杪夏(びょうか)

芥山幸子

ハカマイリ

「夏って、嫌いだなぁ。」

そんなことを言わないでよ、俺だって夏が来なければきっと君のことなんて思い出さないからさ。

目の前の小さくなった両親の背中と揺れる手に持った提灯が見える。うだるような暮れの暑さをぼんやりとした目で歩いていた。空の色も、帰らなくなったあの声も、はっきりと憶えてた。

生い茂る木々の傍に遠く幻の君が見えた。風が誘った香りに釣られて、何度も願いながら勿忘の花を手向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

杪夏(びょうか) 芥山幸子 @pecori_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る