第42話 お約束
幼い頃から
一度見たことは忘れない。それが特別だと気づいたのは、随分と後だった。
――瞬間記憶能力。
「クロエ、100点」
眼鏡をかけた試験官の女性が、嬉しそうに言った。
だけど私は不愛想にそれを受け取る。
筆記テストなんて何の意味もない。
記憶を思い返し、それをただ書き写すだけ。
そこに喜びはない。
「凄いねクロエは」
だけど私をいつも褒めてくれる男の子がいた。
綺麗な黒髪、聞けば島国からきているという。
そんな遠くから、こんなことをされて可哀想だ。
私の実技は、いつも散々だった。
たいそうな能力もない。
なのになんで、こんなところにいるんだろう。
「一緒に組まない?」
するととある試験で、その男の子に声を掛けられた。
実技は最下位に近いのに。
「どうして私なの?」
「このテスト、二人でやったほうが早いからね」
「でも、それって……反則じゃないの?」
「そんな事言われてないよ。ただクリアすればいいだけだし」
確かにそうだ。でも、後で怒られるかもしれないと思って身体が動かなかった。
けど、彼はニカッと笑う。
「大丈夫。何かあったら、僕が責任持つよ。――知ってる? 黒は何でも覆いつくせるんだ。だから何かあったら、全部まとめてやっつけるよ」
「……わ、わかった」
それから彼は、いつも私を気にかけてくれた。
落ちこぼれなのに、それでも。
「ローザ、クロエ、みんなで力を合わせよう」
ああ、なんて素敵な人なんだろう。私は将来、この人と結婚したい。――日本、いつか、いけたらいいな――。
◇
「な、なんでクロエが日本に!?」
「違います。今はジョーヌです」
「えーと、そうか。フランス語でイエローはジョーヌだったっけ」
「はい! 約束通り、日本へ来ました」
「約束したっけ……?」
「はい、心の中で」
「どいうこと!?」
クロエことジョーヌは、俺が海外にいたときに仲が良かった女の子だ。
けど、そん時は凄く小さかった。
身長も低くて、大人しくて。
今はもうなんというか、たゆんたゆんだ。
白いふとももが見えているし、これは確かショートパンツだっけ。
髪の毛も黄金のように綺麗だ。
「なんでそんなに日本語上手なの?」
「あなたの為に覚えました」
「ジョーヌ、ブラック様が困っていますよ」
「困っていません。私はブラック様の頭脳です」
彼女は記憶力がいい。おかげで、色々助けられた。
「で、本当に日本に来たのは俺のためなの?」
「はい」
「ジョーヌ、近いですよ。ブラック様にたゆんを押し付けないでください!」
「な、喜んでるもん! せっかく大きくなったのに!」
「う、うーん。どうしよう、なんか凄い事になってたな」
そして、お約束かもしれないが――。
「ミリストリア・クロエ・ジョーヌです。フランス人ですが、日本語も話せます。――黒羽黒斗さんとは海外でのお友達でした。一緒のクラスになれたことを嬉しく思います」
ジョーヌが、たゆんっと挨拶をした。
「どういうこと、黒斗」
「黒羽くん、これはブラッシュシュヴァルツ緊急会議が必要です」
「「これもまた……世の理、ということか」
さて、どうしよう。
そろそろ話さないといけないな。
――ブラックルームのことを。
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