【短編】(独)海洋しげん探索機構
ろぶんすた=森
海洋しげん探索機構 起
2XXX年、日本は高齢化社会の真っ只中。道を歩けば年寄りばかり…若者の姿が全くと言っていいほど見受けられない。労働力は低下し、国力も下り、経済は不安定になる一方である。しかし、数の多くなった年寄りを支えるための設備は充実の一途を辿る。例えば、80歳以上のお年寄りの方々には家から出なくても楽しめるフルダイブ機能を持ったメタバースが無料で提供されている。これはなぜか若者の利用は禁止されている。
このままではまずいと思ったのか政府もこの件に関して何とか打開策を打とうと努力しているのはよくわかる。その泣きの一手として、海の中にあるエネルギー資源やレアメタルなどの採掘に力を入れ始めている。このエネルギー資源やレアメタルを輸出する事で国力、経済の増強を図りたいという事なのであろうが…、別の意図があるとの噂も絶えない…。
「おい隼人、お前の所にも届いたか?あの、高給な仕事。」
「あぁ、来たぞ!日給10万のあの海洋しげん何たらって会社のやつか。」
「給料はいいのに住み込みで1ヶ月だけってのが痛いよな。」
この高齢化社会だ、仕事に関しては選び放題、そのためこういった様な案件はかなり給料が高くなる。そして、ある一定の以上の大学を出ていればオファーとして仕事が斡旋される、そんな仕組みになっている。言うなれば、人が足りないから人材を共有して使おうという事だ。
隼人は俺の幼馴染でずっと一緒だ、幼稚園から大学、そして、今シェアハウスで一緒に住んでいるそんな仲だ。
「明後日には迎えが来て現場か…。海って漠然とした恐怖があるんだよな。」
「雄太、お前もか…。実は俺もなんだ…深海魚とかの映像を見るとなぜがザワザワするんだよな。」
そんな他愛のない話をしながら、明後日からの仕事に向けて準備を整える。1ヶ月の住み込みとなると結構な物が必要になる。最低限の衣食住は保証されるとのことだが好物の飲み物や食べ物があるとは限らない。そこは入念に準備していく必要があるのだ。
そして迎えの当日…。黒塗りの一台のバンが家の前に停車した。そして、インターホンが鳴る。
「高田様、小野寺様お迎えにあがりました。独立行政法人海洋しげん探索機構の者です。」
インターホンの画面には海洋しげん探索機構と書かれたジャケットを羽織った男性が立っていた。
インターホンに応答し、玄関へ二人揃って荷物を抱えて出て行った。
「高田様、小野寺様ですね。この度は仕事を受けてくださりありがとうございます。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「これから海洋しげん探索機構の本部である、海中コロニーへお送りしようと思います。」
俺たちは言われるがまま、バンに乗り込んだ。仰々しい黒塗りとは裏腹にバンの中は至って普通であった。
「ここから2時間ほどかかりますので、もし車酔いに強いならこの詳細な仕事内容に目を通しておいて貰えると助かります。」
迎えの運転手から一冊の冊子が手渡された。海洋しげん探索機構がやっている事業内容が記載されていた。
「俺たちはこの中で何をするんですか?」
「あぁ、折り目をつけているページがあると思うのですが。」
冊子をパラパラとめくると折り目のついたページが開かれた。
そこには海底しげんの探索と書かれていた。海底探索用のモビリティロボに乗り込み、海の奥深くを探索していく…、そんな内容が記載されていた。
「隼人、俺らロボに乗って海底を探索するみたいだぞ。」
「ここ見てみろよ。乗り込みは不要でフルダイブシステムを応用したロボって書いてあるから、遠隔操縦のような感じなんじゃないか?」
精神をそのロボットにシンクロナイズする事で、まるで自分の手足の様にそのロボットを動かす事ができるとのことであった。そして、体はコロニーにあるので怪我の心配もない。
「あの映画でよく見たロボット同士の戦いとか出来そうだな。」
「仕事道具でそんな遊びしてみろ…損害賠償請求されたらたまったもんじゃないぜ!」
そんな冗談を言い合っているうちにいつのまにか海底コロニーに到着していた。
海底コロニーは全く海底であることを主張していなかった。どこにでもあるオフィスビルの内装であり、一部の窓から暗い海中が見えているだけである。
「思ったより普通だな…。」
「同意見…もっとこう…水族館みたいな想像をしていたな…。」
そんな話をしていると、運転手が皆初めて来た時はそう言いますと相槌を打って、俺たちを会議室へ案内した。
会議室には正規の職員であろう人たちが3名ほど既に腰掛けていた。
「私たちの仕事を受けてくださりありがとうございます。しげん探査室室長の瀬下です。よろしくお願いいたします。」
「瀬下の部下の霜野です、よろしくお願いいたします。」
「同じく、瀬下の部下の猿渡です。」
「こちらこそ、これから1ヶ月ですが、よろしくお願いいたします。」
独立行政法人と聞いていたので、もっとお堅いイメージを持っていたが、皆一同フランクな感じであり、緊張がほぐれた。
「早速ですが、明日からすぐにでも海洋しげん探索を始めていただきたいと思っております。二、三日は慣れのためにロボの操縦で手一杯になるでしょうが、それからは自由に探索していただいて構いません。」
「自由とはどういうことでしょうか?」
「あぁ、言葉足らずでしたね。海洋しげんに関してはどこに埋蔵されているか恥ずかしながら我々も把握出来ておらずでして…。」
ここを掘れば良いという事は全く検討がついていない様だ。それに対して、自由という言葉が出てきたという事らしい。適当に掘って出てくればラッキーくらいのイメージなのであろう、だからそこはお任せというわけだ。
「しげんとは主に何を指しているのでしょうか?」
「良い質問ですね。しげんと言っても、レアメタルやエネルギー資源だけを我々は探している訳ではないんですよ。始原すなわち、物事の始まり、生命に関しても我々は探索研究をしています。終わりも…。」
「なるほど、なのでしげんが漢字で書かれていないんですね。」
「…、はは、そうですね。」
室長は何かを言いそうになった様だが、苦笑いしながらそれを誤魔化した。そして、一通りの話を終えた後に契約書にサインする様に俺たちに4枚ほどの紙を差し出した。
「これ…本当ですか?」
隼人が契約書を見るや否や声を上げた。隼人が見ている部分を俺も見てみると、もし、しげんを見つけた場合にはそのしげん価値に対して10%を契約者に対して支払うとの記述があった。
「本当です。ただし見つけられれば…ですがね。」
室長の意味深な笑顔はそう簡単に見つからないということを示唆していた。それもそのはずだ…、そんな簡単に見つかっていればこうは世の中なっていなかったであろう。
しかし、隼人はその一文のおかげもあり、かなり張り切っている。俺たち二人は契約書にサインして次の日から業務に従事することとなった。
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