰(ほしくい)】という存在にそのまま食われてしまった・・・。


 


 【旧支配者】の顎(あぎと)を辛うじて逃れた【ヴァン・ヴォルフィード】は、様々な強化調整を生育カプセルで受けながら、幾つかの惑星に立ち寄りながら、同じ【人類同胞】が繁栄する惑星【エリュシオン】に到達したのである。


 


 この物語は、その到着から幕を上げる・・・。

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