知能最強な僕なら百合カップルを作るのなんてヨユウだろ!
まがた しおみ
プロローグ
プロローグ
夕刻の廊下に、た、た、た、という足音が響いた。軽くて、洗練されておらず、いかにも一生懸命な感じだ。女の子だろう。こちらに向かってくるようだ。
僕は踊り場で、鞄の中に探し物をしているところだった。ちょっと人に頼まれて、放課後にそれを持っていかなければならなかったのだけれど、念には念を入れてと確認してみると見当たらなくなっていることに気がついたのだった。
普通ならつい先程まで時間を潰していた図書館や、あるいは教室の自分の机に戻って探すところだ。けれど気の乗らないその頼みには、誰にも知られずに、というおまけの注文までついていたので、鞄をひっくり返すだけでどうにか済まないだろうか、と祈るような気持ちで手のあちこちを教科書の硬い角にぶつけていた。
そういうときに足音がした。
僕は手を止めて耳をすませた。止まる気配はあるのか、上か、下か。
どうやら上、つまり三階から来るようだ。
これは奇怪なことであった。なぜならこの校舎は三階建てで、三階部分は隣の校舎と繋がっておらず、なおかつ三階の入口は僕の立つ階段と、廊下をはさんで反対側の階段の二つだけだからだ。向こうの端にある情報教室は十六時半に閉まることになっているし、そこからこちらに向かってズラリと並ぶ高校一年生の教室に誰もいないことは、廊下を歩いたときに確かめてあった。
つまりこの女の子は、わざわざ三階までやってきて一心不乱駆けているのだ。
上か、下か、今度は僕の番だ。
鞄を閉じて肩にかけ直した。面倒ごとを押し付けてきた先輩への言い訳を考える。一つ、二つ、三つ。それと同じだけ階段を上ったところで、角から人影が飛び出した。
僕の思った通り、それは女の子だった。階段が暗いせいで顔はよく見えないけれど、肩ほどの髪が乱れに乱れている。
僕を見ると彼女は立ち止まって膝に手をつき、はあ、ふう、と息を整えた。
「ねえ……、あなた、さっき……」
「僕?」
ぎょっとしながらもそう言って、残りの階段を上った。僕を追いかけてきたというのは予想外だった。心当たりが全くない。こういうときは言葉を少なくして相手の出方を伺うのが得策だ。
そう、と彼女はうなずいたが、その声は荒い息にほとんどかき消されてしまっていた。
「さっきって?」
よほど急いだのか、彼女はまだ俯いている。
けれどもうすでに彼女が誰なのか察しはついていた。同学年の子だ。汗で貼りついた髪を払うその仕草に見覚えがある。高校一年からの編入生で、入学時から学年一との呼び声高い美少女であった。
僕と彼女のあいだに面識はないはずだ。
「あなた、さっき」
ようやく顔を上げられた彼女はそう言った。僕の思った通りの子だ。
「図書館にいたでしょ?」
「うん」どうするか迷った末に付け加えた。「二、三分くらい前に」
すると彼女はほっとした表情になって、一冊の本を差し出した。
「忘れ物じゃないかしら。あなたの隣の席にあったの」
僕は本を見、彼女の顔を見、もう一度本に目を落として、違う、と言った。
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