誰も気づかないけど

鈴乱

第1話


 きっと、僕がここにいることなんて、誰も気づかない。


 そのくらい僕は空気だし、いてもいなくてもおんなじくらい。


 うん。気づかれないくらいでいいんだぁ。


 それがちょうどいい。


 聞こえてくる音に耳を澄ましながら、人の息遣いを遠くで感じながら、僕は彼らの輪の中には入らない。


 入れない、って言う方が正しいかな。


 その方が彼らにとって平和で幸せだから。


 僕はどうしたって彼らのようにはなれないし、彼らと同じこともできない。


 本当は、いない方がよかったのかもしれない。生まれてこない方がよかったのかもしれない。


 だけど、まだ生きているから。


 まだ、命が鼓動するから。


 ただ、何となく、ここにいるだけ。


 ただ、なんとなく、生きているだけ。



 だから、そおっと、彼らの幸せを願うよ。

 彼らの健康と元気を祈るよ。


 だけど、誰も気づかない。


 誰一人、気づかない。


 きっと皆、僕を礼儀知らずだと言うだろう。そう思うだろう。


 それでいい。


 僕の存在なんて、そのくらいでちょうどいいんだ。


 仲間に入れてくれなんて、言わないから。


 ちょっと遠くから、眺めるのだけ、許してほしいんだ。


 それが精一杯の、僕の幸せ。だから。

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誰も気づかないけど 鈴乱 @sorazome

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