パーティの後は
食後にケーキを食べながら、みんなでわいわい遊んで、時計の針も、頂点を指そうとしている。
余興でTRPGなんかをやったけど、あれがなかなか面白い。手間すらも面白いというか、自分たちで進んでいる感じがとっても楽しかった。
めいめいがパーティを楽しむ中で、それでも目立っていたのはクロエちゃんと、ルナちゃんだったと思う。
クロエちゃんはダウナーなギャルの目立つ格好をしてるのもあるし、なんたって学年一位の才女なのだ。主張が激しい方ではないけど、オーラがあって、立ってるだけで雰囲気があった。
一方のルナちゃんは、クロエちゃんと同じ名門お嬢様学校出身の女の子。
お姫様めいた可愛らしい見た目がいい。
ルナちゃんはクロエちゃんに向かってスマホのカメラを向けていた。なにやらアプリを起動してるみたい。
「くろえー」
「どうしたの?」
「なんでもなーい」
「なんだとこの!!」
「わっふ!」た
わっふ!って、すごい破壊力だよ。
彼女たちはそのまま二人でじゃれあって、同じ画面を見ながら、加工がどうの、動画がどうのという話をしていた。
ルナちゃんはふわふわとして、どこか掴みどころがない。
いたずら好きの、蠱惑的な後輩気質。自分がかわいいことを、自覚した振る舞いをする。実際可愛いので始末に負えない。かわいい人の可愛い振る舞いで、最強に見える。
なにより彼女たちが目立つのが、幼なじみという点だ。私達は新入生。いきなり寮で共同生活をしだした八人。
だから、みんなどこか遠慮がある。私とメリナも基本的には全然話さない。ただこの二人は、最初っから関係値がMAXで、付け入る隙がない。誰とでも仲良くしたい私としては、歯がゆく思ってるところだ。
「じゃあそろそろ片付けて寝ようか」
「そうだね」
アガサちゃんの号令で私達は片付けを始める。食器、グラスなどを洗ったり、まとめたりしている内にその事件は起きた。
「わっ!!」
「えっ」
ルナちゃんが手をついた時、グラスやコップ、食器等が載ってるお盆に手をついてしまって、そのお盆をひっくり返してしまった。
やばい!! おもわず落ちるグラスに手を伸ばした。
このままじゃ、落ちる......そう思った瞬間、とっさに私は目に力を入れた。
「あっ」
辺りが遅く見える。1、2、3......グラスの数は全部で六個。この量ならいける。とくに根拠はないのだけれど、私はそう確信して、ゆっくりと地面に落ちるグラスを前に私もまたすぱぱ! と手を伸ばした。
はっ! せいっ! とりゃ!!
しゅっ、しゅっと手を伸ばして、グラスの脚を指の間に挟んで、なんとかグラス同士がぶつからないように手の中に収める。そして取ったグラスで、フォークやナイフを救い上げた。
全ての食器を、地面に落ちる前に空中でキャッチすると、体操の鞍馬の後みたいに、前かがみで静止の姿勢を取る。
「よしっ!!」
思わず声も出る。
良かった、一つも割らずに済んだ。ほっと一息ついた。
「コゼットちゃん!!」
「コゼット!? 今すごい動き方してたけど」
クロエちゃんとルナちゃんが反応した。どっと拍手込みの歓声が上がる中、ただ素直に内心ほくそ笑んでるかと言われれば、そうではない。冷や汗をかいて、顔をあげられずにいた。
「すごかったね。よくやったよコゼット」
「そうっすねえ、割ってたら怒られるとこでした」
「人間技じゃなかったよ今の」
みんな口々にそう言った。
この目は、見られてない? みんなの反応的に、なんとなく気がつかれていないと思う。
きっとそうだ。今、目を見られなければ、なんとか悟られずにいけるかも。
「ごめん、飲み物が目に入ったかも!」
そう言って、私はグラスを全部机に置くと、目をつぶって洗面所へと離脱する。
「洗面所そっちじゃないよ」
前が見えないから、がんがんと壁にぶつかりながらたどり着いた洗面所で、はーっと大きく溜息をついた。
大丈夫。きっとバレてない。バシャバシャと水を出して、鏡の中の自分と目が合った。
「うん」
目はいつもの冴えない目だった。魔力の欠片もなく、ただ単純に、そこにあるだけの目。
大丈夫、これならきっと、なにも言われないはず。
「こぜっとちゃん?」
洗面室の扉がガーッと開いて、ルナちゃんの不安そうな顔を鏡越しに見た。
「大丈夫だった?」
「うん平気」
「ありがとう、コゼットちゃん。グラス、割らずに済んだ」
「うん。全然大丈夫だよ」
私は彼女に向かって、平気だよー、とにこにこする。
「ガラスが割れてルナちゃんが怪我したりしたら、私嫌だからさ。そんなことにならずに本当に良かったよ」
これは私の素直な気持ちだ。ルナちゃんが怪我をしてたら、きっとパーティは台無しだった。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ〜」
......
ルナちゃんと二人で会話しちゃった。ただまあ、なんだか嬉しい。
クロエちゃんとルナちゃんの二人だけの世界に、ちょっとでもコゼットという人間が入り込めたなら、それは喜ばしいことだと思う。私も部屋に戻らなくちゃ。
****
メリナが寝ているだろう暗いプライベートルームで、私は音を極力立てずに、布団へと忍びこむ。今日はいろいろと楽しかったけど、それでも精神的な摩耗の多い日だった。
「はあ」
「なんでため息なんてついてるの?」
暗闇の中の布団から声がする。
メリナの冷たい声だ。
「起きてたんだ」
「うん。なんかお腹いっぱいで、眠れなかった」
「そっか」
まああんだけ食べてたら、寝るのも難しいか。
「それに、人前が苦手だから避難してきただけだしね」
彼女は寝返りを打って、真っ暗闇の中、布団の中でするすると生足の擦れる音だけがする。
なんだかえっちだ……いやいやいや、邪な考えを振り払って、私も目深に布団を被った。
「まあでも、たまにはああやって、騒ぎながら食べるのも悪くない」
「そうだよ。メリナはもっと、人に混じりなよ。そのほうが楽しいよ」
「いやいい」
私はそれ以上追求しなかった。彼女には彼女のペースがあるんだろう。それに、メリナは人と話さなくてもいいくらい強い女の子なんだ。自立していて、一人でも立っていける人。
「おやすみ、コゼット」
「おやすみ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます