第32話 アクセルの街へ

【アイリスside】


 アクセルの街へ、リザードランナーが引く竜車に乗り避難している。


「おのれ、卑怯者め !」


 クレアが怒っていますが、レインは冷静に……


「完全に、してやられましたね。

 王や王子が最前線にいる中、王都に残った騎士達を戦闘不能にされてしまうとは想定外です。

 テレポートも魔族の結界で使えない、冒険者もデストロイヤー対策で出払っている隙を攻めて来るとは、魔族の策士の仕業とは思えない手際です 」


 魔剣の勇者が滞在していると聞いた、アクセルの街に避難することには不満が有ったけど、万が一を考えたレインの換言『王族の血を絶やさない』ことを聞きいれた。


 本当は、民の為にも闘いたかった……

 王族に伝わる宝剣を見ながら、自分の無力さを呪っていた。


 ◇◇◇◇

【 三人称side】


 遥かに見えるベルゼルクの王城からは黒煙が上がっていた。

 村の青年、どこから見ても平凡な農夫に見える彼は無気力にその黒い煙を見ていた。


「ばかなことは、考えるんじゃないぞ。

 どうやら、魔王軍は首都以外は、どうでもいいようだからな !

 おとなしくしてれば、わしらの前を通りすぎるじゃろう」


「村長……」


「王家も貴族どもも、皆、滅んでしまえばいいんじゃ!

 ワシラが丹精込めて作った物を取り上げることしかしない。

 そのクセ、他から攻められた時に、守ってくれないんじゃ、なんの為にいるのかわからん !

 あ奴等は害虫じゃ、魔王軍と変わらん!」


 集まって来た男達も意見は同じようで、暗い眼差しをして佇んでいた。


 瓦礫と化した王城の跡地で人型の魔族に囲まれた少女が報告を聞きながら、指示を伝えていた。


「……一先ず、首都の制圧は完了で良かったかしら…アイリス姫の行方は、まだ掴めないの?」


「……もう、死んでるんじゃないかって?

 それはどうかしら?

 まあ、この後は、地方に散らばっている諸侯軍をまとめて叩いて、しまいましょう。

 大丈夫よ、この国も例外なく民を虐げていたみたいだから !

 私達は、貴族と騎士だけを相手にすればいいだけだもの、楽なものよ !

 ……アイツが、ベルゼルクに来るかもですって?

 アイツは気楽な冒険者よ?

 自分の里がチョッカイ出されなければ、向かってこないはずよ」


 彼女の周りにいる側近は、主の語る『アイツ』をひどく恐れているようだ。

 必死に抗弁している。


「……分かってるわよ !

 アイツが出てきたら、作戦を放棄 !

 直ちに撤収するわ」


 そうして、少女である魔王の娘に率いられた軍団は、瓦礫の廃墟で夜営の準備を始めるのだった。


 


 



 突然襲来した魔王軍によって首都は焼け野原になった。城もあっけなく陥落し、騎士達も呆気なく殺された。

 逃げ出した騎士も夢中で逃げ出すも、道行く者も民も騎士達を助けてはくれなかった。


「普段、贅沢して威張ってんなら、こういう時に役に立てよ!」


「あたしらを守ってくれないんなら、王様なんていらないんだよ!」


「早く、犠牲になって俺たちを救ってくれよ?」


「死ぬ前に、俺達に謝れよ !」


 倒れて意識を失った最後の貴族の娘を上空を偵察していたモンスターの集団が発見して舞い降りてきた。


 それまで自分を無視して逃げていた者と違い、一団の男達は、欲望の目を向けて迫ってきた。


 執拗に追ってくる集団に金品をばらまき必死に逃げる途中、一緒にいた侍女ともはぐれてしまった。


「もう歩けない……お父様もお母様も死んでしまったわ……私も、これ以上は……

 あの人に、もう一度会いたかったな……」


◆◆◆


 魔王軍の奇襲により、陥落した王都の奪還のため各地方の貴族は諸侯軍を結成。

 募兵をしたが日頃の圧政が祟り兵の集まりは、かんばしくなかった。

 それどころか、無理やり食料を徴発して進軍した領地は、反って反乱を招いていた。


「恨み重なるクソ領主が帰ってこれねえように、何もかも奪っちまえ!」


 どの領地も同様な具合だった。

 各貴族の拠点たる城は、主力が出払った隙におとされ、その家族は留守の部隊共々、皆殺しにされた。

 荒れ狂う反乱の影には、扇動していた魔族の姿があった。


 ベルゼルク全土が戦火に包まれているとき、辺境から一団がやって来た。


 黒髪をなびかせた少年を先頭にした、深紅の瞳の集団の後ろに、ばらばらに雑多な装備に包まれた傭兵を引き連れて争乱の地を訪れた。



 ◇◇◇

【アイリスside】


「魔剣の勇者が失踪した !

 さらに、アクセルの領主アルターブまでが隣国に亡命しただと ! 」


 クレアの叫び声が虚しく響いていた。


 遠巻きに見ている民衆が私達を見る目は、とても冷たい。

 私達、王族や貴族から民心が、これ程離れているとは……


「アイリス様、よくぞご無事で !

 よろしければ、我が屋敷に御滞在してください 」


「ララティーナ !」

「「ダスティネス卿 !」」


 ── ダクネスは、本名をダスティネス・フォード・ララティーナといい、名門貴族ダスティネス家の令嬢だと云うことを初めて知らされたカズマ達も一緒に居た ──


「このアクセルの街は、私こと水の女神アクア様が結界を張ったから、魔王軍なんて恐れる必要は無いわ ! 」


 ── 実際に聖水の結界を張るアクアに驚かされた冒険者たちもアイリス達も、やっと安心するのだった。

 本来の歴史と違って、大きなミスをヤラカシていないアクアやカズマパーティーの評判は悪くない ──


 ララティーナから冒険譚を手紙で聞いていたパーティー。

 非常事態にも関わらず、羨ましく思ってしまう。

 紅魔族の少女だろうか、男の人の隣に立って服を摘まんでいた。

 付き合い初めたばかりのようなカップルを羨ましく思ってしまう私。

 フィアンセは居るけれども……あんな風には慣れないからか、庶民が羨ましかった。



 ◇◇◇◇


【三人称side】


「 エ▪ク▪ス▪プ▪ロ▪ー▪ジ▪ョ▪ン▪ン」



 紅魔族の少女が、両手の十本の指にめられているマナタイトの指輪に爆裂魔法を込めていく姿に恐怖した魔王軍。


 魔王軍幹部、デットリーポイズンスライムのハンスが立ち塞がるも……


「やらせはせん、やらせはせんぞ ! 」


 スライム状態に成り壁に成るが、


「インフェルノ !」

「コキュートス !」


 二人の紅魔族の少女が別々の魔法を唱え、あろうことか一つの魔法にまとめてしまう。


「「紅魔族究極魔法、極大消滅呪文メドロ◇ア !」」


「このデットリーポイズンスライムのハンス様に魔法なんぞ、効か……


 極大な光の魔法がハンスを消し飛ばしてしまった。

 破片に成ったハンスが、再び集まり再生しようとしたところで……


「美味しいところは、私がもらいます。

 ファイナル▪エクスプロージョン !! 」


 十本の指から飛びだした爆裂魔法を見た瞬間、魔王の娘はテレポートを使い逃げ出した。 


 


 


 


 


 


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る