第2話 まだ死ねないようです


 —俺は死んだ?


 意識が少しずつ覚醒していく。


 目を閉じていても外の明かりが感じられる。


 —ここは天国かな、


 対して徳を積んでいないくせに図々しいことを考えながら重い瞼を持ち上げる。


 目に映ったのは、光を放つ大きな球体。

まるで太陽のようだ。


 —精神と時の部屋よりも置いてあるもの少ないな。


 「これまた変な奴が来たな。」


 少し不満げな声が何もない空間に響く。

 

 「っ誰だ?」


 そう叫ぶと、何もなかった空間にヒビが入る。

 そこから小学生ぐらいの女の子が顔を出した。


 「おにいさんだぁれ?」


 先ほどの凛々しい声と違って可愛らしい声が響く。


 「ベル、名前を聞くのなら自分の名前を言ってからだろ?」


 初めの声と同じ凛々しくも透き通っている綺麗な声。顔の彫りが深く、鼻筋が綺麗なスレンダー美女が先ほどの少女に続いて現れる。


 「ごめんなさい、ユリ-カ。すっかり忘れちゃってたわ。それでは改めまして、私の名前はリリベル。ここで選ばれし者に力を与える者、大天使リリベル・ティンカーベルよ!!」


 ドヤ顔でポーズまで決めている。

 可愛らしい子だと思った。


 「それじゃあ、あなたの名前はなんていうの?」


 「——ああ、俺の名前か。俺の名前は佐藤栄介。普通の高校生だ。ところで、」


 「普通な奴はここに呼ばれねーよ。ここには絶対神ブラスト様に面白い思想を持っていると認められた人間しかこれないようにされてんだ。」


 俺が話し終えてもいないのにもかかわらず割り込んできやがった。


 さっき名乗るなら自分からとかいっておきながら、自分の方が礼儀がなってないじゃねーか。


 口に出さなくても嫌味を言われたことを忘れてそんなことを思うとスレンダー美女はこちらを親の仇を見るような目で睨んできた。


 「お前いい度胸してるな。貧相な見た目のくせに。」


 初対面なのに酷い言いようだ、否定できないが・・・・


 何か言い返そうかと思ったがルックスが綺麗すぎて言い淀んでしまう。


 「ほぉ、貧相な割には見る目だけはあるな。褒めてやろう。褒美に私の名前を教えてやる。我が名はユリーカ。そこのチビの世話役兼愛の女神ユリーカ・マテリアルだ。しっかりと覚えておけ。」


 図々しく礼儀のないような奴が愛の女神か(笑)

 世も末だな。


 「お前、本当に身の程知らずだな。ここで殺してやろうか?」


 血管が額に浮き出ている。怖すぎだろ。


 「すみませんでした。」


 威圧感に負けて頭を下げる。


 「わかりゃいんだよ。」


 「ユリーカ、栄介にキツくあたりすぎだよ。愛の女神らしく優しくしなきゃ。」


 「そうか?でもよ、身分わきまえてない奴にはこのぐらいがちょうどいいんだよ。なぁ、お前もそう思うだろ?(威圧)」


 「イエスマム( ̄^ ̄)ゞ」


 「ならいいけど・・・・まぁそんなことより今回は栄介が望む夢を叶える力を一つだけ、与えてあげるっていうのが目的だから。先にそっちをすませようかな。」


 それは何気ない言葉だった。


 無論、栄介はそれを聞き逃さなかった。


 俺の叶えたい夢など一つだけ。


 ——ラブコメディを終わらせないこと。


 どんなに願っても叶わなかった夢。


 誰にも認めてもらえなかった夢。


 そんな夢を叶えることができる力が与えられる。


 「急でごめんね。じゃあさっそく、聞くまでもないかもしれないけど、どんな力が欲しい?」


 「そりゃあもちろん、ラブコメを終わらせないための力。その物語に干渉する能力を俺にくれ!!!!」


 「おっけー。それじゃ次起きたらそうなってると思うよ〜。」


 「よし、これでこいつにもう用はないだろ。元の世界に返してやれ。一応こいつにも家族はいるからな。心配するだろ。」


 初めて愛の女神らしいこと言ったな。


 「ん〜。それもそっか。一瞬だったけど楽しかったよ。また会えたらいいね、バイバイ。」


 すると、体が急に熱くなる。だが、すぐに熱は冷めた。


 その代わりに急激な眠気がおそってくる。


 俺はその眠気に身を任せた。




 そして、ルルベルの別れの言葉を最後に視界が白に支配された——

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう2度と終わらせないラブコメディ 勘違い症候群 @saikopa315

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る