奇跡の音

雨坂 絃

はじまり

 目を覚ますと朝になっていた。ベッドの上で考え事をしていたら寝落ちしてしまったらしい。仰向けのまま視線を横に向ける。そこには深く布を被ったグランドピアノが鎮座している。この景色を見るのは何回目だろうか。あんなにピアノが好きだったのに。かつての私からはとても想像できない。


 ピアニストの両親をもつ私は物心ついたときにはもうピアノに触れていた、いわゆるサラブレッドだ。出産を機にピアニストを引退した母親と一緒にピアノの前に並んで座り、連弾していた。

父親は私が生まれた後も世界中を飛び回っていたからかあまり父との記憶はないが、偉大な父であることは幼いながらにも思っていた。

そんな私は幼稚園のころから毎日家で練習を重ね、世界的に有名なコンクールで金賞を次々と受賞し、「天才ピアノ少女」「ピアノ界の神童」とピアノ界に名を轟かせた。時には両親のことで、特に当時父が現役ピアニストであったためにプレッシャーを感じることもあったが、母親は「自分らしい演奏をしなさい。周りから何と言われようと絶対に自分を曲げちゃいけないよ。」と鼓舞してくれたことで自分らしい演奏をすることができた。しかし、その生活が一変した。

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