第28話 届かない愛

 天空界で開かれる就任の宴にて、初めてルナリアと出会った。


 それまで噂では聞いていたが、ひと目見て雷が落ちたような衝撃を受ける。


(なんて綺麗な女性だ)


 透けるような白い肌に、サラサラの髪は白とも銀とも言える淡い色で、ともすればそのままに消えてしまいそうな、儚さと清廉さを感じる。


 けれどその紫の瞳は弱気な表情に似つかわしくない強い意志を感じる。


 会う前から抱いていた嫌悪など一瞬で吹き飛ぶくらい可憐で、僕好みの女性だ。


(あのソレイユと本当に血が繋がっているのか?)


 到底信じられない、それこそ他人同士としか見えないのに。


(ソレイユを義兄とは認められないが、ルシエル殿ならば義兄として尊敬出来ますね)


 そう考えればまだ納得が出来る。


 挨拶をし、話をし、どうにか口説こうとするのだが、ソレイユが邪魔をしてくる。


 それを見て緊張してしまったのか委縮するルナリアを庇う為か、ルシエルも僕とルナリアが近づくことを阻止してくる。


 そのような所に父と天上神様が来たのだが、父は僕とルナリアの結婚を後押ししてくれた。


(父の目から見ても彼女は海王神の妻に相応しい女性という事だろう)


 僕は嬉しくなった。


 父は意外と厳しく、今まで妻となる女性を認めてくれなかったのだが、ここに来て意見が一致するとは俄然自信が湧いてくる。


 なのに、彼女はソレイユと恋仲でそして二人で手を取り合い逃げようとするなんて。


(最高神達を相手に逆らい、逃亡まで図るだと?)


 それがどれ程愚かで、そして絶望的な事だという事に気づかないわけがないのに。


 ソレイユもルナリアも天上神の子で一番身近で見てきたはずだ。

 上位の神に逆らうのはただ死を招くだけだと。


 ルシエル殿の攻撃で空へと投げ出されたソレイユは、力を奪われ地上にまで墜とされた。


 この状況で生きている事などあり得ないだろう。


 半狂乱になり、泣き叫ぶルナリアを見て、悲しみと怒りが沸いて来る。


(このようになる程ソレイユの事が好きなのか)


 ソレイユが羨ましくて、そして妬ましい。


 ここまで想ってもらえる事も、そんな相手と出会えたことも。


(もしも最初に会ったのがソレイユではなく、僕であったらきっと結末は違っただろう)


 あの視線も愛情も一心に僕に向けてくれたかもしれない。


 なのに彼女は自分以外の男に惚れており、しかもその相手が異母兄とは。


(なんという事だろう)


 愛憎入り交じる感情に、どうしようもなく心が乱れる。


 彼女が自分を向くことがないなんて、諦められない。


「リーヴ、俺様はお前の気持ちがよくわかる」


 心を読まれたのか、突如父がぼそりとそんな事を言って来た。


「だから任せろ。欲しいのなら奪えばいい」


 奪う……?


 今までそのような事をした事はないのだが、それは自分がそのような事をする必要がなかったからかもしれない。


「欲しければ奪えばいい。それは力あるものの特権だ」


 そうなのか?


 けれど父様がいうのならそれは真実なのかもしれない。


 父はそうして今の地位を築いてきたのだろう。


 不穏さは感じるが、ルナリアを欲しいと感じた気持ちに偽りはないし、父の言う事ならば間違いはないだろう。


「一生大事にします」


 偽りない言葉を述べ、父の采配に任せる。


 僕の言葉を聞いた父はすぐさま天上神様とルシエルに交渉という名の脅しをかけ始めた。


(一体父様はどう言った秘密を握っているのだろう)


 父は常々情報は大事だとは言っているが、自身が掴んでいる情報を僕に教えてくれたことはない。


 内容についてはたとえ息子だとしても教えては貰えないが、僕も自分なりに情報は集められるよう周囲の者に気を配り、着実に味方は増えている。


 けれども対等に話せる相手まではなかなか現れない。


 だからソレイユを憎く思うのかもしれない。


 僕よりも地位が低いのに、部下に真の意味で慕われ、兄弟仲も良い。


(僕の弟など、僕になり替わろうとするものばかりなのに)



 境遇や地位は僕の方がいいはずなのに、ソレイユの方が恵まれて見える。


 そこが腑に落ちず、顔を見ると苛々してしまうのはそのせいかもしれない。


 だからこそよりルナリアを欲するのかもしれない。


(ソレイユが手に入れられなかったものが僕の手に)


 愛する気持ちに偽りはないけれど、その事も原因かもしれないな。


 心の中が優越感で満たされていく。





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